サラウンド現場の「階層構造」/小原 由夫のサイト・アンド・サウンドVol.2

自宅に5本のECLIPSE Home Audio Systems 512を導入してから、早いもので2ヵ月が過ぎた。その間、映画や音楽のマルチチャンネル・ソースをあれこれ聴きながら、サラウンド音場の“階層構造”について考えを巡らせてみた。今回はその話をしたい。

「サラウンドの階層構造?そんなの知らな~い」という声が聞こえてきそうだが、ごもっともな話。何せこれは、私が勝手に考えた理屈ですから。

つまり、こーいうことである。この連載の第1回でも触れたが、2チャンネルで音楽を聴いていると、例えばヴォーカリストの音像がスピーカーよりも手前に出てきて、その後ろにピアノ、そのまた後ろにベースとドラムスというように、声や各楽器が立体的にレイアウトされて聴こえる。距離感や遠近感のあるそうしたが、5.1チャンネルのスピーカーによってあたかも“バームクーヘン”のような層となってリスナーを取り囲むようにグルッとサラウンドするのが、ここでいう「サラウンド音場の階層構造」である。

映画のそれはどうなるかというと、通常 『セリフ』は画面に寄り添って前方中央から聞こえる。そのセリフの左右ないしは後ろ側からさまざまな『効果音』が聞こえてくる。さらにその効果音にオーバーラップする形で『音楽』、つまりバックグラウンドミュージック(BGM)が聞こえる。すなわち映画では、『セリフ』『効果音』『音楽』の3つの要素が何層にも折り重なってサラウンド音場の階層構造がつくられる、というわけだ。

サラウンド効果に優れた映画をECLIPSE Home Audio Systemsで観賞すると、この階層構造がビックリするぐらい臨場感豊かでリアルに再現される。これは、タイムドメイン理論によって音の定位や位相が正確に再生され、音がきれいな球面波となってスムーズに空気中を伝わっていくからだろう。

ジム・ジャームッシュ監督の「ゴーストドッグ」を見ていただければ、私の言及していることがご理解いただけると思う。静謐な夜の街を歩く主人公ゴーストドッグ、野良犬と目が合ってふと立ち止まる。見上げれば満月。ここで主人公が「ワオーン」と吠えては、「ゴーストドッグ」ならぬ「ゴーストウルフ」になってしまう……なんていう冗談はさておき、カメラが右から左にパンしていく街角の風景のシーンで、遠くを走るパトカーのサイレンの横移動の何と生々しいことよ!

さらに着目してほしいのが、夜の帳にこだまする前方から聞こえる犬の遠吠え。私の耳には3匹に聞こえるが、その遠吠えが異なる方向からそれぞれ異なる遠近感を伴って明快に描き分けられているということだ。ごくごく普通のスピーカーを使ったサラウンドシステムでは、ここまできれいな方向感と遠近感は出ない。ECLIPSE Home Audio Systemsだからこそ克明にセパレートして聞こえるのである。

マフィアの親分宅に着いたゴーストドッグがクルマを降りる。辺りは突然の雷雨。天高く雷鳴も轟いている。ここではわれわれリスナーも雨にスッポリと包まれる。この包囲感の再現力がサラウンド再生では極めて重要な要素だ。親分宅の外階段を上がり、まずは手下を狙撃し、1階の駐車場へと入っていくわけだが、この間、頭上で数回轟く雷鳴が、ゴロゴロと鳴る度に高さや場所が動いていることがわかるだろうか。5つのECLIPSE Home Audio Systemsが、隣り合ったスピーカー間だけでなく、対角線上のスピーカー同士でも有機的に結び付き合うことで、高さ方向の定位感も見事に再現しているわけである。

位相特性に優れたECLIPSE Home Audio Systemsは、サラウンドで使っても凄いという証明だ。