BOOM BOOM SATELLITES

中野雅之

ECLIPSEのスピーカーには“色”がない

BOOM BOOM SATELLITESは、中野雅之/川島道行による日本を代表するエレクトロニック/ロックユニットだ。1997年にベルギーのレーベルからデビューしてまず海外で高く評価され、その後に日本でもブレイク。ブレイクビーツやエレクトロ、ロックまでを独自に解釈して最先端の音楽を創造して日本の音楽シーンを牽引すると共に、FUJI ROCK FESTIVALやSUMMER SONICなどでの活躍をはじめそのライブパフォーマンスでもオーディエンスを魅了してきた。昨年2017年、惜しまれながらその活動を終了したが、その功績はこれからも音楽ファンに語り継がれていくものになるだろう。

中野雅之さんはBOOM BOOM SATELLITESにおいて作曲や編曲、プログラミングに加えて、同バンドの作品のミキシングやマスタリングまで手がけてきた。現在はアーティストへの楽曲提供、プロデュースという領域でも活躍する中野さんだが、昨年開設したプライベートスタジオに、ECLIPSEのTD712zMK2をメイン・モニタースピーカーとして導入した。

今回、アーティストとしてはもちろん、ミキシング/マスタリングの領域でも世界で活躍してきた中野さんに、自身の音楽観を語っていただきつつ、ECLIPSEのスピーカーの魅力について語っていただいた。

自分の手で自分の楽曲をリマスタリングしたことは「エクストリームな体験」だった

昨年6月にBOOM BOOM SATELLITESはラストライブを行い、バンドとしての活動を終了されました。それ以降の直近のご活動について、まずはお話を伺えたらと思います。3月14日には、ラストライブの模様を収録したBlu-ray&DVD『FRONT CHAPTER- THE FINAL SESSION- LAY YOUR HANDS ON ME SPECIAL LIVE』もリリースされます。

そのBlu-rayの作業を最近まで行っていましたが、一方ではプロデュースや楽曲提供などアーティスト活動以外のことも増えてきています。今話せる範囲で言うと、「MAN WITH A MISSION」や「ねごと」のプロデュースを行いました。あとは「凛として時雨」のTKくんとのプロジェクトもありました。

仕事の内容でいうと、このスタジオで録音からミックスまでを完パケで行うことも多いです。この部屋の使い方は様々で、アーティストが来て、デモを作って帰ることもあるし、本番のボーカルまで録音してトラックダウンまでここでやるケースもあります。

このスタジオ自体を構えられたのは比較的最近ですよね。こちらのスタジオを作られた理由やコンセプトを教えていただけないでしょうか。

稼働し始めて、まだ半年と少しです。以前のところは、スタジオというよりはアトリエで、たくさんの機材を並べて自分たちの楽曲制作とレコーディングを行うというのがほぼ100パーセントでした。

BOOM BOOM SATELLITESの活動が終わりを迎えるにあたって、自分のアーティスト活動以外にも、外部のアーティストと関わる仕事が増えていくだろうということは想像がつきました。それで外注として仕事が受けられる、深夜帯まで気兼ねなく音楽制作ができる環境を作ったほうがいいと考えて、このスタジオをつくりました。

昨年リリースされたBOOM BOOM SATELLITESのベスト盤『19972016』では、中野さんご自身が全ての楽曲をリマスタリングされています。こちらのスタジオでマスタリングまで行うのでしょうか。

ケースにもよりますが、そういうこともありますね。マスタリングについて改めて説明しておくと、それは様々な環境で録音・ミックスされた楽曲を、アルバムの形式で並べて聴いたときにトータリティがあるように、作品としてまとめ上げる作業と言えます。

この作業には職人的なさまざまなノウハウが必要です。だからマスタリング専用スタジオが存在するわけです。そして、自分のイメージ通りにマスタリングを仕上げるというのはなかなか難しい作業なんですね。

