昨年末から急激に市場が拡大している「PCオーディオ」。その名の通り、パソコン(PC)を介してオーディオを楽しむというのがそのベーシックなスタイルだが、既存のオーディオシステムにパソコンをアドオンするおもしろさは別の機会に譲るとして、今回テーマにしたいのは、パソコンを中心に新たにデスクトップ・オーディオシステムを構築するようなケースである。
そもそも、なぜPCでオーディオが楽しまれるようになったのか。iPodの爆発的普及やCDのリッピングだけでなく、PCで音を楽しむコンテンツは、ここ数年増え続けている。iPhone/iPodで必須のiTunesの普及はもちろん、音楽のダウンロードの際、サンプル楽曲を試聴するうえでも再生装置の品位は非常に重要である。また、YouTubeのような動画サイトの試聴でも音質を蔑ろにはできない。
そうした課程での決定的な動きが、PCオーディオの認知の広がりだ。PCオーディオの特徴は多々あるが、最も大きなセールスポイントは、CD以上のサウンドクォリティで音楽が楽しめるところにある。具体的には、デジタルファイル形式の採用により、44.1kHz/16ビットというCDのフォーマットを越えた、96kHz/24ビット、あるいは192kHz/24ビ ットという、より高精細(高密度)な音で聴くことができることが売りだ。
デスクトップのPCオーディオシステムでは、こうした高精細なサウンドを間近で聴くことになる。それは決して大がかりなものではなく、そうした用途に適したシンプルでコンパクトなオーディオ機器、エクイップメントが各社からリリースされており、昨今大いに賑わいを見せているのだ。
PCオーディオでは、USB端子からデジタル音声を取り出すことになり、それを既存のオーディオ機器に接続するためのUSB-DACというアダプター的な機器が注目されている。また、USB端子から信号を直接入力できるプリメインアンプやCDプレーヤーも、内外のメーカーから多数リリースされている。
ただし、ここで話題にしたいのはUSB-DACでなく、USB入力付きプリメインアンプでもない。お察しの通り、デスクトップのPCオーディオにふさわしいスピーカーのことである。そうしたニーズに、実はTD307IIがぴったりなのだ。
近接試聴となると、スピーカーユニットからの直接音が主体となることは自明だ。すると、余計な付帯音の少ないスピーカーが好ましい。例えば、共振しにくいエンクロージャーを採用したモデルなど好適。TDの卵形エンクロージャーは、共振を極力排することを意図したものである。
デスクトップにスピーカーを置く場合、壁や天井の反射はさほど問題にならない。もっとも厄介なのは、机上の反射である。音がいまひとつほぐれなかったり、ビートやリズムのピッチ(音程)が不明瞭になるのは、こうした机の天面の反射が影響していることが考えられる。こうしたケースでは、スピーカーユニット面に少し仰角をつけて設置するとよい。リスナーは画面を見下ろす形になるので、スピーカーはやや上向きに置きたい。普通の四角いスピーカーでは、インシュレーター等を使って前側を持ち上げてやることで対処できるが、TD307IIならばアジャスターによって簡単に仰角がつけられるので便利だ。
そして、次の点が私がもっとも重要と思うPCオーディオ用デスクトップスピーカーの条件だ。それは、マルチウェイユニットではないこと。ユニットが複数個あると、近い距離で聴いているため耳に到達する時間のズレにはより敏感になる。3ウェイなど以ての外。2ウェイでさえ、できる限り小口径で、2つのユニットが近接していることが望ましい。もうおわかりだろう。TD307IIのシングルユニットが断然有利というわけだ。
サンプリング周波数が高く、分解能にも優れたPCオーディオの音源は、声や楽器の微かなニュアンスや自然な質感を実にきめ細かく表現することができる。真のナチュラルサウンドを目指したTDシリーズスピーカーは、PCオーディオの時代にはさらに注目されることだろう。