イクリプスTDユーザーリスト
正確にバランスがとりやすいTD307II
レジュメとして、5.1chサラウンドと2chステレオのミキシング〜マスタリングはそれぞれ別々に行っている。5.1chサラウンドではアンビエンスがメインでEQはなるべく使用しない。素材がPCM48KHzの場合は96KHz(以上の)アップコンバートが必須で、フルデジタルにこだわらずアナログ・ミックスも有効。DSDはそのままがよい。
モニタリングにはサラウンドのミキシングでは、TD712zを5本、TD725swを使用。できあがりの確認にTD307IIを5本、TD725swを使用。2chステレオへのミキシングは、TD307IIをメインモニターとして使用。7.1ch用の8トラックからダウンミックス。確認にTD712zを2本、さらにPMC MB1でも確認。
キャンペーンに「マリア・アンド・マリア」を起用いただいているから言うわけではありませんが、TD307IIの再生音は驚くほど正確です。精密なミキシングができます。色づけなく、苦労せずに。もしインパルス応答(注釈)を測定したらTD712zよりよいんじゃないかな?口径が小さい分だけ振動板が軽いからなんでしょうね。音量と重低音以外はパーフェクトですよ。小さいので手前に置くことになりますが、それが逆にその部屋の影響を最小限にしているのです。TD307IIで仕上げたバランスは後からPMC「MB1」で聴いても、TD712zで聴いても、他のどのスピーカーで聴いても全く問題のない仕上がりなのです。PMC 「MB1」などで大音量でできあがりを聴くのは楽しいものですが、繊細な部分をつめていく作業に必要なのは神経質なまでの正確さなのです。
低音もさっき言ったボヨ〜ンというのはでませんが、コントラバスとかホルンとか音程がとりやすいんです。つまりハーモニーやミキシングで楽器をどう配置するかという作業には最適です。
レコーディング・スタジオでは昔から大型のメインモニター以外に音楽のバランスや小型のシステムで聴いたときの印象を確認するために、ニアフィールド・モニター(注釈)を常設しています。古くはAuratone、その後つい最近までは、YAMAHA 10Mはある意味スタンダードでした。NYCのパワーステーションというスタジオでボブ・クリアマウンテンがYAMAHA 10Mのツイーターにティッシュをかけて高域の若干のアッテネートとディフューズした状態で、ヒット作品を多く作ったので世界中で流行ったんです。ただ、それらは決して細部にわたっての精密な音を再生するスピーカーではありません。繊細に聴こえすぎないところが好まれたとも言える。ロックでは細部の音場や空間定位より、エネルギーやパワー感がモチベーションですからレコーディング現場やミキシングでは、もちろん人によりやり方は違いますが、ある程度大きな音(90~110dB)でどんどん作業をすすめて行くことが多いのです。テープをマスタリングスタジオに持ち込んで初めてディテイルが聴こえると感動したものです。
TD307IIはそれとは違い、30cmくらいの距離で(70dBくらいで)聴く分には、音楽的情報量は大型のスタジオモニターに匹敵すると言えます。ただこんなに小さいですからパーティーのBGMなんかには使用せぬよう。逆に、ロックなどエネルギーやパワー感の必要な音楽とは本来100dB以上の大音量で聴くべきですが、さすがに家ではそれはできませんね。そういうときに70dBで同じ興奮が得られるのもTD307IIならではの特徴です。これは店頭でもできますから試してみてください。自分の好きなCDでTD307IIに20cmくらいまで近づいた位置で。ヘッドホンではこういう音はでません。
今までは5.0にこだわっていましたよね?このアルバムでLFEを入れたその想いは?
そうなんです。今までほとんど5.0でした。LFEを使用してこなかった理由は大きく3つあります。ひとつめは、まずITU(注釈)でLFEの位置の指定についての明確な規定がないのです。よくメーカーのカタログなどに低音は部屋の定在波に左右されるから、どこに置いてもよいなどと書いてあるのを見ますが、それは間違っています。定在波の影響を受けることは確かですが、前方のスピーカーでコントラバスやキック、あるいはピアノでもいいんですが、LFEにも入れる音源とWる場合に波面が合わないと櫛形フィルター効果で下手すると逆位相になると、足したい低音が逆に消えてしまいます。2つ目は、LFEのオーディオファイルの問題です。制作現場で仮にローパスフィルターをかけたLFEチャンネルを作るとして、そのフィルターで位相が遅れます。オーディオファイルのタイミングを修正することもできますが、その規定もありません。また再生側の機器のフィルター、補正のある機器、ないままの機器、さらにコンテンツとして入っているそのLFE自体の音量。これらすべてにルールがないんです。
この2つの問題の解決は先駆者に習えです。ドナルド・フェイゲンのエリオット・シャイナーのミックス、ボブ・ラディックやジョージ・マッセンバーグの仕事をよく聴くんです。それでLFEのレベルと位置を決めました。これはどんな職業にもあてはまることですが、まず最初にやるべきこととは、一流の人のまねをすることです。同じようにできることを目標とする。できればより短時間で精度の高い仕上がりを目指す。弊社のインターンシップ、アシスタントでも最初に教えるのは、掃除でもコーヒーの入れ方でもまず簡単なことから先輩のまねをして、できるようになった部分から任されて、それが彼の役割りになり段々難しいことに挑戦していけばよいわけです。しかもゲームのように楽しみながら。今の弊社のアシスタントは歴代のなかで一番、コーヒーは美味い。ケーブルの巻き方はまだ上手いとは言えない。サンプルCDの包装なんかは僕のが3倍速い。最終的にマスタリング・エンジニアを目指す若者もいれば、3年目でレストラン業界に転身していく子もいます。他人に勝る得意分野を仕事にすれば成功します。
