ザ・コード・ケーブル・カンパニー、技術開発担当取締役

Nigel Finn

ナイジェル・フィン

イクリプスを選んだという事は「HiFi」ではなく「音楽」を聴く事を選んだということ。

イクリプスを知った切っ掛けはどんなものでしたか?

Nigel:2001年のロンドンHiFiショーだ。512のデモンストレーションだったね。結構大きな特設部屋で、音のスウィートスポットにスタイリッシュな赤いレザーのソファーが1脚置いてあるだけ。それを見ただけでデモの意図が明確に感じられるようなインパクトのあるディスプレイだったね。

日曜日の空いた時間を狙っていったので、じっくり聴くことが出来たんだが、高域がキラキラした音だった。使っているケーブルがとても細い銅線のものだったのでどうしてそう言う音がするのかはすぐにわかったので、展示スタッフに「僕のケーブルを使えばもっと良い音で再生できるはずだ」と言ったんだ。

それはともかくとして、音を聴いた瞬間に素晴らしい可能性を直感したよ。実際に仲間内では「あれ、聴いた?」と噂になったしね。

その後は色々な所で見聞きしていたけど、しっかりと自分の環境で聴いたのは2007年の暮れ頃。20年来の知人がイクリプスUKのスタッフになったのが切っ掛けで、彼がウチに当時のハイエンド・モデルのTD712zを持って来てくれたんだ。

音を聴いて、どうでしたか?

まず強い印象を受けたのは信じられないくらいのコーヒラントさ、スピード感、そして音のレゾリューションの高さの素晴らしさだ。自分たちと同じことを目指していると共感したよ。

CHORDが心掛けているのは、音の全てのエッセンスを出せるような正確なケーブルを作ること。つまり、音のスモール・ダイナミクス、性質など、聴感レベルではとても小さなものを含めて全てのエッセンスを捉えてそのまま伝えられるようなものを作ることだ。こうした音の小さなディテールは実はとても重要で、それは例えばアーティストの息づかいだったり、ちょっとしたニュアンスだったりするけど、これらのインフォメーションが聞こえる事でただの「音」がどんどん「音楽」になっていくんだ。

イクリプスの真骨頂はこのスモール・ダイナミクスを聴く事が出来るその性能にある。

これはCHORDがケーブルを開発する上でとても役立つことでね。素材、素材の大きさ、ラミネート方法、シールドの有無と方法などを変えると、イクリプスではその違いを如実に聞き分ける事ができるから助かっているよ。

イクリプスの音質面で望む事はありますか?

Nigel:HiFi業界的なマーケティング的見地で考えるとスーパー・ツィーターを付けてみる事かな。「シングルドライブだから・・・」という目で見られて、音も聴かないのにそれだけ判断されてしまっているのが見ていて歯がゆいよ。

音量はどうですか? シングルドライブの宿命とも言えますが・・・

もっとあれば良いな、とは思うけれど、実生活には必要ないので今のレベルで十分。逆に音量を大きくするために、今ある素晴らしい性能をなくして欲しくない。

イクリプスの素晴らしい性能の一つに低音量でも音楽が楽しめるということがあるのを忘れちゃいけないよ。たとえボリューム・レベルが0.1でも音楽を楽しめると言う性能は他では見つけられない特筆すべきモノだからね。この性質を見ていない、わかっていない評論家達もいるけど、プリンシプルを守る事、なくさない事は重要だ。

面白い事があるんだ。

職業柄、自分の所には色々なメーカーから世界で最高と言われるようなシステムが届けられて、色々なものを聴く機会がある。それらを自宅に持ち帰ってHiFi好きではない、音楽を好きな人やそうでもない人など、普通の人達に音を聴いてもらって一般の反応を見るのが興味深いんだが、そう言う人達は、例えばクルマを買えるような価格のスピーカーやアンプ、CDプレーヤーを聴かせて価格を教えると「ありえない!」と笑い出すんだ。でもね、イクリプスを笑った人はいままで一人もいないんだよ。音も、見た目も、みんな納得するんだ。それって興味深いと思わないかい?

