対談:ハイレゾリューション音楽ファイル再生とECLIPSE Home Audio Systems  /小原 由夫のサイト・アンド・サウンド(Ver.2:第22回)

小原:CDが売れないと言われて久しいですが、その一方で、CDのクオリティを凌駕するハイレゾリューション音楽ファイルが、ネット配信や特殊なパッケージで流通するようになり、感度の高いオーディオファイルに支持されています。山本さんも私も、ミュージックファイルプレーヤーのリンDSを導入するなど、いち早くそうした音源と既存のオーディオとの融合に取り組みました。

山本:俗に言うデジタルファイルミュージックとは、手持ちのCDをリッピングしてNASに取込み、リンDSを使ってその音源を管理するといったことも含まれます。つまり、44.1kHz/16ビットのCDフォーマットのままですよね。僕が思うに、いわゆるハイレゾ音源を熱心に聴いている人って、全体数から言えばまだそんなに多くはない。僕がリンのクライマックスDSを購入した決定的理由は、イアン・ショウというリン・レコーズのアーティストがリリースしたジョニ・ミッチェルのカバーアルバムのSACDを持っていて、その音とリンのクライマックスDSで再生した同作品のハイレゾ音源を比較試聴して、凄くショックを受けたんです。オーディオマニアの性として、打ちのめされたものには何らかの落とし前をつけなきゃならない。で、クライマックスDSお買い上げ(笑)。ハイレゾ音源の凄さは、スタジオマスターそのままの音が家庭で楽しめるわけです。これは歴史的に見ても画期的なことです。

小原:私も192kHz/24ビットの音源をリンDSで初めて聴いた時の衝撃って、そりゃあ驚きました。これまで苦労して構築してきたCDシステムをあっさり凌駕しちゃうなんて、シャクだなぁというのが正直な気持ち。私は当時愛用し、全幅の信頼を寄せていたワイスのD/A コンバーターMEDEAに、マジックDSのデジタル出力を接続しようと画策しました。

山本:DVDオーディオはもはや消滅に等しいし、SACDもなかなか新譜が出てこない。そんなところにデジタルファイルミュージックが現われた。SACDと聴き比べて、ハイレゾ音源の圧勝って僕は感じましたよ。これはデジタルファィルに期待するしかないって感じ。

小原:リッピングソフトによる音の違い、ドライブによる音の違い、あるいはPCでの再生ソフトの音の違い…。結局、デジタルファイルになっても、やっぱりオーディオ的な音の違いの遊びシロがある。

山本:それと、海外のサイトに行ってダウンロードする時のドキドキね。未知の森に分け入るようなワクワクする楽しみ。ただ、PCオーディオってわかりにくいところもあって、ちょっとしたことで止まったり、ダウンロードができなかったりする。復旧しても失敗した原因がわからない。そのノン・フィジカルなところを嫌う昔流儀のオーディオファイルもいる。決して彼らを否定するつもりはないけど…。ダウンロードって、有償のものでも、買ったっていう実感がないんだよ。

小原:でも、それってパッケージソフトで育った僕ら特有のマインドかもしれませんよ。サンプリング周波数が高くなり、ビットレートも上がると、ダイナミックレンジが広がる。そうしたハイレゾ音源を再生する際に大事なことは、スピーカーがいかに素早く動けるかっていうことだと私は思っています。これは能率ではなくて、いうなれば初動感度みたいなもの。素早く立ち上がり、余計な尾を引かない。こうした要件はもうECLIPSEは素晴らしい性能を持っています。

山本:それ、よくわかる。TD712zがマークIIになって、ローレベル方向の再生能力が確実に上がったから、暗騒音なんかすごくよく出るし、常識範囲の音量ならば、音楽を聴く満足感は明らかに高くなっていますよ。ハイレゾ音源の真価って、最低限のマイクの数で、ステレオフォニックを大事にした録音ほどよくわかる。演奏現場の空気感みたいなものが…。

小原:レコーディングの手法、ミキシングの良し悪しがハイレゾ音源だと如実に出てきてしまう。

山本:そうそう、エンジニアの腕がわかっちゃう。どんなステレオイメージなのかもECLIPSEで聴くと良くわかるんですよ。今日、「セラ・ウナ・ノーチェ」というアルゼンチン音楽の96/24音源をTD712zMK2とTD725swの組み合わせで聴いたんだけれども、現地の修道院で、ワンポイントマイクでノンミキシングで収録された音源です。演奏現場の風景が見えるような音場って僕らはよく言うけど、まさしくマイクの周りに車座になって演奏している様子が再生音からわかるんだよね。これには驚いた。アルゼンチンにはもちろん行ったことないけれど、修道院の造りが視覚的にイメージできるし、建物の中のちょっと湿ったような臭いまで感じられそうな生々しさがあるんですよ。「よくできたハイレゾファイルは鼻に来る」って僕は最近言っているんだけれど。ウチで使っているJBLじゃ、悔しいけどこうは鳴らない(笑)。

小原:山本さん、その音源貸して。ウチはTD712z使ってるから、車座がわかるはず!臭いも出るよ、きっと。

山本:こいつ、憎たらしいなぁ!