そして3つ目の問題。ECLIPSE TDの宣伝のために言うわけではないのですが、TD725sw登場で解決というか、初めてLFEを使ってみたいと思いました。TD725swは、PA用も含めて今まで聴いたどんなウーファーよりも立ち上がりが早い。制動がよくかかっている。これなら使える!これは非常に重要なことで、ぼよよ〜んと余韻が残るようなスピーカーでは音楽になりません。5本のスピーカーと同じように駆動してくれないとキックやベースだけでなく、音がつながらなくなってしまします。ディレイなど電気的な補正を入れずにタイミング、位相、時間差の問題を解決する方法として、弊社のTD725swには底面にキャスターがついたワインテーブルになっており、基準の位置から、ソフトによって(LFEのタイミングがずれている場合は)リニアに距離を変えられます。グラスに注がれたワインもまったく振動しないTD725swは、自宅などでの使用においても結果的に階下や隣の部屋に音漏れがもっとも少ないサブウーファーです。
そのLFEはどのように使っているんですか?ポイントをいくつか教えてください。
おっ、なかなかマニアックな質問ですね。まさかLFEだけソロで聴くっていう人はいないと思いますが、まあこれから制作やろうという方や、調整には役立つかもしれませんので、お教えしましょう。まず、最初に申し上げておかなければならない重要なポイントですが、私のこの2枚のアルバムについてはLFEが全くなくとも、つまり5.0でお楽しみいただいても、自分の音楽として成立するように作られています。作曲家という立場での視点で。例えばコントラバスが6人のところを4人でも成立するように作ったということです。LFEは部屋の定在波などの影響を受けやすいのは事実で、LFEがないと成り立たないような仕上げは危険です。
えーと、LFEの効果的なリスニングポイントをピックアップしてみましょう。まず「マリア・アンド・マリア」はトラック3の2’30”〜低音。ドラムのキックにコルグ 「M3」を加えています。トラック4の最初のコントラバスのような低音はもとにはなかった。2chステレオには意図的に入れていません。そして曲中の低音はフロントのトラックからフィルターで抽出した低音と、コルグ 「M3」で作って足した音が混ざっていますね。トラック10のイントロはモナコの「モンテカルロ・バレー」の大きなリハーサルルームなんですが、子供が走ってくる音、ボールが転がってくる音がありますが、もし可能でしたらLFEをオフにして聴いてみてください。この5.0が収録したそのままの素材で、そのトラックからフィルターで抽出した重低音をさらにEQでデフォルメして、近くになったときにさらにレベルを動きに合わせてあげる。映画などではこういう効果を頻繁に使用しています。1、2、5、7、13はLFEは使用していない、5.0です。あ、それからLFEではありませんが、トラック3の2’45あたりにサラウンド・チャンネルにしか入れてないドラムもコルグ 「M3」です。これも2chステレオには入れていません。
「アット・ザ・ブルーノート東京」の方は、ダビングはありませんが、マルチからベース、ドラム、パンデイロ、ミュートトランペットの低音だけを使用する部分だけ抽出してLFEとして効果的に足しています。こちらもまったく無くてもなりたつ程度。
ECLIPSE TDの使い方
私なりのEclipse TDの特徴および使い方のポイントですが、
1:色づけされない。
ミキシングに選択する理由はこれにつきます。ほとんどのスピーカーは、キャビネットなり振動板の余韻なり、音声信号をそのまま忠実に、ではなく色づけされています。低音は、元の音が短く「ドッ!」だとしたら「ドンッ」あるいは「ゥド〜ン」と。高域はエネルギーを稼ぐためにも元の音が短く「カ」だとしたら「カン」とか「カンー」という具合に。このような響きが付加されると、元の音にはない歪みなのですがその帯域の振動板の余韻が空気を振動し続けるので、元の音にはない時間まで余震が残って結果的に、瞬間ではなく、その帯域の単位時間あたりの音量があがります。10ミリ秒と100ミリ秒という時間にわたって余韻をひきづってそれがカラーとなっているのです。またそのようなユニットでは1ミリ秒で見れば立ち上がりは逆になまっています。慣性の法則で振動板が、元の音声信号に対して、動きだしにくく、止まりにくいのです。ウーファーのように重たくなるとこの傾向はさらに顕著になり、電気を空気振動に変換しきれずに、ユニットだけどころか筐体の振動になっているのはその本体に触れてみても確認できますね。
2:振動除去が徹底している。
TD712zのスタンドが重たいのはまさに正解で、ユニットの振動の反作用を押さえこむには、それだけ重量が必要で、さらに足回りがしっかりしていないと持ちません。弊社のスタジオでは、床やあらゆる機材の振動除去を徹底してやっています。またTD725swは、これほどスピードの早いウーファーはありません。2つのユニットを背中でジョイントして反作用を完全に打ち消しているので、無限大の錘がついているのと同じ。弊社では写真のように、ワインテーブルにしていますが、グラスについだワイン面も揺れません。
3:部屋自体のカラーをなくすことは重要です。
とくに2chでは床や壁から、あるいは背面からの反射音はかなりのエネルギーになります。サラウンドでは空間定位を出すためにも、部屋に音はまるで鏡に映り込む光と同じように振る舞うと思ってください。
