映画とスポーツの「臨場感」の違い/小原 由夫のサイト・アンド・サウンドVol.18

サラウンドのフィールドは、映画や音楽だけではない。スポーツにも活用されていることをご存じだろうか。野球中継やサッカー中継などのスタジアムの興奮の様子を、放送の視聴者にもリアルに届けるべく、サラウンドが使われている。

先日、伊トリノで行なわれた冬期オリンピックでも、一部の放送番組にてサラウンド(5.1ch)音声での中継が編成された。その実況を見ていて感じたことは、「映画や音楽のサラウンドとは、使い方や意図がずいぶん異なるなぁ」ということだ。

映画のサラウンドは(もちろんその作品の内容や作風によって異なるが)、基本的にはセリフと音楽と効果音の3つを駆使し、映像として映し出された状況の雰囲気や環境音を再現し、包囲感や方向感、音の移動や遠近感を醸し出すために使われる。それは現実的であったり、時には非現実的な状態を作り出したりするわけだが、それはアクティブな使用法といえる。

一方で音楽の場合は、その演奏現場の空気感や残響感、場合によっては生々しいライヴ感をリスナーに伝えるべく、サラウンドが使われる。ポップスやジャズではさらに創作的アプローチとして、5.1ch空間を立体的なキャンバスとして捉え、アクティブかつアクロバティックな音響的演出を施すことがある。これは音楽家あるいは製作者の積極的なサラウンドの活用だ。

しかし、スポーツ中継のサラウンドは、現実に行なわれている実況をそのまま視聴者に届けることがほとんど。新たな加工や演出を施すことはなく、現場で響いている音や音場空間をそっくりありのまま電波に乗せ、送信する。

だがそれは、映画や音楽と同様、「臨場感」というキーワードで括れるもので、目的は似ている。むしろリアルタイム(実況)での加工が難しいため、生々しい臨場感をリスナーに届ける(伝える)という意味では、映画や音楽DVDのようなパッケージソフトよりもデリケートで難しい部分を持っている。いわば、多少のつくりの粗さや不恰好さには目を瞑り、鮮度と味が命の無農薬野菜のようなものである。

日本の荒川静香選手が金メダルを獲得した女子フィギュア・スケート/フリー・プログラムのハイビジョンテレビ中継(BS103ch)は、期しくも5.1chサラウンド放送であった。

センターchには、アナウンサーや解説者の声をベタで貼り付けている。LFEchは映画のような重低音効果はなく、特定の周波数以下の全chの低域成分を振り分けているような印象だ。残りの4chは、客席の歓声や拍手、演技に使われる音楽、場内アナウンスなど、スケートリンク内の雰囲気をただひたすら“客観的”に伝えることに撤している。基本的な音場は、画面寄りのフロントL/Rchが主導で、リアはアンビエンスと反響感が主体で、集音マイクの配置などはまったく想像がつかない。

それでも我が家のECLIPSE Home Audio Systems 512でこのサラウンドを聴くと、荒川選手の演技では、歓声や拍手がひときわ多かったことがはっきりわかった。

プッチーニの歌劇「トゥーランドット」のドラマティックなメロディーに乗った荒川選手の優雅な演技が終わった後、割れんばかりの拍手と歓声で音場空間が埋め尽くされた。それ以前に滑った選手との客席の反応の差は歴然だった(特にサラウンドchの音の包囲感が凄かった)。得点の集計結果が表示されるのをベンチで待つ際の衣擦れの音や小さな声なども、ECLIPSE Home Audio Systemsは曖昧にせず克明にする。位相がしっかり出るから、空間の音のつながりが抜群なのだ。

高忠実度スピーカーが再現する、スポーツ中継のありのままのリアリズム。空間再現力に非凡な性能を有したECLIPSE Home Audio Systemsの魅力は、こんなところにも現れるのである。