TD307PAIIで再認識~ECLIPSE Home Audio Systemsアンプの実力の高さ  /小原 由夫のサイト・アンド・サウンド(Ver.2:第16回)

今冬、自宅のAVシステムをドルビープロロジックIIzに対応させるべく、バーチカルハイト・スピーカーを鳴らすためのコンパクトなステレオパワーアンプを物色していた。その過程でイクリプス TDシリーズアンプ「TDA501II」の存在に改めて気づき、本連載の担当者を通じてデモ機を短期間借用させてもらうことになった。ついでだからと、スピーカーTD307IIと組み合わせたTD307PAIIを1セットお願いした。

円錐型の筐体を採用したアンプは、2系統の入力端子を備えているが、ヴォリュウム付きのシンプルなパワーアンプと言い換えてもいい。その円錐の頂点部がスィッチとヴォリュウムを兼ねている。内部回路は余計な付帯機能が一切なく、伝送/増幅経路が極力短く設計されている。いわばスピーカー同様、タイムドメイン的に作り込んであるわけだ。

定価3万円だし、定格出力も12Wと決して大きくないので、正直言ってあまり多くは期待していなかったのだが、コイツがなかなか侮れない音がするので驚いた。まさに「山椒は小粒でピリリと辛い」を地でいく感じなのだ。

まずはスピーカーのTD307IIをつなぎ、付属コードを使ってiPodを接続してみたのだが、小人のオーケストラがテーブルトップに整然と並び、まるで精巧なジオラマ模型を俯瞰してみているような立体的な音場感が味わえたのである。コンパクトシステムなりのスケール感は、それでも解像感が高く、個々の楽器の質感と、楽団全体のハーモニーが美しい。ベース/ギターというシンプルな伴奏での女性ジャズヴォーカルでは、小さな音像ではあるものの、左右のスピーカー間にくっきりとしたフォルムの声が浮かび上がった。

アナログのラインケーブル接続で、192kHz/24ビットの音楽ファイルをアナログ接続で聴いてみた。チェロのソナタでは、弓が弦に当たる瞬間のサッカ音のようなニュアンスまで実に克明に再現する。こうした微細なニュアンスの再現こそ、忠実さと位相特性のよさでアピールするイクリプスならではだろう。小口径ユニットならではのTD307IIのトランジェントの良さもありそうだ。

開発担当エンジニアから非公開の過渡応答特性のデータを見せてもらったのだが、国内のアンプ専業メーカーのモデルと比べてもまったく遜色ない。某国内大手メーカーの高級プリメインアンプとの比較では、矩形波の立ち上がり、立ち下がりとも、時間遅れが極めて短い特性が得られており、位相特性という面ではその高級機を凌いでいるのである。

円錐という形状も、奇をてらったわけではなく、振動しにくい形を模索していく中で行き着いたフォルム。スピーカー端子が底面という点は、一見使いにくいようでいて、視覚的に隠れてしまうメリットもある。もちろん、信号経路の最短化という意図もあろう。

録音に優れたソースはその魅力を十二分に引き出すが、録音のプアなソースを補うような側面は一切ない。この辺りの考え方も、TDスピーカーとまったく一緒である。いい気になって、愛用しているTADのフラッグシップ・スピーカー、TAD-R1につないでみた。

ドヴォルザークの新世界の第一楽章、コントラバスの重奏部は、もう少し厚みがほしいところだが、ティンパニーはエネルギー感もあり、アタック感をそれらしく再現したものだから、思わず「へぇ~」と唸ってしまった。30帖弱というこの部屋の容積と、TADで普段私が聴いている音量では、さすがにパワーが足りずに音がクリップしてしまったが、一般家庭で常識的な範囲の音量ならばパワーに不足はないと思うし、何しろ正確さやトランジェント感では、値段でゼロがひとつ多いアンプに決して負けない実力を持っていると感じた。

「あれこれ使い回しが利きそうだから、1台買っておいてもいいなぁ」。デモ機を返却した後の、それが私の偽ざる本音。百聞は一見にしかずとはまさにこのことで、関心のある読者は、騙されたと思って一度聴いてみることをお薦めする。消費電力も18Wと控えめだから、エコロジカルな点もバッチリだ。