イクリプスの良さを活かすケーブルとはどんなものでしょうか?

それはCHORDの全てのケーブル(笑)。これは冗談ではないよ。イクリプスと同じように、音の全てのエッセンスを正確に再生する事をフィロソフィーにして作っているからね。価格は上から下まで色々あるけれど、その価格帯で出来うるベストの素材と構造で作っているので、どのモデルも合うはずだ。

一般論を言えば、ケーブルで音をより良いモノにしていく方法は、自分が買う事の出来る価格で可能な限りベストなモノを使うことを念頭に、常に「Weakest Link」を改善していく事に尽きるね。ケーブルの価格は、素材の材質とクオリティ、製造の手間に直結しているから、高価なものほど一つ一つの材質や構造の純度が高くなると言えるわけだ。ケーブルの芯線をラミネートすることを例に挙げると、テフロンはシリコンよりも性能が良いが、その分、作業が難しく価格も高くなってしまう。

CHORD社の開発コンセプトを教えて下さい。

「いくつ作るか」ではなく「いかに良いモノを作るか」というのが我々のコンセプトだ。

英語に「Don’t throw the baby out with the bath water.」という言葉がある。要は「進化する課程において良い事はそのままキープしろ」ということだ。

音にはダイナミクス、リズム、マイクロ・ダイナミクス、音質という要素があって、これら全てをより正確に再生することを目指している。対してケーブルの開発には素材、構造、インシュレーション、シールドの要素があって、これを一つ一つ実験し、開発していく事で理想の音の再生を追求するわけだ。この課程において、常に今ある良い事をキープしながら進化していかなければならないし、そうでなければ意味がない。

世の中の全ての事がそうなように、ケーブルの開発の世界でも、一つのアクションが良くも悪くも音に影響を及ぼしてしまう。

例えばコンダクター使いも並列で使うのとねじって使うのでは音が変わる。マテリアルでは、素材をそのまま使うのと鏡面仕上げに磨き上げてから使うのとで音が変わってくる。そういう一つ一つの要素についてトライ&エラーで進歩していかねばならない。各部分のこの小さな改善が合わさる事で大きな進歩になっていくわけだ。

今回のプロモーションで作って頂いているCarnival Silver Screenスピーカー・ケーブルの特徴について聞かせて下さい。

「ハイエンド製品で培った要素を用いてリーズナブルな価格でベストの製品を」というコンセプトのもと開発されたスピーカー・ケーブルだ。英国の主要HiFi専門誌「What HiFi Sound & Vision」では、2008年から今年まで3年連続で「年間ベスト・スピーカー・ケーブル大賞」を受賞している、とても人気のあるケーブルだ。

CHORD社の今後の展開は?

今ある製品のラインナップがベストだと思っているが、それでもさらなる進歩のための開発を進めている。

ビジネスの面では、高評価を得ているリーズナブルな価格の製品を、未開の地域で広く販売して、より多くの人達にCHORDケーブルの素晴らしさを伝えたいね。

イクリプス・ユーザーへのメッセージをお願いします。

イクリプスを選んだという事は「HiFi」ではなく「音楽」を聴く事を選んだということ。そんな皆様の音楽を聴く楽しみが、私たちのケーブルによってもっと大きくなる事を祈っています。

近い将来、イクリプスのためにスペシャル・モデルを開発するなど、ワクワクするようなアイデアがあるので、どうぞお楽しみに。

profile

ナイジェル・フィン (ザ・コード・ケーブル・カンパニー、技術開発担当取締役)

1956年生まれの乙女座。6歳の誕生日にレコードをねだる音楽早熟な幼年期を経て、英国60年代のミュージック・シーンの真っ直中、バンドでベースを弾く青春時代を過ごす。

バンド時代、スタジオでヴァイオリンを録音した際に、プレイルームの生音とミキシングルーム内での再生音の違いに疑問を持ったことが、「正確な音を再生する」という現在のケーブル作りのコンセプトの礎となっている。

「Sound is sound, not music」をフィロソフィーに、日夜ケーブル試作に励んでいる。