ここに至るまで世界中の様々なスタジオでのマスタリングを経験して、世界のトップクラスのマスタリングエンジニアの作業を隣で見て、勉強してきました。この経験を経てこそ思うのですが、マスタリングは音楽を客観的に捉える作業なので、できることなら音楽を作った本人がやらないほうがいいといえます。自分で作った楽曲を俯瞰して、整えていくというのは、精神的にもきついタフな作業です。

ですから、マスタリングは信頼できる方に客観的にやってもらうのが今でも理想です。ただ、最近はコンピューター上での音の調整のクオリティが各段に良くなっていて、優れたモニター環境とセンスがあれば、大きなマスタリングスタジオにひけをとらないサウンドを作ることも不可能ではなくなってきています。そういう事情もあって、最近はマスタリングエンジニアとミキシングエンジニアの境目がなくなってきています。

『19972016』のリマスタリングにおいても、リミックス的な色合いの作業もあったのでしょうか。

そうですね。アーティスト本人ならばマスタリングエンジニアがやらない領域にまで手を出せてしまうので、作業量も膨大になってしまって大変でした。今でも、自分でやるべきだったのか、他者に頼むべきだったのかを反芻することがあるのですが。

作曲、録音、ミックスという一連の過程を自分で手がけるということは、何人もの人格を使い分けるようなところがありますが、マスタリングを自分で行うのはその究極と言えます。だからこそ、20年前に自分が作った楽曲を今自分がリマスタリングするということを、果たしてファンは喜ぶのかと考えることもあります。ビートルズのリマスターが出るたびに、これは自分が知っているビートルズではないという感想を持つ方は多いですよね。

音楽や楽曲を大切にする、あるいはアーティストの意志を大切にするということの本質な何か。ただ現代の基準に合わせていい音を作ることが、いい音楽と言えるのか。今でもいろいろなことを考えさせられます。そういう意味でも、自分の過去作品を全て自分でリマスターするという作業はエクストリームな体験でした。

ECLIPSEのスピーカーの狙いは、音楽制作をやっていれば見ただけで理解できる

今こちらのスタジオでは、ECLIPSEのTD712zMK2がメインのモニタースピーカーとして使われていますが、そもそもECLIPSEとはどのように出会ったのでしょう。

すごく遡ると、屋敷豪太さんのロンドンのお宅に遊びに行ったことあるんです。そのときにECLIPSEの話をしたかもしれないです。屋敷さんの印象っていうのがずっとありました。

それ以降ずっと気になってはいましたが、実際に使ったのはUSB入力やアンプを内蔵した「TD-M1」が最初で、一度リスニング用で試してみようと導入しました。その音を聴いて、セッティングを含めて全部自分で追い込めるクラスのものも試してみたくなってTD510MK2も導入しました。

その時点では音楽制作にパワードモニタースピーカーの定番と言われるものを使っていて、そこに併せてTD510MK2をセッティングしました。ですから、どこかでじっくり聴き込んでというよりは、最初は何となく勘で手を出してみたという感じですね。

実際にTD510MK2を導入されて、ECLIPSEの音については、具体的にどのような印象を持ちましたか。

ECLIPSEのスピーカーの独特な形状の狙いやタイムドメイン理論は、音楽制作をやっていれば簡単に理解できます。フルレンジでユニットが1つなので、インパルスレスポンスに優れていて、点音源だから位相や時間軸のずれがない。それを放射状にきれいに伝達するために独特のエンクロージャー形状をとっている。それ見ればわかります。

それでも、音楽制作の上でモニタースピーカーを入れ替えるというのは大事件で、マルチウェイのパワードスピーカーのバランスが体に身に付いていることもあって、使い始めた当初は失敗もたくさんしました。しかし、自分が好きな音楽をいろいろと再生してみると、今まで聴いたことのないリアリティ、空間の再現性や楽器の距離感を聴きとることができました。そして、スピーカーの色がないことには正直驚きました。

