ハイレゾで聴く女性ヴォーカルの魅力
小原由夫のサイト・アンド・サウンド(Ver.2:第35回)

ECLIPSE Home Audio Systemsのようなフルレンジユニット1基のスピーカーの良さが発揮されるプログラムソースのひとつが、ヴォーカル作品である。

楽器ほどには広い周波数レンジをカバーするのでなく、口という明確な発音源があるので、音像の定位感の善し悪しが判断しやすく、私たちの耳に最も馴染みのいい音といえる。

スピーカーの設計においても、かつてのBBCモニターを筆頭とした放送局用モニタースピーカー、あるいは劇場用スピーカーなどで、アナウンサーの声の明瞭度や役者のセリフの実在感を目安に設計されたモデルが少なくない。ある意味、声の再現力が良好なスピーカーは、優れたスピーカーと言ってもいいだろう。

フルレンジユニットは、当然のことながら周波数を分割するためのクロスオーバーネットワークがないので、声の帯域が2つのユニットに分割されることがない。それがTDスピーカーの克明な音像定位を齎らしていることは明らかだ。さらには、卵型エンクロージャーが音場のパースペクティブをより豊かなものにしてくれるので、ヴォーカリストと伴奏の距離感が一層立体的に醸し出されるのである。

私はいま、ジャズ・ベーシスト/チャーリー・ヘイデンが率いるカルテット・ウエストのアルバム「ソフィスティケイテッド・レディ」を聴きながらこの原稿を書いている。同アルバムは、12曲中にヴォーカル・ナンバーが6曲あり、メロディー・ガルドー、ノラ・ジョーンズ、カサンドラ・ウィルソン、ダイアナ・クラール等の女性ヴォーカリストがバラードをしっとりと歌っている。これは、米HD Tracksから96kHz/24ビットで配信されているハ イレゾ音源だ。艶やかな声の質感再現は、紛れもなくCDのそれを凌駕し、微細なニュアンスの描写はハイレゾならではといっていい。デスク前に並ぶ愛用のTD712zから、彼女等の音像フォルムがくっきりと確かな音像を伴って克明に定位しているのが実感できる。

ハイレゾ音源で味わう女性ヴォーカルの魅力とは、こうした艶かしい質感や微細なイントネーションが一段とリアリスティックに再現されることだ。ひいてはそれが、歌い手が込めた詞の世界観や、それに伴う感情の推移を現わし、リスナーに鮮明に訴え掛けてくることで、私たちはゾクッとしてしまうのだ。そして、その浸透力、迫真性が一段と明瞭で強いのが、ハイレゾ音源なのである。

女性ヴォーカルをハイレゾ音源で楽しむには、音楽配信サイトからダウンロードするのが最も賢い。前記の米HD Tracksでは、ロッ クやポップス、ジャズ等のジャンルで様々な女性ヴォーカリストの作品が購入できるが (しかも円高の昨今は割安感もある!)、私のお薦めはマデリーン・ペルーの新譜「スタンディング・オン・ザ・ルーフトップ」だ。ジャズがベースにある歌手だが、カントリー調、ブルーグラス風、ブルース調など、ヴァラエティに富んでいて楽しい。やや擦れた声質が往年のビリー・ホリディを彷彿させる。録音もとても優秀で、96kHz/24ビットでの配信だ。

オンキヨーが擁する音楽配信サイト「e-onkyo music」では、お馴染みの綾戸智恵、藤田恵美の音源が96kHz/24ビットにて配信されている。特に藤田恵美の「camomile smile」は、録音/マスタリングにおいてオーディオ的要素を意識した音づくりが成されている。

ハイレゾで女性ヴォーカルを聴いたことがまだないという方は、ぜひ一度、これらの音源を体験していただきたい。おそらくは、ゾクっとして肩が竦むか、うっとりとして全身から力が抜けるか、どちらかだ。