Producer / Music Director

中脇 雅裕

情報量のドットが細かくて4Kテレビみたいな感じで、リバーブ感とか空気感などのディテールが見える感じ

今回は、きゃりーぱみゅぱみゅ、Perfume、CAPSULE、手嶌葵などの数々のヒット曲に深く関わっている音楽プロデューサーの中脇雅裕さんにご登場頂きました。

今年(2014年)もNHK紅白歌合戦に、中脇さんが関係しているアーティストが数組出演されていますね。年末のお忙しい中、どうもありがとうございます。NHKでのリハーサルとか色々お忙しいのではないですか?

Perfumeは7回目ですが音楽制作だけの関わりなので収録現場などに行く事は無いのですが、きゃりーぱみゅぱみゅが出るようになってからは本番日に(NHKに)行ってアーティストの皆さんに挨拶くらいはします(笑)。

中脇さんと言えば、 Perfumeと中田ヤスタカを組み合わせた事や、国内だけでなく海外にも目を向けたプロジェクトのプロデューサーとして知られていますよね。今日はまず、中脇さんが目指しておられる音楽の方向性などについてお聞かせ頂けますでしょうか?

正直言いますと、仕事の流れの中で色々ラッキーな事が起きているのは事実です。私が仕事でお付き合いできたアーティストはそんなに多くないですし、日本中の全てのサウンドプロデューサーやアレンジャーを知っている訳でもないです。貴重な出会いの中で私が仕上がりのイメージができるアーティストとサウンドプロデューサーの組み合わせを考えていくのですが、例えばPerfumeと中田ヤスタカとか。それが結果的に上手くいっている感じはあります(笑)。

つまり、今私がやっている仕事はコーディネーターみたいな事が多いです。まあ私はそれをプロデューサーの仕事だと思っているのですが(笑)。

あと、音楽プロデューサーは音楽自体をつくるというよりは音楽ビジネスの仕組みをつくっていくイメージが自分としてはあります。

ビジネスは「お金が回ってはじめて成り立つ」わけですが、それは「人に認められて」、「良いと思われて」、客観的な価値を持たないとお金は生まれない訳ですよね。もちろんお金が先でなくて評価されることが先です。

例えばデビュー前のアーティストと接するときは、そのアーティストが持っているもの、声とかルックスとか作品力とか人を感動させる能力があるのか、感動させられるコンテンツをつくれる資質があるのか、そんな「客観的な価値」を持っているのかという事を見ていきます。そしてデビュー後はチームなどの仕組みの中で100%の価値を120%にしていくことが自分の仕事だと思っています。120%にする方法というのは、例えば、その人のジェネレーションや地域、その時の時代背景などいろいろな要素で変わっていくと思います。

違う話になりますが、これまでの音楽の世界では、ビートルズとかスティービー・ワンダーとか色々なジャンルで世界的に人を感動させるアーティストがいたじゃないですか。私は日本人でもそれが出来ない理由は無いと思っています。例えばファッションの世界では、コム デ ギャルソンの川久保玲さんとか、モダンアートの村上隆さん、映画監督の黒澤明監督、料理ではすきやばし次郎の次郎さんとか(笑)。世界的な評価を得た方々がいる訳ですよね。でも音楽の世界となると、日本国内でヒットしている音楽は海外では思っているほど評価されていないように思います。

例えば日本にいると「日本のカルチャーが世界でも評価されて」という様なニュースがあったりするじゃないですか。でも現地に行ってみると意外とそうじゃないなと感じる事がよくあります。きゃりーぱみゅぱみゅやPerfumeだとNew Yorkでも2,3千人位のキャパが埋まります。これは現状でとても評価される事だと思います。しかしレディーガガだと日本でもどこでも大体1公演2,3万人以上集まります。

日本人でもこんなワールドワイドでスタジアムクラスのツアーが出来るアーティストが出て来て欲しいなと思っています。それには世界中の人に感動してもらえる何かが必要だと思っているのですが、それは日本のカルチャーを背負っていても出来ると思います。

例えばきゃりーぱみゅぱみゅのようにビジュアルも含めて日本のカルチャーを背負っているアーティストは積極的に海外に打って出て評価を得るべきだと考えています。そういう事を自分たちのネットワークを広げながらチャンスを作っていく、そういう感じで取り組んでいます。

