白か黒か  /小原 由夫のサイト・アンド・サウンド(Ver.2:第18回)

物事の是非や有無、勝敗をはっきり明確にする際に、「白か黒か」ということがある。相撲や野球では白星先行と言うし、刑事ドラマの会話で「あいつは絶対に黒ですよ」という会話も見受ける。つまり、白は善、あるいはいいことで、黒は悪、ネガティブなイメージの象徴として使われるわけだ。

実は、オーディオ・ビジュアル界においても、この白か黒かというテーマは永遠に繰り返されている。もっとも、この場合は是非や勝敗ではなく、純粋なカラリングの話題であり、白は白でなく、シルバーなのだが…。

昭和50年代初め、サンスイのプリメインアンプAUシリーズは、精悍な艶消しのブラックパネルをまとって颯爽と登場し、大ヒットした。その勢いは、シルバー一辺倒だったそれまでのアンプ市場を一斉に黒一色に染め上げるほど強力だった。当時サンスイはJBLの輸入代理店もしており、サンスイとJBLの組み合わせは黄金のペアリングとしてずいぶん採り上げられたものだった。

国産スピーカーに関しても、黒が大流行した時期がある。「ゴッ・キュッ・パ戦争」といわれたのは、やはり昭和50年初め頃。大手国内メーカーのスピーカーの多くが、まるで黒い墓石のごとく四角いエンクロージャーに30cm以上の大口径ウーファーを据えた3ウェイユニットを搭載していた。しかも、そこに重さの戦いも加味され、重たい方が音が良いという論調が当然のごとくまかり通った時代である。

テレビにおいては、数年の周期でシルバー/ブラックの流行がある。フラットテレビのフレーム(ベゼル)が各社右へ倣えでシルバーになったり、ブラックになるのだ。別体のチューナーユニットのカラリングもそれに呼応し、さらにはDVDレコーダー(近年はBDレコーダー)も、シルバー/ブラックのカラリングが繰り返されてきた(もっとも、最近はガンメタリック風もあったりして、なかなか固定したカラリングイメージになりにくいのだが…)。

個人的には、ベゼルの部分は限りなく細く、なおかつマット調に近い艶消し黒が好ましいと思っている。なぜならば、映像は、画面(フレーム)外で視覚に入るものはすべてノイズといえるからだ。この部分がピカピカ反射していたり、周囲が映り込んでしまうのは、言語道断。映像に集中できずに視覚を妨げるノイズ以外の何物でもない。

私は、スピーカーにも同じことが当てはまると思っている。つまり、聴覚を妨げる要素として、過分にデザイン先行であったり、派手な色使いのスピーカーは好きではない。もちろん、物体として無視できないサイズとフォルムがある。音からイメージされるフォルムも然り。そのサイズが大きければ、音を出していない時のインテリアとしての在り方を考えると、真っ黒というのもどうかと思うが、佇まいとしては限りなくインビジブルな存在であってほしいと思っている。

そんなわけで、TD712zMK2のブラックバージョンの登場は、諸手を上げて大歓迎なのである。

私は、元よりTDスピーカーはインビジブルな存在感を有しており、存在を主張しないブラックこそ相応しいと思い、これまでも担当者に口酸っぱくずいぶん言ってきた。ようやくその願いが成就したかと思うと、感慨深いものがある。

TD712zMK2BKは、スタンドも黒、金具類もブラックニッケルメッキと手の込んだ処理。しかも、価格は従来モデルのまま据え置きだ(既発のシルバーと併売)。照明を暗くして使うホームシアター・ユースにはピッタリである。

このブラックバージョンを盛り込んだ新しいカタログが実にイカしている。ル・コルビジェLC2ソファーと共に闇に紛れ込むTD712zMK2BKがぼんやり映っている。この手のカタログは、新製品をもっと鮮明に目立たせるのが通例だが、このカタログの意図は天晴れである。

本音は、振動板も黒くしてほしかったのだけれど、音が変わってしまうそうだ…。