何故サラウンドは広くあまねく普及しないのか?  /小原 由夫のサイト・アンド・サウンド(Ver.2:第12回)

70年代始めに実用化された4チャンネルステレオ。さらに遡って、1950年代に登場した劇場用サラウンド。今日、映画のみならず、音楽の楽しみ方として、複数のスピーカーを使う再生手段は認知されている。

しかし、それは広く一般に浸透しているとはいい難い。その誕生からすでに半世紀以上も経過しているのに、家庭用として未だ広く普及しない理由はどこにあるのか。今回は少々アカデミックに考えてみたい。

私が考える、サラウンド普及の障害になっている事項には、下記のようなものがある。

1)設置の煩わしさ、配線の面倒さ
ステレオスピーカー分を設置するスペースはあっても、センタースピーカーを置くスペースがない(テレビの周囲にその余裕がない)。リアスピーカーの取り付けに関しても、柱や壁、天井に穴開けなどの追加工をしなければいけないという点で敬遠しがちということはある。日本の狭い住宅環境では、これは極めて現実的な由々しき問題だ。また、設置できる状況にあっても、スピーカーコードを這わせるのを躊躇してしまう。新築時やリフォーム時に壁の中を通線できればいいのだが、配線を露出させることに家族の同意が得られないというケースも大いにある話だ。

2)矢継ぎ早のモアチャンネルへの展開
サラウンドは基本的には5本のスピーカーで成立するが、近年はサラウンドEXやドルビープロロジックIIzなど、5本にさらに数本プラスして、7チャンネル、9チャンネルのスピーカーを使う方式が提案されている。そうした動きが止まるところをしらず、際限なく続くのではないかという危惧がユーザー側にあるのも確かだ。5本のスピーカーを設置するだけでも四苦八苦なのに、モアチャンネルは勘弁して欲しいという意見は、もっともである。

3)ITU-R勧告の教条的扱い
理想的なサラウンドスピーカーのレイアウトは、同心円状にスピーカーを置いていき、センタースピーカーに対してフロントスピーカーは30度ずつの開き、リアスピーカーはセンタースピーカーから見て100度から120度に置く。サブウーファーはフロントスピーカー付近がベター。これはあくまでスタジオ等のサラウンド製作側の規範(ITU-R BS775-1条)であり、あくまで勧告なのだが、あたかもそうしなければいい音のサラウンドは実現しないという認識や論調がまかり通っている。そうした条件で設置できることは、専用ルームならまだしも(それさえも同心円上というのは難しいのだが)、一般の家庭環境ではかなり厳しい。

4)横置きセンタースピーカーの音色的/視覚的マッチングの問題
ホームシアターのサラウンドでは、テレビやスクリーン等の画面があるため、センターに置くスピーカーは横置きを使う頻度が高い。この横置き型の放射特性や音色が、たとえ同一メーカー/同一シリーズであっても、メインで使うスピーカーと微妙に異なり、厳密に音を追い込んでいった時のフロント3チャンネルの音のつながりにおいて違和感を生む結果になっている。映画を見ていても、セリフがスピーカーの方向に引っ張られ、画面の人物の口の動きとの乖離を感じてしまうということも多い。

こうした諸問題を解決する方策として、イクリプスTDシリーズスピーカーを使うとうまくいくという話を次回お届けしよう。