ギタリスト

福田 進一

張り替えた弦の違いが分かる。

スピーカはレコーディングの音作り用

私はレコーディングを年3回ぐらいやってます。レコード会社はコロンビアとマイスターミュージックなんですが、どちらもやりたいことを自由にやらせてもらえるので毎回レコーディングに関しての音作りに積極的に参加しており、私のスピーカーの用途としてはそういう時に使うというのがメインです。

毎日違うレコーディング会場の音

そういった関係上これまでいろいろなスピーカーに出会って音を聴いてきたんですけれど、これまで聴いたスピーカーでは「マイクロフォンがどういう風にホールの中の響きを捉えているか」とか、「純粋にそのホールがどんな響きを持っているか」というのは実はあまりよく分からなかったのです。ところが このECLIPSE TDシリーズスピーカーの場合はスピーカー自信の持っている音というのが非常に少ない為に、純粋にホールの広さとかキャパとかが良く分かる。これは非常にありがたいです。ギターの場合は特にそうなんですがレコーディングに関しては静寂が要求されます。 例えて言うと「音の無い部分がどんな空気になっているのか」という感じ。
実は空気の(音)成分はそのレコーディング会場や、あるいは同じレコーディング会場であってもその日毎に違うんです。例えば3日間録音セッションをする場合、ホールの温度やその日の空調の入れ方、天気等が違いますよね。特に天気による会場の音の差はものすごく大きい。でそういうものがこのスピーカーでは再現能力が非常に高いんです。変な話で、音楽以外の再現能力が高いといっても商品のPRになるのかどうか分からないですけど(笑)、でもこういった違いが正確に把握出来る事は僕にとってとても勉強になり、これによって音楽の作り方 が変わってきます。

張り替えた弦の違いが分かる!

今年3月頃にまたCDを作ろうと思っているのですが、一度デジタルで録音してみてその録音 された音をこのECLIPSE TDシリーズスピーカーで再生してみたらどんな音になるのか、どんな音色がいいのかというようなことを探ってみたいと思います。というのは実は我が家に初めてこのECLIPSE TDシリーズスピーカーが来た日に何種類か自分の過去の録音を聴いてみたんですが、楽器の音色の違いで非に興味深かったのが、その時に使用している弦の違いまで再生する事です。
普通はスピーカーの音に紛れ込んで分からなくなるんですけれど、そういう部分まで非常に正確で忠実に再現するんです。大したものだと思いました。弦の違いによる音の違いは、自分が弾いている時には自分がその弦を替えねばという認識があるので全然違うという事が分かるんですけど、後になってみるとあの時は何が違ったのかが良く分からない事が多いんです。何が違うのか分からない部分というのは再現しにくいし、「確かに違った筈なんだけれど同じに聞こえる」とかいう事は多いじゃないですか。そういう意味でこのスピーカーは頼りになります。

マイク設置の違いも明確で”懐かしい”

昨年初めてアルバム1枚全部をスタジオ録音しましたが、僕らのレコーディングは9割方コンサートホールで行います。今まで作った30枚くらいのアルバムの中で28枚は全部ホール録音です。ホール録音で特にポイントになるのが、「ホールの中でのギターとマイクロフォンの距離をどうとるか」、それから「ギターの後ろにどれくらいの壁があるか」ということです。これを意識してホールの響きのフォーカスというか、まあ音の焦点のような所にマイクロフォンを配置すればとてもノリのいい録音になる訳です。逆にそのあたりがどんな関係になっているかということを絶えず測っていないと良い録音は出来ない訳です。僕の場合ほとんどが1ポイント録音をするんですが、この1ポイント録音の場合ほんのわずかな誤差、例えば3m離れている場合マイクの位置が5mmずれただけでも音の定位がすごく変わるわけで、そういうものに対していつも慎重に気を配っている訳です。そういう自分にとって「ああこの時はマイクの距離が遠いな」とかいう点に関してこのECLIPSE TDシリーズスピーカーはかなりはっきり出ます。奥行きというか、ホール の容積が非常に良く分かる。これがECLIPSE TDシリーズスピーカーの1つの大きな特徴だと思います。一般のスピーカーではなんていうか、ギターの弦の音だけが前へ出て来て、その周りにホールの響きがまとわりついているというか、ホールの響きが奥に引っ込むという傾向か、あるいはその逆に非常に周りの音だけムーディーに聞こえてきて音像は後ろに行くという傾向のどちらかの場合が多いんですが、このECLIPSE TDシリーズスピーカーの場合はそういう感じが無い。ホールで録音した時のままです。
録音した時に決めた過去の「あの時にああした」っていうのが非常によく出てくるので便利でかつ懐かしいですよ。
これで聴くと。(笑)

profile

福田 進一 (ギタリスト)

大阪生まれ。12歳より斉藤達也氏の下でギターを学ぶ。78年パリ・エコール・ノルマル音楽院にて、A.ポンセにギターを学び、また音楽学、和声楽、楽曲分析をN.ボネに師事後、主席卒業。80年イタリア・キジアーナ音楽院にてO.ギリアに学び、最優秀ディプロマを受賞。81年ラジオ・フランス主催の第23回パリ国際ギターコンクールで優勝、一躍世界的注目を集め、さらに内外での輝かしい賞歴を重ねた。以後、ほとんど全ての世界各国の主要都市に招かれリサイタルを開催。デュトワ指揮NHK交響楽団をはじめとするメジャーオーケストラとの協奏曲、ジャンルを超えた一流ソリストとの共演はいつも話題を集め、絶賛を博している。19世紀ギター音楽の再発見から最先端の現代音楽まで、福田のボーダーレスな活動は今や世界的な評価を獲得している。また、教育者としての活動にも積極的であり、その門下生からは村治佳織、鈴木大介、大萩康司など未来のギター界を担う逸材を輩出している。2002年には、フランス、ドイツ、台北、中国/広州、リオデジャネイロなどの各音楽祭に招聘され、絶賛を博した。また、2003年は、久々の北米ツアー、スウェーデンを中心とした初の北欧ツアー、2004年にはギリシャ、キューバ、コロンビア、スイス、イタリア、フィンランドが決定しており、福田の音楽は世界中のファンを絶えず魅了し続けている。キューバの生んだ大作曲家L.ブローウェルは、「かつて聞いたことのない真のヴィルトゥオーゾ、そして”音楽”家である」と称賛し、福田のために「悲歌~イン・メモリアム・タケミツ(’96)」を献呈。ディスコグラフィーは、この「悲歌」を含み世界的に評価されている「武満徹作品集」、イタリアの音楽誌で絶賛された、ショパン作品集「ショパニアーナ」、「シャコンヌ」をメインにした初のバッハ作品集、2001年には、セルジオ・アサドから贈られた新作ソナタを含む「ソナタ集」19世紀ギターによるソル作品集2、初の映画音楽集「シネマ・ドリームス」。2002年にはオール・スペイン・アルバム「詩的ワルツ集」をリリース。
2003年5月には名チェリスト長谷川陽子との共演でアサドの新作「ジョビニアーナⅣ」を含む話題作を発表予定。そのアルバム総数は40枚を超える。