音によって音楽の聴き方が変わるものだなとも改めて感じました。このスピーカーで音楽制作をしたら何が起こるのか興味が湧いてきたし、それがエンドユーザーに届く段階になったときにどういう効果が表れるのかというのも気になりました。後者についてはいまだに検証中でもあるのですが。

ECLIPSEの音について評価されている点について、もう少し詳しく教えていただけないでしょうか。

それは多岐にわたりますが・・・音源と音源の距離の表現、ダイナミクスの異なる2つの楽器が同時に鳴っているときの描き分けですね。

僕の音楽はエレクトロニックの要素が多いですが、その中にボーカルが録音されるときに、マイクを通して空気の振動を拾う音と、電気的に作り出された音のコントラストはすごく重要です。その描き分けが非常にリアルなのです。

例えば3ウェイのスピーカーだと、周波数レンジを伸ばすことで描き分けをしようとするところが少なからずあって、どうしても平面的になっていきます。だから重なった3つの音が、3層のレイヤーとして見えます。ECLIPSEの場合だと、それを非常に見通しのいい、濁りのない1枚の絵として見せてくれるのです。

だからこそ、優れた録音の作品をECLIPSEで聴くのは感動的ですらあります。なかでもジャズ系の作品は1番得意なタイプだと思うのですが、部屋の広さや楽器の配置まで本当によく見えてきます。

低域が“見える”こと。重なる複数の音を1枚絵で見せてくれること。

こちらのスタジオに移ったときに、スピーカーはTD510MK2からTD712zMK2へと変更されましたが、理由はなんだったのでしょうか。

ローエンドをさらにハンドリングしたかったのです。TD510MK2の限界はそこにあったのです。実際に使ってみて、TD712zMK2の方がローエンドの伸びは圧倒的によかった。TD510MK2はある帯域までのバランスは本当に優れていて、音楽的に鳴らしてくれますが、やはり作り手としてはその先にある音が見たい。それを見て、コントロールしないといけない。ローエンドが掴める感覚を備えているのはとても貴重です。

ECLIPSEはTD712zMK2を含めてフルレンジスピーカーですから、ローエンドという観点ではむしろ不利だという考え方もあるかと思います。

TD712zMK2は、カタログスペックでは再生下限が35Hzですが、実際にはもう少し下の帯域まで“見える”のです。感覚として掴める、とも言ってもいいでしょう。

このサイズや12センチ口径のユニットを考えると驚異的なことですが、独特の形状によって共振が少ないことも影響しているのでしょう。バスレフ型の場合、バスレフポートを40Hzに設定すると40Hzまでフラットに出るけれど、その下がスパッといなくなるということがあります。プロ向けのモニターでもよくあることです。しかしTD712zMK2の場合は、低域がスーッとだら下がりに続いている感じなのです。傾向としてはTD510MK2も同様で、最低域がすごくナチュラルです。

最近は映画のサウンドトラックやテーマ曲を手がけることもありますが、映画館のスピーカーだと10Hzまでフラットに出たりしますので、当然そういう音も見据えています。10Hz・15Hzまでフラットに見ていこうとしたら、サブウーファーを使うのが手っ取り早いかもしれないですが、一枚絵で見せてくれる魅力というのは失われてしまうでしょう。

ちなみにこちらのスタジオでは、どのようなアンプでTD712zMK2を鳴らしているのでしょうか。

アンプはLINDELL AUDIO(リンデルオーディオ)のものを使っています。このアンプはヤマハ「NS-10M」というレコーディングスタジオでかつ定番だったパッシブスピーカーを駆動するために設計されたものです。フラットでダンピング特性が良くて、色付けがない。一方でクラスA回路でしっかりとした密度があるという。すごくソリットなアンプです。

ハイレゾはそもそも聴こえない高域を伸ばすためのフォーマットではない

BOOM BOOM SATELLITESでは、ハイレゾ音源でのリリースも積極的に行っていました。ECLIPSEのスピーカーでハイレゾ音源を再生した際の印象はいかがでしょうか。また、ハイレゾについてはどうお考えですか。

