音像定位と音場感/小原 由夫のサイト・アンド・サウンドVol.7

オーディオシステムで音楽を聴いている時、まるで眼前でヴォーカリストが歌っているような、あるいは奏者が楽器を奏でているような、そんな生々しい音の感覚を覚えることがよくある。その際の、目の前にある歌手の口や奏者の指使いなど、あかたも音が発せられている原音源がそこにあるようなイメージを、オーディオでは『音像』といい、その音像のできる位置が明瞭に定まった状態を、『音像の定位がいい』と表現する。

音像定位が良好なスピーカーは、概して音場の再現力にも優れた一面を持つ(音場に関しては、本項のVol.4「音場の創造~大胆なサラウンドを参照)。つまり、音像のできる位置が明瞭ということは、異なる楽器の前後・左右の相対関係、さらには定位の高低差までも明確に描き分け、ひいてはそれが立体的な音場感の再現をもたらすのである。

音像定位や音場感の良否は、CDやDVD等の録音の仕方にも依存するが、オーディオシステム全体のクォリティも決して無視できない。とりわけ重要なのがスピーカーのクォリティだ。ECLIPSE Home Audio Systemsは、この音像定位や音場感の再現に秀でているのが特徴で、それを実現しているのが「タイムドメイン」理論である。

では、ECLIPSE Home Audio Systemsが再現する音像定位や音場感は、どんなふうに感じられるのか。今回は2ch/5chマルチの音を1枚に収めたSACD盤「カインド・オブ・ブルー/マイルス・デイヴィス」を使って、その様子をレポートしてみよう。

※「カインド・オブ・ブルー」は、ジャズ史上屈指の名盤として、これまでにLPやCD、並びにその高音質盤など、たくさんの種類のパッーケジソフトがリリースされたが、それらはいずれも2chのステレオ音声だった。

ステレオシステムで1曲目「ソー・ホワット」を再生すると、ベースとピアノのイントロに先導され(ピアノはLチャンネル、ベースはRチャンネル)、トランペットのマイルス・デイヴィス、テナーサックスのジョン・コルトレーン、アルトサックスのキャノンボール・アダレイの3者が、テーマ部分をユニゾンで合奏する。やがてソロパートに移り、まずマイルスのトランペットの音像がL/Rスピーカー間の中央(センター)にファントム音像として浮かび上がり、次にLチャンネルからコルトレーンのソロ、それが終わるとRチャンネルからアダレイのソロという順でメロディーが吹かれる。

この3つの楽器の音像は、CDやLPでも比較的くっきりと浮かび上がるのだが、5chでミキシングされたSACDでは、より鮮明に、しかも実体感がさらに厚みを増して再現されるのだ。

ECLIPSE Home Audio Systems 512×5本のシステムでそれを聴くと、音に生々しいリアリティが表れ、しかも定位感は一層明瞭。それもそのはずで、前方3本のLスピーカー/センタースピーカー/Rスピーカーに、それぞれコルトレーン、マイルス、アダレイの音が区分されて伝送されているからだ。まさしく3人の偉大なミュージシャンが居並ぶという音場である。また、ECLIPSE Home Audio Systems 512での再生でさらにはっきりと感じ取れることは、隣接したスピーカーにもエコー成分のような音が被せられていることだ。例えばコルトレーンのテナーサックスのエコー成分がほんのわずかにセンタースピーカーにもダブらせているのがわかる。これが音の厚みをつくっている要因だろう。なお、リアのL/Rスピーカーには演奏のアンビエント成分が回されている。

SACDマルチ化によってさらに濃密でディープな演奏に蘇生された「カインド・オブ・ブルー」を、ECLIPSE Home Audio Systemsで聴くと、新たな発見があっておもしろい。