ピアニスト/作・編曲家/プロデューサー

塩谷 哲

TD-M1のおかげで響きの豊かなヨーロッパのホールでの演奏で想像力を掻き立てられた

今回は、従来音楽のスタイルにとらわれない独特の視点による楽しさの追求や、上妻宏光さんや佐藤竹善さん、小曽根真さん、古澤巌さん、絢香さんなどなど、ジャンルを超えた幅ひろい実力派との競演などでご活躍中のピアニスト 塩谷哲さんに登場いただきました。

塩谷さんのコンサートは、キレと正確さを兼ね備えた演奏のうまさが堪能出来るだけでなく、競演者の方との演奏コミュニケーションとしてのキャッチボールを楽しまれているワクワク感が客席中に広がり、聴いてる方にもしっかりと感染してしまう、そんな独特のエンターテインメントです。
塩谷さんをよくご存知の方からは「常に周りの人を楽しませようとする、しかも徹底したホスピタリティーにすっかり心を奪われてしまう」とよく言われ、そういう塩谷さんの個性がそのままステージに現れている気がします。

今回はご縁があり、塩谷さんと津軽三味線の上妻宏光さんの「AGA-SHIO」ヨーロッパコンサートツァーでECLIPSE TD-M1をお使いいただく事が出来ましたので、ツァーのご感想などをうかがってみました。

~上妻さんとの欧州ツァーおつかれさまでした。ハンガリーではTV番組でも取り上げられるほど話題になった様ですね。~

今回はプラハ、パリ、ローマ、ケルン、ブタペストの5カ国5都市をまわりました。4年前に行った前回のAGA-SHIO欧州・アフリカツァーに比べると、自分たちがちょっと成長したのかな?と。 前回は必死に自分たちの音楽を伝えようとして、そういう意味ではちょっと肩に力が入っていたのかなと思うのですが、今回はそういう感覚を超えてAGA-SHIOとしての音楽が確立出来てきたという自信がうまれ、そしてそれがお客さんからの具体的な反応としても感じられたのが良かったですね。

我々がやっていることは、表面的には三味線とピアノのコラボレーションですが、目指すは東洋と西洋2つの音楽文化による新たな創造です。西洋音楽の本場であるヨーロッパで、異文化とぶつかる事によって生まれる音楽を聴いてもらい、惜しみない拍手とともに「こんな音楽聴いた事が無い」と思わせたいと。 特に近年はこういう取り組みは珍しくは無く、実際に耳にしている人も多かったので、だからこそ「まぁこんなものか」と思われるレベルではいやで「こんなの聴いた事無い! ホントにおもしろい!」って思われるようなものにしようと、2人でツッパってやってきました。

そんな中で我々が心がけているのは「全く違う異文化を融合させる」という事でなく、むしろ「ぶつけて違和感をあえて感じる」事でお互いに新しいものが見えみてくる、という姿勢です。今回はラベルの作品を二人でアレンジして新しい曲を作ったのですが、やはりクラシックは難しかった。(笑)

特にオリジナルを知っている人たちから「こんなもの!」って思われてはダメなので、我々のオリジナルの力を駆使して「AGA-SHIO版のこれはこれでいいねぇ!」と思わせるような作品にしたかったんです。 そこで「原曲に忠実なところは忠実に」という部分もありながら、さらに自分たちが面白いと思う組み合わせをうまく組み入れてみました。そして幸い、これがとてもうけたんです。しかも特に本場のパリで!

パリの人たちは率直に感想を言ってくれました。サイン会になると、自分の感想を黙っていられなくてどんどんしゃべって来てくれるんです。「あの曲のあの部分はとても良かった。でもあの部分はダメ。」とか「ラベルに挑戦したのは素晴らしかった!」「こんなのは初めて聴いた!」とか具体的に言ってくれました。 また弦楽四重奏曲の2楽章でピチカートからはじまる部分を三味線に見立てたりしながら、そこに4楽章のとあるフレーズを入れたりしたんですが、「それが秀逸だ!」とか。 中には「はじめは三味線とピアノは音が合わないと思っていたが、聴いているうちにだんだんなじんできて、そのうちにAGA-SHIOのやりたい新しい音が見えてきた!」とか。

今回新しい事にチャレンジして、全てではないけれど「5%でも10%でも新しいものが生まれた」と感じてもらえている事を実感出来ました。そしてヨーロッパのお客さんはそういうチャレンジした新しい事を全部受け入れてくれて、そして育んでくれるという土壌があるという事が特に嬉しかったです。 文化芸術に対するリスペクトが一朝一夕に出来る事ではないという事はわかってはいるんですが、やはりそういった意味での日本との文化の違いを思い知らされました。そしてクラシックに限らず、文化芸術などの考え方の違いに対する寛容さや理解があるからこそ、豊かな暮らしが出来ているんじゃないか、と豊かな人間性をつくるための価値観についても考えさせられました。

