音の3D  /小原 由夫のサイト・アンド・サウンド(Ver.2:第17回)

話題の3D映画「アバター」はもうご覧になっただろうか。3Dというと、映像が飛び出すような感覚を抱かれるかもしれないが、確かに字幕などはそう見えることはあるものの、むしろ奥行き方向に3Dの凄さを感じた方も多いのではないだろうか。

家庭用では、既にパナソニックが3Dテレビと対応ブルーレイ・レコーダーを発表済みで、4月下旬からの発売を予定している。一方ソニーも、遅れてはならじとこれに追随し、先頃3D対応テレビと合わせて、プレイステーション3の3Dバージョンアップ対応を発表したばかりだ。

いずれも専用の眼鏡を掛けねばならなかったり、3Dにふさわしいコンテンツが少ないといったエクスキューズはあるが、時代は確実に3D映像に向かい進み始めている。翻って、では、音の3Dはどうだろう?

結論から申し上げれば、音の3Dは既に現実のものになっており、私たちは日常その音に既に接している。問題は、それが3Dらしい立体感を伴って聴こえているかどうかという、その『質』にある。

ステレオセッティング(2本のスピーカー)であっても、奥行き感や高さ感を感じる音源は、CD、SACDを問わず現実にある。録音のクォリティーが高い場合や、部屋の反射・吸音特性を絡めたスピーカーの設置が理想的なケースなどで、そうした印象を受けることが多いわけだが、位相差やレベル差が巧みにコントロールされた音源で(左右のスピーカーで合成したファントム音像ではあるが)、例えばヴォーカリストのフォルムがポッと宙に浮かび上がり、口元がピタッと定位するのである。

あるいはコンサートホールに響き渡るスケール感豊かなオーケストラのハーモニーでは、ヴァイオリン群は左側手前に位置し、ヴィオラが右側手前に、コントラバスはその右手後方、さらに管楽器群は中央後方にレイアウトされる。ティンパニーやグランカッサといった打楽器は、ステージ最後部に、といった具合に3次元的に展開するわけだ。

音場感やスケール感、サンドステージ、ステレオイメージといったオーディオのキーワードは、いわばこうした3D的表現力を称したものだ。5.1ch以上のサラウンドシステムになると、さらに方向感や包囲感、移動感といったキーワードも加わり、より広い空間での表現力が示される。そう、サラウンドでは、3D的なイメージはより明快なものとなるのだ。再生空間の広さが、ステレオセッティングよりも大きく拡大されるからである。

以上の通り、映像よりも遥かに古くから実用化されていた音の3Dだが、それを再生するスピーカーは、3D的要件をフルに再現できていたのだろうか…。必ずしも充分でなかったと思う。それは、録音技術上の制約はもちろん、スピーカーの構造的な課題もあったからだ。

音の3D的要件がさまざまな観点から分析、検討されるようになったのは、80年代末辺りからではないだろうか。スピーカーユニット間のタイムアライメント、クロスオーバーネットワークの吟味、バッフル板の反射対策、エンクロージャー全体の共振や定在波の対処などが、より精密に研究されてきたからである。

しかし、よくよく見れば、こうした要件は、イクリプスTDスピーカーがことごとく指摘してきた事項ばかりであることがわかる。つまりイクリプスTDスピーカーは、3D的表現に大きな可能性を有したスピーカーというわけだ。

録音の優れたCD、あるいは包囲感に富んだDVDなどを持参して、ぜひイクリプスTDシリーズスピーカーの展示取扱店で音を聴いてみてほしい。音の3D再現は、ここまで進んでいるのかと、感動すること受け合いである。