再び、トランジェント/小原 由夫のサイト・アンド・サウンドVol.21

オーディオ機器の性能を推し量るキーワードに、“トランジェント”というものがある。 “Transient”とは、「一瞬の、瞬間的な」 といった意味で、とりわけスピーカーにおいてその性能は重要だ。それが応答性能、過渡応答を示すものだからである(拙稿Vol.6でも同じテーマを探求している)。

ECLIPSE Home Audio Systemsが採用するタイムドメイン理論は、入力された信号に何も付け加える事無く、忠実に、しかも素早くそれをアウトプットすることを身上としているので、トランジェント性能は格別重視している。しかし問題は、そうした持味が存分に発揮できるようなわかりやすいプログラムソースがなかなかないことだ。その点、この「エサ=ペッカ・サロネン指揮ロサンゼルス・フィルハーモニック/ストラヴィンスキー:バレエ・春の祭典、他」は、トランジェントというキーワードが殊の外よく実感でき、しかもECLIPSE Home Audio Systemsの特質がとてもうまく表現できる演奏だ。ライヴ録音ならではのリアルな空気感も味わえ、特にカップリング収録されている冒頭曲「ムソルグスキー:禿げ山の一夜」が素晴らしい。

指揮者のエサ=ペッカ・サロネンは、ルックスも凛々しく、指揮する様子は明晰で歯切れよく、なかなか絵になる男だ。加えてここでの演奏は、ラベルの編曲版ではなく、オリジナル版のスコアに基づくもので、一段とデモーニッシュでダイナミックな演奏になっている。

スタッカートのリズムを存分に活用し、弾むような小気味よさと緩急のついた鮮烈なメロディーは、SACDのマルチchサラウンドならではのきめ細かで立体感に富んだ音場感と広がりを提示する。

お馴染みのテーマ部はテンポよく進行し、のっけからまるでアクション映画の挿入曲のような迫力のある演奏だ。この切れ味の明快さと敏捷さは、サロネンの芸風といってもいいのかもしれないが、ECLIPSE Home Audio Systemsの緻密さや反応のよさと見事なマッチングをみせる。そのスペクタキュラーな展開をサラウンド環境で鳴らすと、鮮やかに煌めく立体音響の中に身を預ける快感が味わえる。パノラミックな音場の中でスピーカーの存在は消え、まさしく特等席で聴いているような感覚さえ味わえるのだ。颯爽としたクールネスが、TD712zスピーカーを5本セットした拙宅システムにてクリアーに浮かび上がる様は、まさに絶妙のパフォーマンスといえよう。

クラシックのSACDにしては珍しく、LFEチャンネルも積極的に採用しているので、ティンパニの力強い響きなどでサブウーファーが存分に活躍する。ECLIPSE Home Audio Systems TD725swならば、その重厚な一撃に余計な響きを付加することなく、スムーズに歯切れよい重低音を轟かせてくれる。ボーボー、ズンズンと、ただ量だけを付加するサブウーファーが多い中で、TD725swが繰り出す低音は、クリアーで鋭敏。まさしくトランジェト特性に優れるサブウーファーである。

ちなみに、「春の祭典」の切れ込みの鋭い明晰な演奏も傾聴に値する。 なお、本盤の国内盤は、残念ながらSACDのハイブリッド盤ではないので(通常CD)、本稿に書き記した醍醐味を味わうには、ドイツ・グラモフォンの輸入盤のSACDを買い求めていただきたい。響きが良好といわれている米カリフォルニア州の「ウォルト・ディズニー・コンサート・ホール」ならではの豊かなアンビエンスが味わえることだろう。