同じギターの録音でも…/小原 由夫のサイト・アンド・サウンドVol.16

一口にギターと言っても、アコースティックやエレクトリックがあり、同じメーカーのギターでもモデル毎にサウンドはずいぶんと異なる。当然ながら、そうしたギターのサウンド/響きを忠実に余さず録音するうえでは、様々なアプローチが考えられるわけだが、マルチchのサラウンドサウンドではなかなかおもしろい現象を味わうことができる。つまり、同じギターの録音であっても、アーティスト(演奏者)やエンジニアの目的/意図が異なると、サラウンド音場の雰囲気や空間感がずいぶん異なるということだ。

ここで典型的な3枚のディスクを紹介しよう。イーストワークスエンタテインメントにて精力的にアルバムをリリースしている渡辺香津美の最新作「ギタールネッサンスII<夢>」は、東京・紀尾井ホールでの録音で、ソロパフォーマンスによる豊かでウォームなギターの響きが立体的に拡散する。便宜上、この音場感を「拡散型」録音と呼ばせていただく。他のチャンネルをミュート(消音)してセンターchのみを聴いてみると、近接したマイクで録ったような、かなり生音に近い音色。一方でリアchだけを鳴らすと、反響が強めで、音量も大きい。この残響感が人工的につくられたものか自然のアンビエンスなのかは不明だが、5・1chで再生すると(サブウーファーはオフした方が無難。耳障りな共振音のみだから)、前方に定位するギターの音像はやや大きめながら、豊満で深々としたギターの響きと余韻にグルッと囲まれ、部屋全体に反響しているイメージだ。

同じソロパフォーマンスでも、クラシックギタリスト/村治佳織のデッカ移籍第1弾「トランスフォーメーション」は、フロントに軸足を置いていることは前出「ギタールネッサンス~」と同じだが、明らかに2chステレオのバランスを重視した音づくりだ。極論すれば、マルチchトラックにてセンタースピーカーやリアスピーカーをミューティングして再生しても、音場空間のバランスやそこから受ける印象など、大勢にほとんど影響はない。センターchもリアL/Rchも音量レベルが小さく、フロントL/Rchの補間的役割しかないと言っていい。これを「2chエクステンション型」録音と名付けよう。前方の2chだけで音楽の骨格や肉付きがほぼ出来上がっている、クリアーで精巧な録音である。

ECLIPSE Home Audio Systemsでこの2枚を聴き比べると、殊の外、その録音のアプローチの違いが明確に実感できる。「ギター・ルネッサンス」は、深い残響感が教会の響きをイメージさせ、高さ方向(天井方向)に余韻が消えていく感じ。一方の「トランスフォーメーション」は、リスナー後方に音が消えていくようで、水平方向の音のつながりを実感する。

もうひとつ、なかなかユニークな録音がある。オノ・セイゲンの「コムデギャルソン」だ。このアルバムのSACDマルチchトラックの冒頭3曲は、大阪のコムデギャルソン店内でのライブ録音。通常こうしたライブ録音の場合、ステージや会場の雰囲気をそのまま再現するような収録方法を取るのだが、本作はバンドメンバーに囲まれるような空間再現になる。つまり、ステージにかなりにじり寄った様子だ。しかも、実際のライブでは一人だったギタリスト(オノ・セイゲン自身)が、1曲目「MALU」では、マルチchミキシングにおいてギターのトラックを付け加え、リアLとリアRchでギターアンサンブルを形成しているのだ。これは、実際のステージの音に別な音源を新たに付け加えた、いわば「あるがまま+クリエイト型」録音といえよう。

さあ、貴方はこの曲のリアLとリアRのどちらのギターが追加音源か、判定できるかな?ECLIPSE Home Audio Systemsは、その辺りも顕わにしてしまうほどのリアリスティックな再現力を持っているといっても過言でない。