そしてもう1つ今回のツァーで実感したのは、AGA-SHIOとしての演奏自体もとても良くなっているという事です。それはお互いの理解が深まっているという事でもあり、またお互いがミュージシャンとして成長もしているからである事を実感できた事もとても良かったですね。

~今回のツァーで、TD-M1を上妻さんの三味線の音を聴くためのモニターとして使われたご感想~

小さなクラシックホールでは、ピアノと三味線の生の音がうまく響きあってとても気持ちよく演奏出来たんですが、ピアノの方が三味線よりも大きな音が出るので思いっきり弾くとお互いのバランスがうまくとれないんです。
そこで、バランスを考えて多少弱めには弾くんですが、それでもピアノを弾きながら三味線の音って結構聴こえにくいんですね。そこで今回は三味線の音をマイクでひろい、TD-M1から再生した音を聴きながら演奏しました。

普段こういうやり方をすると、いかにも「モニタースピーカーの音を聴いてます!」ていう電気的な音になりがちで、そうなると「まあこんなものか、、、」と自分自身を納得させながらの演奏となり、実はなえちゃう部分も合ったりするわけなんです。
ところがTD-M1をモニターとして使っていると、生の音がそのまま反射してスピーカーから聴こえる、というような感じで全くストレスを感じずに気持ちよく演奏できました。「これは、何なんだろう、、、」って思えるほど。
特にヨーロッパのコンサートホールでは、このTD-M1のおかげでとても想像力を掻き立てられました。我々のような小編成でこういう響きの豊かな場所で演奏する時は、こういう感覚はとても重要でありがたかったです。

また三味線の音というのはアタック音が強烈で、そのあとに本当の響きがやって来るんですが、そうなると音のキレ、つまり立ち上がりの素早さだけでなく、立ち下がりも素早くないと三味線の本当の音色や音程を味わうのは難しいんですが、そういう表現を含めて実際そこで弾いている直接音と同じ音がTD-M1から聴こえてくる、そういう点がほんとうにスゴいと思いました。

そうやって振り返ってみると、これまでのスピーカーでモニターしながら競演しているときは、スピーカーの音を聴いていたつもりが、実はアタック音やリズムの躍動感に関しては競演者の生の音を探りながらやってたかもしれないなと。
そう考えるともしかしたらTD-M1の音でアタック音やリズムの躍動感を感じながら演奏出来た事が、ストレス軽減による良い演奏に多少なりとも影響を与えたのかもしれませんね。

~将来はオーケストラとの映画音楽など、自分にとっての壮大なる異文化とのコラボが夢~

自分はソロとしての自己の音楽表現も追求し続けて来ましたし、それも自分の生きる道の1つとしてとても重要だと思っています。
ただ自分ひとりで演奏するよりは、自分に無いものを持っている他の素晴らしいミュージシャンたちと、自分がどこまで関わって行けるか、切り込んでいって刺激できるか、そして逆に相手がどこまで自分に切り込んでこれるか、そういうポジティブなぶつかり合いを追求しつつける事で、自分も知らなかった世界観があらたに見えてくる、という事にとても興奮するんです。
それはちょうど、自分との共通点もあるが、相違点、つまり異文化が感じられる人と話すと楽しいのと同じですね。そういう意味では、他の芸術との融合・ぶつかり合いというのにとても興味があって、具体的に言うとオーケストラとの競演というが夢ですね。

これまでもやったことはあるのですが、もっと自分の曲を深く表現してみたいというか。例えば映画音楽とかドラマ音楽など、自分にとって全く異文化なストーリーがあって、それと自分が真正面から向かい合う、という競演ですね。是非実現させてみたいと思います。

~今年は、NHK朝の連続ドラマの主題歌を歌っている絢香さんの全国ツァーや、NHK Eテレ「趣味Do楽“塩谷哲のリズムでピアノ”」で、ピアノ初心者向け番組の司会進行なども担当されます。詳しくは下記公式ホームページを是非ご覧ください。~

塩谷哲公式ホームページ
http://www.earth-beat.net/

profile

塩谷 哲 (ピアニスト/作・編曲家/プロデューサー)

1966年6月東京生まれ。東京藝術大学作曲科出身。オルケスタ・デ・ラ・ルスのピアニストとしての活動(1993年国連平和賞受賞95年米グラミー賞ノミネート)と並行してソロ活動を開始、現在まで12枚のオリジナルアルバムを発表する。
自身のグループをはじめ、佐藤竹善(vo)との“SALT&SUGAR”、上妻宏光(三味線)との“AGA-SHIO”の活動や、世界的ジャズピアニスト小曽根真(p)との共演、渡辺貞夫、村治佳織、絢香、今井美樹、矢井田瞳、平井堅らとのコラボレートの他、モーツァルトのピアノ協奏曲などのクラシック演奏、05年愛・地球博にてビッグバンドを率いたステージの演出、NHK「名曲アルバム」のオーケストラ・アレンジなど、活動のジャンル・形態は多岐に渡る。 12年4月より国立音楽大学講師。