センターch vs リアch/小原 由夫のサイト・アンド・サウンドVol.17

サラウンドシステムの5本のスピーカー(5つのチャンネル)には、さまざまな使い途がある。コーラス隊にグルッと囲まれたような音場をつくることもできるし、楽器の音をパンニングさせて遠近感や立体感を作り出すことも可能だ。その手法は無限大と言えるが、音楽と映画とでは、扱い方が微妙に異なっている。

映画では、音の方向感や包囲感、移動感などを5つのチャンネルを使って巧みに再現しているわけだが、基本的にそれは、映像に映し出されている状況(情報)を補完する意味合いで使われることが多い。例えば、左後ろから飛んできた弾丸が右前方に抜けていったり、森の中の臨場感を表すために鳥のさえずりや虫の鳴声を入れたりしている。

また、映画で頻繁に使われるのが、”フロント対リア”という対比だ。前方で喋っている人物と相対するように後方から別の人物の喋りが被ってくる。あるいは、大きな宇宙船が後方から前方に向かってゆっくりと飛んでいくようなシーンでも、フロントとリアchは音を少しずつオーバーラップさせて音の受け渡しをすることになる。

ところが映画「オペラ座の怪人」は、もっと積極的で、”センターch対リアch”という構図になっているのがおもしろい。

そのシーンはチャプター8、初主演の舞台を無事に終えたクリスティーヌが、幼なじみのラウルと再会し、出掛ける身仕度をしているその楽屋に、遂にファントムが姿を表わすという場面である。

ロウソクが消え、室内が暗くなった時、後ろの方から威嚇的に歌声が響く。「生意気な若造め!無知な愚か者!」と、クリスティーヌとラウルの二人を糾弾する。クリスティーヌは、「エンジェル 聞こえます もっと話して~私の先生」とそれに応えるが、少し怯えているのか、震えたような弱々しい声で歌い出すのだ。その声はか細く、センターからしか出ていない。

やがてファントムが鏡から姿を表すと、その歌声はリアchのみならず、フロントにまでおよんで、4ch全体でクリスティーヌに覆い被さる。対するクリスティーヌは、ようやく本来の美しい歌声に戻るのだが、声は相変わらずセンターからのみ。既にこの時点で力関係は決していてる。「私がおまえを導く音楽の天使だ」と歌って自分の力を誇示し、お馴染みのオルガンのメロディーに乗せて、鏡の裏側の世界、すなわち地下へと続く闇の世界にクリスティーナ導き入れるのである。

このシーンを、もしもフロントL/RやリアL/Rスピーカーとセンタースピーカーが異なる状況で再生したならば、さらにはセンタースピーカーの位置がフロントスピーカーよりもかなり低い位置にあったならば、前記したようなセンターと他の4chの対比のバランスが変わってくる。こうしたシーンでこそ、ECLIPSE Home Audio Systemsの本領は発揮されるといってよい。

フルレンジ1基なので、位相の乱れは基本的になく、センターと4chがくっきりとセパレーションしながら有機的に反応し合う。チャンネル間の隙間は感じられず、ファントムの重厚な歌声に対し、クリスティーヌの歌はスレンダーで繊細だ。明確な主従関係が音にもはっきりと出ているのがわかるのだ。

小型で構わないし、映画を見るときだけ設置するようなテンポラリーな形でもいいから、同じスピーカーで揃えた方がいいと本連載で再三申し上げているのは、こうしたシーンでその効能がはっきりとするからだ。ECLIPSE Home Audio Systemsならば、それも容易である。