イクリプスTDユーザーリスト

Vol.02 自分のスタジオを持っていてよかった/オノ セイゲン ( レコード制作家、作曲家 )

録音もミキシングも8トラックだけ。

収録はたった2日半なのに今回のミキシングには1ヶ月以上もかかりました。毎日やっていたわけではありません。いろんなことを試行錯誤しているうちにかかってしまったのです。一度できたと思ってプルーフのCDRを聴いているうち、EQしてみた部分をやはりもとに戻すためにまた最初からとか。普通の仕事では予算とスケジュールがここまで許されないでしょうが、自分のスタジオを持っていてよかった。DSDを扱い始めて7年かかってようやく思い通りになった気がします。収録にしようした「GENEX8500」からソニーの「SONOMA(DSD Audio Work Station)」(注釈)に8トラックのデータを移すところからやり直しました。そしてインナーにクレジットしてあるように、5曲でコルグの「M3」キーボード、1曲で12弦ギターが加えられ、1曲でヤマハ「O2R96バージョン2」による「サラウンドポストパッケージ」でしかできないイフェクトなどが加えられています。

今や世の中では48トラックは当たり前、映画では300トラック録音などすごいことになっていますが、8トラックのDSD DAWで5.1chサラウンドなのにここまでできる!ということの証でもあります。8トラックでダビングを重ねていくにはバウンス(注釈)したり、ある程度まとめてから編集して、その上からさらにダビングしたりと簡単に戻れない複雑な行程になります。が、それによりその行程ごとに決断しなければ次に進めない状況になります。決めていくことにクリエイティビティを感じます。「あとから変更したい時、どうするんですか?」と聞かれますが、変更という選択はありません。最初のレコーディングからやり直しという選択はある。ライブと同じです。すべての音をバラバラに録音して、すべての可能性をミキシングまで残して、どんな変更にも瞬時にできるのが最近のPCでの作り方ですが、こういうやり方もあるということ。と言いながら1ヶ月以上かかっているわけでどちらが正論か判りませんが…。「ミックスやマスタリングであとからどうにでもなるよ」というのはウソです。

2、3次反射の捉え方と響きの補い方は?

収録時にスタジオ内に、ソニーの「サンプリング・リバーブ DRE-S777」(注釈)による1in4outの48KHzモードで4方向から響きを加えています。4つの無指向性スピーカーをスタジオの四隅に設置して、リバーブをつけたい楽器のそばに専用のマイクをセットします。
今回のミキシングではさらに1in2outの96KHzのモードで同時に3台使用してより緻密に補いながら空間を再構成しています。実際のスタジオ、会場の反射音と響きに、ムージック・フェラインザールなどの空間の響きを重ねることで、5本のマイクで捉えきれない方向、特に真横や真後ろ方向を補う意味でも極めて有効でした。ホールの響きだけでなく、スタジオなどの床面、壁面などの反射音だけを付加することにより立体感を作り出すこともできます。この場合、その音だけ単独で聴いて、オン/オフが判るぎりぎりのレベルでちょうどいい具合です。結果的にはマッチングのよいプログラムの選択、残響時間などの微調整がとりわけ重要で、リバーブの消え際が際立つだけでなく、空間はより遠くまで見えるようになりました。

5.1chサラウンドと2chステレオ

レコーディング時は、サラウンドでダイレクトに5.0だけでモニタリングしながら、演奏を8トラックのDSDにスタジオ・ライブ収録されているわけですから選択の余地がありません。サラウンドも2chステレオもメインの5本のアンビエンスと残り3トラックとの距離補正は共通で、ただしμSecの単位でかけています。たった8トラックの「SONOMA」上で12弦ギターや2ndキーボードの追加のダビングをしていくにはモニター方法などでパズルのような組み合わせが必要です。グロッケンやLFEチャンネル(注釈)だけに入れた低域など同時のライブ演奏だけではできなかった部分を作曲家という立場で完成させることができました。サラウンドのミキシングでは、すでに収録時の5.0に入っている響きのほんの少しのフォローのために96KHzのサンプリング・リバーブを3台使用することで、高さ方向まで空間を感じることができます。また横と真後ろの遠く方向はこのような繊細なフォローは効果的です。空間定位を精密に追い込んでいく作業にEclipseTDは最適なスピーカーです。(ただしライブ収録時のスタジオなど大音量では使用せぬこと。)

5.1chサラウンドのミキシングと並行して、1曲ごとに7.1ch用の8トラックに、リバーブなどの音の処理済みの編集をキャプチャーしています。これは機会があれば「PS3」+ブルーレイで176KHzのディスクリートの7.1chを再現してみたいと考えています。 もともとは隠してあった3トラックには楽曲により、ヴィオラ、チェロ、アコースティック・ギター、サックスなどがアサインされており、楽曲によっては1音ずつアーティキュレーションを演出しています。ミキシング時にはほとんどEQは使用していません。収録時のコンソールはオールド・ニーヴですから改めて音色決めは不要で、素材は収録の段階で充分に音作りされています。

