ヘッドフォンとスピーカー、似て非なるもの 
小原由夫のサイト・アンド・サウンド(Ver.2:第24回)

iPhoneやiPodの普及で、爆発的に市場が拡大しているヘッドフォン&イヤフォン。店舗でのフェアや展示会でイベントを実施すると、たくさんの来場者が押し寄せるという。中にはシーンや状況、あるいファッションに応じて複数機種を使い分ける人や、十万円超のヘッドフォンを複数所持するマニアもいるという。今回はヘッドフォンとスピーカーの違いを論じてみたい。

電気信号を空気振動に変換するというトランスデューサーとしての性格は、ヘッドフォンとスピーカーは同じ役割を担っているが、実際はだいぶ違う。頭を覆うバンドを有したオーバーヘッド型は、オープンエアー型や密閉型という昔からあるタイプに加え、近年は外部の音をシャットアウトするノイズキャンセリング型、サラウンドに対応したサラウンド型、さらにはワイヤレス型もある。近年流行りの耳の穴に直接挿入する「イン・イヤー」型にも、ダイナミック型からバランスド・アーマチュア型など、ドライバーユニットの形式によっていくつかの種類がある。いずれの形式であれ、ヘアスタイルを乱さずに使えるのがイン・イヤー型の利点で、若者に愛好者が多い。

どんな形式のヘッドフォンであれ、そのセールスポイントは、何といっても発音源から耳までの距離の近さだ。つまり、音の到達距離が圧倒的に短く、サービスエリアや指向性を考えなくていい。なおかつ、スピーカーでは不可避な部屋の音響特性を一切考慮しなくていいという点は、非常に大きなメリットだ。

デンソーテンのECLIPSE Home Audio Systemsが推し進めるタイムドメインというコンセプトは、インパルス応答の過渡特性を重視しているが、それとて部屋の音響特性に少なからず影響される。もし、インパルス応答に優れるヘッドフォンができたならば、部屋の響きとは無縁のため、エンドユーザーもその理想的な特性を堪能しやすいだろう。

しかし、しばしば指摘されるヘッドフォンの問題点に、「頭内定位」という現象がある。これは、両耳に横向きで向かい合わせたドライバーユニットから音が放射されることで、頭の中に音場感が形成されることによる。つまり、ステレオスピーカーと対峙し、目の前に提示されるステレオイメージを楽しむという一般的なオーディオシステムの音場形成とは、だいぶ様子が異なるわけだ。

この違和感をなくすために、ヘッドフォンの装着時の按配を微妙に調整して、できるだけ前方に音場ができるように工夫することもあるが、抜本的な解決にはならない(もっとも、近年のロックやJ・ポップの多くは、ステレオイメージを考えた録音/ミキシングになっている曲が極めて少なく、頭内定位でも大きな問題はないものが多いようだ)。

直接耳に届く細かな情報量の再現にこだわるか、前方に広がるステレオイメージにこだわるか…。システムの規模やコストも大きく関与するこのふたつのシステムアプローチにおいて、コンパクトなスピーカーを近接試聴で楽しむというスタイルが近年現われた。ニアフィールド・リスニングという考え方だ。離れた試聴位置に比べて部屋の音響特性の影響を受けにくいうえ、指向特性的にも優位で、そのうえ試聴距離が短いので音圧(能率)的にも有利であり、情報量がしっかり聴き取れる。つまり、さほど能率が高くなくても、コンパクトなサイズで忠実性にこだわったスピーカーなどは、ニアフィールド・リスニング向けといえよう。

こうして見ると、ECLIPSE Home Audio Systemsはニアフィールド・リスニングには最適なスピーカーと言って良さそうだ。フルレンジのシングルユニットなので、近くで聴けば位相差等が発生せず、情報が直接耳に届くような感覚が実感できる。それでいて、前方定位の明快なステレオイメージも味わえる。

ステレオイメージを尊重した確かな録音ソースを、スピーカーと対峙するように聴いた音は、ヘッドフォンで聴くものとは明らかに違う。ECLIPSE TDスピーカーのユーザーには、そうした点を改めて意識しながら音楽と対峙してみることをお薦めする。