縦方向の音の動き/小原 由夫のサイト・アンド・サウンドVol.10

縦方向の音の移動を切れ目なく滑らかに再生するのは、実は意外に難しい

ホームシアターシステムが一般的になってきて、サラウンドサウンドを楽しむ機会が増えてくると、音がチャンネル間(スピーカーとスピーカーの間)を移動する様子がとてもおもしろく感じられることがある。この場合の音の移動というのは、ほとんどが“横”の動き。例えば後ろから前にクルマが猛スピードで通過したり、左前方から右後方に弓矢が飛んでいったりという具合だ。この時、スピーカーやシステムのクォリティが高ければ、あるいは置き方や調整などがピタッと決まっていれば、音はスピーカーとスピーカーの間を切れ目なく動いていく。こういう状況で私たちは、「音のつながりがいい」とか、「効果音の動きがスムーズ」とか、「音場感がシームレスだ」などと評する。

しかし、世の中の音というのがすべて横方向に動くわけではない。地面でエサをついばんでいた鳩が飛び立つ音、エレベーターの昇降音、隕石の落下音やロケットの打ち上げ時の轟音など、縦方向に動く音も無数にあり、そういう音が映画に頻繁に登場することは皆さんよくご存じの通りだ。

この縦方向の音の移動を切れ目なく滑らかに再生するのは、実は意外に難しい。冒頭で述べた、音の移動をおもしろく感じるケースも、ほとんどは横方向の動きに関してだ。縦方向(高さ方向といわれることも多い)の音のつながりや定位、高低感がどう再現されているかにも、もっと耳をそばだてたいものである。

縦方向の音の表現が難しいのは、ひとつには現在主流のスピーカーの形式にも原因があるのではないかと僕は考えている。ウーファ、スコーカ、トゥイータというマルチウェイユニットによって受け持ち周波数を分割し、なおかつ縦にユニットを配列していることがその要因のひとつ。ユニットを縦に並べると、音の指向性(サービスエリア)は縦方向では鋭く絞り込まれ、横方向は逆に緩く広がる傾向となる。こうした要因が音の上下動を正確に再現しにくくしているのではないかと思うのだ。

その点で、フルレンジユニット1発のECLIPSE Home Audio Systemsのスピーカーは、音の縦の動きも横の動きも同条件。球面波として音が放出されるので、指向性は縦も横も同一だし、ひとつのスピーカーユニットで全周波数を再生するから、音が分割されることもない。つまり、もしかすると縦方向の音の動きを正確に再現してくれるスピーカーは、実はECLIPSE Home Audio Systemsなんじゃないか!、という推測もできるわけだ。

まさしく縦横無尽に音が移動する

それを確認するための絶好のDVDソフトがある。「ハリー・ポッターと秘密の部屋」のチャプター15だ。魔法学校の生徒たちが空飛ぶホウキに跨がって行なう、サッカーとラグビーを合わせたようなボールゲーム「クィディッチ」の試合のシーンに注目したい。

チャプター経過時間の1:03辺りで、ボールを持ったグリーンのユニフォームの選手の前方から、エンジ色のユニフォームの女性選手が突っ込んでくる。この女性選手の音の動きは、右手前から左後方に斜めに上昇していく感じなのだが、我が家のECLIPSE Home Audio Systems 512×5chで聴いたこのシーンの音の移動は極めてスピーディーかつスムーズ。ホウキに乗った女性選手の移動音が左斜め後方に遠ざかっていく感じもとても自然なのだ。その後もボールを奪い合う選手たちの飛行音やボールの飛ぶ音など、このシーンには縦に動く音がたくさん付けられている。

3:53辺りのシーンにも注目したい。主人公のハリーとライバルがスニッチを捕らえようと競技場の縁の下(?)を猛スピードで飛んでいくところだ。ここではハリーたちの飛行音は横移動だが、スニッチや暴れ球は微妙に上下動しながら対角線上に素早く動いている。方向やスピードなど、それぞれに動きの異なる音をきっちり明瞭に分離して再現するところは、音の位相特性に敏感なイクリプスならではの表現力といっていいだろう。

まさしく縦横無尽に音が移動する「ハリー・ポッターと秘密の部屋」のチャプター15は、ECLIPSE TDの特徴が存分に発揮できる、ECLIPSE Home Audio Systems向きのシーンといえそうである。