これはハイレゾリューションについての根本的な話になりますが、僕ぐらいの年齢では、実際に聴こえている帯域の上限は16kHz程度なのですね。年齢もあるので、日々、自分が何kHzまで聴こえているかチェックしていますが、僕は年齢にしては比較的優秀なほうで16kHzまで聴こえています。20代なら20kHzくらいまで聴こえるでしょう。もちろん個人差もあります。

CDフォーマットの再生可能帯域の約20kHzというのは、人間の可聴範囲を元に決められています。一方でハイレゾは人間が聴こえない帯域まで再生できますが、だからといって聴こえない高域を伸ばすためのフォーマットではありません。解像度を高め、時間軸の精度を上げることで、より情報量が増えるというのがハイレゾの本来の意図です。

また、情報量が増えるとより自然界に近い音色を鳴らすことができます。この部屋の窓を開ければ、風の音から鳥の鳴き声まで上限のない高い周波数が存在していますが、デジタルでは一定の帯域でこうした情報がスパッとなくなります。これにはある種の不自然さが伴い、それを回避するためにハイレゾがあるわけです。

ハイレゾのフォーマットで作品を出すときにマスタリングを変えるケースもありますよね。解像度の高さや自然さを活かすためにダイナミックレンジにより余裕を持たせて、より音量の低い作品にするのです。

ただ、僕はこういうアプローチはあまりやったことがありません。ロックバンドだと、それがあだになることもあるのです。音圧が高く入ってくることで曲のテンションが上がるというときに、ハイレゾだからと音量を下げると、“上がってこない”曲みたいになってしまいます。これは悩ましい問題です。

スピーカーの話に戻ると、ECLIPSEは音源の素性をそのまま見せてくれるスピーカーなので、それがMP3のような圧縮ファイルであれ、ハイレゾであれ、その違いをはっきり描き分けます。スピーカーに脚色がないとうことは、すごく信頼できることだと思っています。

意図した通りにエンドユーザーへ音楽が届くことは、音楽制作に関わる全ての人の願い

中野さんにとって、音楽制作におけるモニタリングと、Hi-Fiオーディオにおけるリスニングというのは、異なるものですか。あるいは共通する部分はあるのでしょうか。

10代前半から自分の音楽を作り始めたのですが、その時から自分の部屋のラジカセと、リビングにある父のオーディオシステムのそれぞれで音楽を聴いていました。もっと遡ると幼少期、父がクラシックレコードのコレクターで、何となくですがオーディオ体験は早かったと思います。

だから、自分の音楽を確認するための音と、音楽を楽しむための音が、混在したまま今日まで至っています。僕自身、変わっているとは思うのですが、正確ではないスピーカーで音楽が再生されるときの違和感が半端ないのです。

スピーカーで正確に音楽を再生することは難しいことで、一般の方がSNSに投稿したオーディオルームの写真を見たときに、リスニングポイントまでの距離ひとつとっても「これでは正しく音楽が再生されるはずがない」と思うことがあります。これはもう職業病のようなものですが。

いずれにしろ、自分が作った音楽がどういう形でみなさんの元に届くかということはすごく気になります。演者や作家が意図した通りにエンドユーザーへ音楽が届いてほしいというのは、音楽制作に関わる全ての人の願いだと思います。

その意味で、イヤホンやヘッドホンで音楽を聴く人が増えているということは良い傾向だと思います。空気を揺らして体感するような音楽の聴き方ではないですが、ヘッドホンなら音崩れようがないほど正確な等距離でL/Rを聴くことができますからね。

スピーカーというのは、エンドユーザーに委ねられる責任が大きいツールです。だからこそ、スピーカーの正しい扱い方を伝えていく媒体なり、方法なりが必要なのかなとは感じています。