でも、ワールドワイドのイメージがいけるかな、と思ったのは4年くらい前です。きゃりーぱみゅぱみゅがデビューした直後ぐらいに、ある方の紹介でロスに行って世界的な音楽出版社のVIP、ディズニー ミュージック パブリッシングの副社長やワーナーミュージック チャペルの副社長などの方々とお会いして、きゃりーぱみゅぱみゅやCAPSULEなどのPV(Promotion Video)を見てもらった事があります。それぞれとても気に入ってくれて「ちゃんとプレゼンテーションをすれば、評価してくれるだけのクオリティーは持っているんだ!」という感触を得ました。

当時はカーズ2で全世界挿入歌にPerfumeが使われた後でもあったので、Perfumeやきゃりーぱみゅぱみゅのプロデューサーである中田ヤスタカの作品は特に説得力がありました。その後も海外のCMとかTV・映画などへのアプローチを続けていく中で「スター・トレック イントゥー・ダークネス」の挿入歌のクリエイターとし中田ヤスタカが決まりました。これは日本国内向けのローカライズ企画で、世界売上上位の10カ国からトップクリエーターを10人集め、それぞれが映画内の「クラブで主人公が飲むシーン」の挿入歌を制作し、各国で差し替える、というものでした。

結果、監督のJ.J.エイブラムス(次作のStar Wars episode 7も監督)が「世界で一番中田ヤスタカが良かった」と言ってくれたんです。今や世界のトップクラスの映画監督J.J.エイブラムスに「中田ヤスタカは世界のトップミュージッククリエイターである。」という認識ができたわけです。この後も中田ヤスタカに対しては海外からいろいろとオファーも来ています。

また、きゃりーぱみゅぱみゅの曲はアメリカのTVアニメ「ザ・シンプソンズ」でも使われました。ビジュアルも含め個性的なアーティストとして世界中からオファーが来ています。これはもちろん本人も含めチーム全体のコンセプトがぶれないで徹底しているからだと思います。それに日本でYouTubeにアップしたプロモーションビデオが簡単に世界中で見られ評価される時代でもあるのでワールドワイドに視野を広げやすいしチャンスかなとも思っています。

すばらしいですね。そういった高い目標に対して、中脇さんがプロデューサーとして何か意識していることはありますか?

スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーとゲド戦記の制作でご一緒したときに感じたのですがプロデューサーとは「ビジネスを成り立たせなければ意味が無い」と。

今のように情報があふれて選択肢が多い時代に、YouTubeの中で無料で見る分には「良いね」と言ってくれる人は多いかもしれないですが、例えば映画館に行くことやCDを買う事など、お金を出す事になると話が変わります。結局「そのコンテンツにお金を出しても良いよ!」そういう、お客さまを選ぶ事が大切だと。ビジネスはそこから始まる(笑)。

つまり、お客さまのWantsとアーティストのクリエイティブをいかに繋げられるかということが、プロデューサーとして1つの大事な仕事だと思っています。

コンテンツ自体にプロデューサーがクリエイティブに口を出す、例えばアコースティックな弾き語りをやっているヴォーカリストに「ロックがはやっているからロックを歌わせよう!」見たいなやり方ってあるじゃないですか。それを否定はしませんが、私の場合はそうではなくて、アーティストが表現したい事や強くアピールしたい事があれば、それを欲しいと思っている人たちに繋なげれば良いと思っています。なぜならクリエイティブに無理があると結局作品がブレるし強みも出ないと思うからです。      

また変な話、ビジネスってある意味、黒字であれば良いので、1円でも利益が出るのであれば良しと考えています。たとえ販売枚数が3,000枚であろうが500枚であろうが利益がでれば良いと。そして少なくともそういう状況をつくる事がプロデューサーとして大切な事だと思っています。

自分も昔はミュージシャンであり音楽ディレクターでもあったので、曲とか音楽自体に自分の意思を入れようと思っていた時期があったのですが、今は自分の感覚だけクリエイティブに口を出すのなら、クリエイター自身が能力を発揮出来る環境を作ってあげる方が良いものができると思っています。

そういう意味でも中田ヤスタカはすごく頭が良くてセルフプロデュース能力も高く、また自分のポリシーもしっかり持った上でクリエイティブ能力も抜群なので、ある意味僕たちはとても楽チンなんです(笑)。    

ともかくアーティストの作品が最高に評価される状況をイメージしてその環境を作り上げていく。「プロデュースする」という事はそういう事なんじゃないかな、と思っています。