2chステレオは、7.1chの8トラック(すでにプリミキシングされている)から、ダウンミックスにより作りました。後方に位置するピアノは前方奥に、空間表現よりも楽器の演奏ディテイル、表情は見えたいですからあえて後方(2種類で4トラック)のアンビエンス成分は大きく減らしています。その時点で前方の(つまり2chステレオの)パンニングの考えも変わります。アナログ・マスターにもミックスしてPMCDまで作成してみましたが、こちらはDSDミキシングの方がかなりの差で新鮮です。つまり「マリア・アンド・マリア」は、サラウンドも2chステレオもフルデジタル(DSDレコーディング→DSDミキシング→DSDマスタリング)です。CDレイヤーは、さきほどと同様のプロセスでSACDステレオのDSDマスターから作成しました。

「アット・ザ・ブルーノート東京」のミキシングでは、
オーバーサンプリングの重要さを再認識しました。

こちらは、文字通りライブハウスでの収録で、まだマルチのDSDレコーダーがなかったので、当時まだ登場したばかりの「TASCAM DA-78HR」3台に48KHz24bitで24トラックに収録されたものです。こちらはライブドキュメントですから後から音を加えたり、差し替えしたりしていません。オリジナルのマスター素材が48KHzであるにもかかわらず視聴してくれたプロの方の何人かはこちらもDSD録音かと勘違いされました。

サラウンドでは、いかに48Kh24bitのオーディオをここまで遜色なくできるかでした。48KHzのファイルは、最初にすべて96KHzにアップコンバートしました。サラウンドの方はフルデジタル。48KHzの素材は96KHzにアップコンバートして「ProTools」上ではEQやプラグインを使用しないが、リバーブはやはり「サンプリング・リバーブ DRE-S777」を96KHzモードで3台使用。プラグインでも同様のソフトがありますがCPUの負荷の関係か明らかにハードの方がよかった。とりわけサラウンドにおいては、96KHzできちんと整合性のある空間情報を加えるということは、48KHzをそのままアップコンバートした以上に効果があります。つまり2次3次反射、残響によるグラデーション、響きの消え際まで奥行き、深さが加わるのです。これは収録した空間そのままよりさらに緻密な部分が、選択したプログラムから再現されるのです。

同じ音源なのにオーバーサンプリングによる繊細さの違いは「TD307ii」で顕著に聴き分けられます。さらにここでも手間はかかるのですが、若干の補正が必要なアンビエンスマイク(注釈)だけを別のバス(回線)に組んで、8バスを「Prism ADA8 DSD」で96KHzからDSDにアップコンバート(注釈)して「SONOMA」に移し、そこで初めてアンビエンスマイクにフィルターをかけます。あれは釣り糸で吊られていたんです。ポケットにその釣り糸を持っていたGaryさんアリガト。サラウンドのミックスではこの4本はすべてを支配しています。メーターを見てもらっても判りますが、バンドはほとんどフロントに居るのに後方も前と変わらないレベルで触れています。4本は100%にL/R/SL/SRにふってあります。さらにPAとも共通に使用しているスポットマイク全体との時間補正をかけて。これが重要なんです。ここから先は「SONOMA」でミキシングです。

またブルーノート東京の客席にも、これは世界初の試みでしたが、「サンプリング・リバーブ DRE-S777」を使用して立体的なリバーブを付加しています。楽曲により、コンセルトボウやカテドラルのような響きになったりして非常に効果的でした。つまり会場のお客様もまるでホールで聴いているように聴こえていたのです。無指向性のスピーカーとともに今では常設となっています。

また2hステレオのミックスの解釈がぜんぜん違います。サラウンドと同じく、96Kでフルデジタルで作ったミックスはどうしても迫力がない。考え方をリセットして、最初からやりなおしたのです。楽器のパンなどサラウンドとは整合性ありません。メイン楽器はステージ上配置に関係なくセンターにどんどんもってきたり、クリアネスをとるため思い切ってアンビエンスを下げて、むしろドライな仕上げにしています。ステレオでは48Kのまま、DAには、dB technology 4496を16ch分用意して、GMLのアナログミキサーでミキシング。さらに、いろいろ試したあげくに最終的に1/4アナログ(15ips/NNR)(注釈)を通したものを採用しました。

海外のECLIPSE TD ユーザーリスト

  • Ben Georgiades (U.K)
  • Clarence Penn (U.S.A)
  • David Heaton (U.K)
  • Gary Thomas (U.K)
  • Geoff Calver (U.K)
  • Jonathan Freeman-Attwood (U.K)
  • Kirsten Cowie Bmus (U.K)
  • Klaus Hiemann (Germany)
  • Michael Zimmerling (U.K)
  • Mike Ross-Trevor (U.K)
  • Randy Brecker (U.S.A)
  • Rick Pope (U.K)
  • Royal Academy of Music (U.K)
  • Simon Osborne (U.K)
  • University of Miami School of Music (U.S.A)
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