最終的に音楽を聴くユーザーの環境まで考えて音楽を作られているとのことですが、この数年を見ても音楽を聴く環境は大きく変化していると思います。また、ユーザーのリスニングシステムは必ずしも良いとは限りません。音楽を作る上で、どのようなリスニング環境を想定しているのでしょうか。

それはエンジニアの考え方によって大きく変わるところです。僕はアーティストでもあるので、考え方は生粋のエンジニアとは違うでしょう。ただ、伝わらなければ意味がないという側面があることは、デビューしてからの20年間で学んだことです。自分には音楽を聴く環境や社会のシステムのようなものを変えていく力はないですから、今与えられた環境のなかで自分が伝えたい音楽をどう届けていくかを考えます。

例えばBluetoothはデータが圧縮伝送されるので、情報量は少なくなります。つまり、過度な情報量を詰め込んでも、聴き分けられなかったり再現できなかったりするのです。作曲からアレンジに至るまでその点は考慮するのですが、楽器の数が少ないほうがこうした環境では音楽が伝わりやすいです。キックと歌とアコギだけなら簡単に抜けてくるけれど、ここにベースやエレキギターが入り、ストリングスが入りとなると、どんどん聴き分けづらくなります。情報量が増えても、空間や距離を再現する能力がスピーカーになければ、ただの団子になってしまいます。

だから難しい描き分けができない再生装置が主流になると、結果として楽曲のアレンジがシンプルになっていきます。一時期、アメリカを中心に音数が少ない曲が流行ったのもそういう理由です。R&Bは音数が少なくなっていき、再生環境がチープだとうるさく聴こえるハイハットがヒップホップから消えた時期もありました。アップルのCMがピアノと歌だけみたいな曲ばかりになったのも、情報量が少ないスピーカーでの聴き映えを考えてのことです。ただ一方で、その揺り戻しが今来ていることも確かですね。

このようにリスニングを巡る環境が変化していくなかで、中野さんにとっての“よい音の基準”はどのようなものでしょうか。

記憶の中にある、あのスタジオの音がよかったというのは基準になりますね。そのロンドンにメトロポリス・スタジオに、PMCの巨大なモニタースピーカーがものすごく正確に鳴る部屋があります。音量も音像も大きいですが、音楽が本当に3Dのように聴こえてくる。そこでは音楽に含まれているものが鳴らし切られているという感覚が味わえます。

その音にすごく感動して、そこで自分が作った音楽を再生したら、ダメなところが全部見えてしまって、ひどい音楽だなと思ってしまったことは今でも忘れられなくて。こんな世界があるんだなと身につまされたことがあったんですよね。

ECLIPSEの音は、そのメトロポリスで体験した音を正確にダウンサイジングしたようなものです。ECLIPSEはそのときと同じ感覚で、音量の差はあれ、同じ音楽を聴いているという感覚があります。

他にもいくつかそういう部屋があります。スターリングのテッド・ジェンセンのスタジオのB&Wも感動的な音を鳴らしてくれる。そこは逆に自分の音源を持ち込むとよく聴こえ過ぎて、これでいいのか不安になりますね。

音楽には作り手の息づかいから思いまでが込められている。だからなるべく多くの情報量を引き出して、それを感じ取ってほしい

ECLIPSEのスピーカーはこれからも進化していくと思いますが、これからのECLIPSEに対して要望はありますか。

それはありますよ。すごくいいスピーカーだと思うゆえに、パーフェクトなツールになってほしいなと思うのです。モニタースピーカーとしての基準で考えると、ECLIPSEもまだ周波数バランスのバラつきが大きいと感じます。これでもまだオーディオ的というか。

最近のモニタースピーカーはよくしつけられていて、±1dBの中に30Hzから25kHzまでぴたりと収まっているというモデルもあります。このようなフラットさのおかげで、「ここが多い」「ここが少ない」「ここはいらない」といったことが見えてきて、自分の作っている音楽の間違いに気づけるのです。