なるほど。そういえば、プロデューサーでありながらご自身でミックスもされるらしいですね。

私はグレン・ミラーが音楽の入り口なんです。彼はトロンボーンプレーヤでアレンジャー、作曲家でもあるのですが、そんなことで、楽器はギターを弾いていたのですが、アレンジや作曲にも興味をもったんです。そしてミュージシャンは自然に宅録したくなるもので(笑)。見よう見まねでMIDIで打ち込みして宅録して作品を作っているうちにCMの仕事を頂いたんです。「15秒で世界観を作る」というその仕事がとても好きではまりました。

そしてその当時、名古屋にいたのですがバブルだったせいもあり、地方都市のCMでもそこそこお金がもらえたんですね。で稼いだお金を全て機材につぎ込んだんです(笑)。それが自分の最初の宅録のキャリアですね。

その後、東京に移ると、今度はいきなり凄い機材のあるスタジオ入れられて、有名なエンジニアもいて、制作費も1曲200万円弱とかいう世界になり、自分が作ってきた音楽とはレベルが違いすぎると感じて、しばらくはエンジニア的な事は何もしてなかったんです。

でもそのうちバブルがはじけて予算が落ちてきて、そうすると低予算でクオリティー維持するためには「宅録する?」みたいな状況になったんです。そして自宅にProtoolsを買い、エンジニアを自宅に呼んで一緒にミックスを始めたんです。

そこで0930(オクサマ)という女性2人のユニットの「山田君」という曲の制作をしたらちょっとヒットして、「いけるじゃん!」って思ったんですね(笑)。でそれ以来予算が少ない仕事の時は自宅でやる様になったんです。そして結局自分でMixもするようになりました。手嶌葵さんの作品の一部は自分でMixしています。

あと、歌を録音する時、昔は「出来れば一発録りが良い」というイメージがあったんですが、20年位前に笹路正徳さんとお仕事した時に、笹路さんは歌を録った後、ひらがな一語ずつ丁寧に良いテイクを選んでつないでいくんです。それがとても良くて「あ、これで良いんだ」って思ったんです。 もちろん一発録りの方が良い場合もあるとは思いますが、こうやってPCで「歌を作る」という事で何かが失われるという事はないと分かって、積極的にProtoolsで「歌を作る」ようになりました。これがかなり評価されて制作ディレクターとしての自信になったと思います。

90年代後半にブレイクしたJungleSmileというユニットでは制作ディレクターでしたが「Protools」としてもクレジットもされています(笑)。でもそういう時、ストレスがあるスピーカーだと聴いていられないんですね。

感覚的なものですが、僕の中には情報量が多いもの、つまりそういう些細な差が人を感動させられるんじゃないかと思っているんです。その差がちゃんとわかるスピーカーが作り手としてはとても大事で、そうでないとこちらの意図を作品に込める事が出来ないのです。だからそういう差が分かるモニタースピーカーは相当色々と聴いて探しましたね。

その中でECLIPSEだと時間に関しての精度が高いので、先ほどお話ししたような作業はとてもやりやすいですね。情報量のドットが細かくて4Kテレビみたいな感じで、リバーブ感とか空気感などのディテールが見える感じです。

私が自分でMixやクリエイティブに参加するものは女性のシンガーソングライターやドキュメンタリー、ドラマなどの映像音楽が主で、内容的に「ピアノと歌だけ」とか「ギターとチェロだけ」みたいなアコースティックなものが多いのですが、そういう時ってスタジオの空気感や歌のブレスの感じとか、そういう音の状況を把握出来る事が凄く重要で、そういう点でECLIPSEは重宝しています。

ありがとうございます。では最後に、今後の目標というか想いなどをお聞かせ頂けますでしょうか?

そうですね、「一生懸命やる」というようなスタイルではなく、常に大きな夢にリアリティーを持って楽し良いメージを持ちながら、プロデュースしていきたいですね。どうせなら仕事をエンジョイしたいですから(笑)。

profile

中脇 雅裕 (Producer / Music Director)

大学在学中より、多くのTV・ラジオのCM音楽を制作。
大学卒業後、財団法人ヤマハ音楽振興会にてポピュラー音楽指導ディレクターとして音楽教育法の研究および講師の研修などを担当。
その後、東京に居を移しレコーディングディレクター・プロデューサーとして数々のアーティストの音楽制作に関わる。ヒット曲も多数。
その他に、映画、CM、各種イベントの音楽制作はもとより、イベントプランニング、執筆活動、講演などその活動は幅広い。

株式会社イノベーション 代表取締役社長
株式会社イノベーションクリエイティブ 代表取締役社長
アソビシステム株式会社 エグゼクティブ プロデューサー
1963年9月15日生まれ 名古屋市出身