高さ、方向、質量感の再現/小原 由夫のサイト・アンド・サウンドVol.14

映画や音楽のサラウンドサウンドを聴いていると、横方向の音の移動やつながりだけでなく、縦方向の音の移動やつながりの生々しさに気付くことがある。ミサイルが上空から飛んできたり、隕石が落下したりといった派手な音響効果はもちろんのこと、雨の音や雷鳴(前号Vol.13参照)、鳥のさえずりや洞窟の反響音などもそうだ。

だが、サラウンドサウンドを再生する5本のスピーカーの能力や質がきっちりと揃っていないと、そうした高さや方向感、質量感のリアリティは出にくい。バラバラでは音色が揃わないだけでなく、均質な音場の密度(空気感)や明瞭な定位感が出せないのだ。

さらに、その再生において最も問われるのが、スピーカーの「音場再現力」である。音場を形作る情報は、もともとはCDなりDVDなりにあらかじめ収録されている。位相差やレベル差を駆使して、アーティストやミキシングエンジニアが創作したり、空間の響きをマイクで録ったりした立体的な音場がそれだ。プレーヤーやアンプには、その情報に独自の解釈を加えたり脚色をしたりすることなく、ストレートにスピーカーまで伝送する能力が望まれる。スピーカーは、その情報を正確かつ忠実に再生できることが理想だ。つまり、入力された信号をありのまま再現するのである。

しかし、現実にはそううまく事は運ばない。プレーヤーやアンプで色付けが成され、途中の伝送ケーブルでは何らかの形で情報がスポイルされてしまう。スピーカーでも固有の響きが加えられてしまうことが少なくない。

そうした悪しき要因を極力排除する考え方がタイムドメイン理論であり、その具現がECLIPSE Home Audio Systemsだ。前記したような映画のサラウンドをECLIPSE TDスピーカーで聴くと、リアルな物体が飛んできたり、音の高低差がごく自然につかめる。重要なのは、DVDにもともと入っていた位相差やレベル差などの情報をECLIPSE Home Audio Systemsが正しく再生しているからであって、ECLIPSE Home Audio Systemsが音場を作り出しているのではないことである。

クェンティン・タランティーノのヒット作「キル・ビル2」は、生き埋めの疑似体験ができる貴重な作品(!?)。その音がとにかく怖い。映像がほとんど真っ暗なことも怖さを倍増させるのに効果を上げているのだが、チャプター13のこのシーンこそ、まさしくスピーカーの音場再現力が問われる。

ユマ・サーマン扮する主人公ザ・ブライドが、気絶した状態で連れてこられた墓地。ここで元の殺し屋の仲間バドに棺桶に押し込まれ、そのまま埋葬されてしまうのである。

両手両足を縛られたザ・ブライドが入れられた棺桶の蓋が太い釘で打ち付けられ、閉じられる。耳に痛いその甲高い音があちこちのチャンネルから聞こえるのだが、もしもバラバラのスピーカーで再生したら、この釘の音は太さや硬さがバラバラに聞こえるに違いない。場合によっては、あまり怖くないかもしれない。5本の質が揃っているからこそ、耳に痛いし、生々しくて怖いのである。

真っ暗になったところで、突如「ザーッ、ザーッ」とけたたましい音がする。棺桶が地面を引きずられているのだ。カメラは棺桶の中のザ・ブライドを横から捉えている。聞こえるのは彼女の嗚咽や荒れた息。続いて、「ドサッ、バシャーッ」という音。シャベルで土を被せている音だ。リスナーはその音を生々しい土の固まりや粒、重さとして頭上に知覚する。やがてその音がどんどん遠くなっていくのがわかる。盛り土の音がどんどんと遠くなっていくわけだ。やや間があって、クルマの走り去る小さな音。バドたちが行ってしまったのだろう。ザ・ブライドの嗚咽と荒れた息、懐中電灯で棺桶を打つ音。息苦しい閉塞感が音場を被い尽くす……。

四方八方に響く釘の音。引きずる音の方向感。そして、盛り土の重たさと高さの再現。全チャンネルのスピーカーの均一感に加え、ECLIPSE Home Audio Systemsならではの迫真的な臨場感の再現は、まさにアッパレだ。ザ・ブライドがその後どうなったかは、DVDを見てのお楽しみ……。