その点でECLIPSEはまだ、当たりまえの話ですけどピュアオーディオとして作られていると思います。だから粗探しに失敗するときもありますね。周波数特性がぴたっとそろってきたらなおいいなと。そういうものなら何年でも待とうかなと思っています。

ベスト盤をリマスターされた際には、20年分のキャリアをECLIPSEのスピーカーで聴き返すことになったと思います。そのときに、どのようなことを感じたり、考えられたりしたでしょうか。

若いときは勢いだけでひっちゃかめっちゃかだったりするんですが、それが逆に曲にエネルギーを与えていることもあったなと。成熟してきたときに、会心の出来のものがあったり。曲はいいけど、録音とミックスがなかなか苦戦しているなっていうものがあったり。マスタリングは本当に自虐的な作業なんです。

思ったのは、続けていくことで見えてくることがあるということです。最後までやりきることは尊いなと思いましたし、BOOM BOOM SATELLITESというバンドが終わったわけですが、僕の音楽のキャリアはまだまだ続いていくわけで。まだ成長過程にあると思っていますし、もっと自分の技術を高めていきたいし、感性も高めていきたいし、それによって皆さんを楽しませることっていうのをもっと、やっていきたいなと思います。そういうある意味、一回総括してスタートラインに新たに立ったなっていう作業でした。

最後にECLIPSEユーザーのみなさん、そしてHi-Fiオーディオのファンのみなさんにメッセージをいただければと思います。

偉そうなことを言うつもりは全然ないのですが、音楽が僕の手を離れたら、それはもう音楽ファンのものであり、スピーカー側のものなのだと思います。WAVファイルであってもCDであっても全てデータ化された音楽を再生するわけで、そのデータの中には、作り手の息づかいやある種の考え、たくさんの思いが含まれているわけです。だからこそ、なるべく多くの情報量を引き出して、それらを感じ取ってもらいたいし、それが音楽の醍醐味だと思います。そのような環境で聴いてもらえるのが、僕が望むことです。思う存分、音楽が楽しめる環境を手に入れてほしいなと思います。

(インタビュー:PHILE WEB 小澤貴信  PHOTO:君嶋寛慶)

profile

中野雅之 (BOOM BOOM SATELLITES)

1997年に川島道行とBOOM BOOM SATELLITESを結成。
エレクトロニックとロックの要素を取り入れながら新しい未知の音楽を創造し続け、ヨーロッパR&Sよりリリースされた12インチシングルをきっかけに、数々のヨーロッパ大型ロックフェスティバル、海外ツアーを敢行し多くのメディアに大絶賛される。日本国内の大型フェスではメインステージでのアクトを務め、オーディエンスに衝撃を残し、ライブバンドとして高い評価を受けた。 2016年川島道行が脳腫瘍により逝去。2017年6月にラストライブを開催し、2018年3月ラストライブを収めた映像の発売をもって活動を終了した。
BOOM BOOM SATELLITESの活動停止後はプロデュース活動を開始。様々なアーティストのプロデュース、アレンジを手がける。

公式Webサイト
http://nakanomusic.com/


最新アルバム情報

LIVE Blu-ray『FRONT CHAPTER-THE FINAL SESSION-LAY YOUR HANDS ON ME SPECIAL LIVE』初回限定版
2017年6月18日に新木場スタジオコーストにて開催されたライブ『FRONT CHAPTER-THE FINAL SESSION-LAY YOUR HANDS ON ME SPECIAL LIVE』の映像パッケージ
発売日:2018年3月14日

1. LAY YOU HANDS ON ME
2. FOGBOUND
3. BLIND BIRD
4. KICK IT OUT
5. A HUNDRED SUNS
6. BACK ON MY FEET
7. MORNING AFTER
8. NINE
9. DRESS LIKE AN ANGEL
10. STAY
11. FLARE
12. STARS AND CLOUDS
13. NARCOSIS