音楽ジャンルとタイムドメイン
小原由夫のサイト・アンド・サウンド(Ver.2:第37回)

「これはジャズ向きのスピーカー」とか、「□□□で聴くクラシックは最高」とか、よく聞くことがある。例えば昔からJBLはジャズ向きと言われるし、クラシックを聴くならタンノイがベスト、と言った具合だ。

その賛否はともかく、「スピーカーは楽器である」という考え方に基づくならば、楽器を使って楽器の音(パッケージソフト等の音楽)を再生するという理屈になり、こうした得意分野の区分けにちょっと矛盾を感じたりもするのだが、世の中の大半はそれで問題ないのだから、ひとまず由としておこう。

JBLがジャズ向きと言われるのは、あのコンプレッション・ドライバー+ホーンスピーカーから、威勢よくサックスやトランペットが張り出してきた時の“前寄り”のエネルギー感に堪らないものがあり、軽量で反応のよいペーパーコーン型ウーファーが繰り出すウォーキングベースの量感を一度経験したら、他に代替えが効かないと思ってしまうわけだ。一方、タンノイがクラシック向きといわれるのは、デュアルコンセントリック型同軸ユニットの定位感のよさがオーケストラの細部をくっきりと描写しながらも、エンクロージャー全体の響きのよさやが朗々とした重厚さや豊満さを醸し出せるからだと思う。

翻ってECLIPSE Home Audio Systemsは、何向きなのだろうか? どんな音楽ジャンルを最もうまく再生できるのだろうか?それを解くヒントは、ECLIPSE Home Audio Systemsのエンドースメントにどんな楽器奏者が多いかを分析してみると、ある種の傾向が掴めそうである。

ECLIPSE TDのWebサイトには、ユーザーであるプロの演奏家名が掲載されている。その中の一番上の「MUSICIAN」のリストを見てほしい。現在、36名が挙がっているが、当方のわかる範囲で楽器を分類し、多い順に羅列すると、弦楽器奏者が14名、ヴォーカリストが10名、ピアニストが7名、打楽器奏者が2名、管楽器奏者が2名、不明1名という具合だ。捉え方にもよるが、ピアノもハンマーで弦を叩いて音を出すことから、打楽器という解釈もできる。そうすると、ヴォーカリストと打楽器奏者はほぼ同数となる。

この数字からひとつの考察を導くことができる。それは、弦楽器奏者と打楽器奏者が多いという現実は、ECLIPSE Home Audio Systemsの特徴を如実に現している、ということである。

ECLIPSE Home Audio Systemsが最も重視している特性は、インパルス・レスポンスである。立ち上がりを素早く、そしていつまでもダラダラと余韻を残さず、速やかに減衰するように設計されている。こうした資質は、弦楽器や打楽器の再生において極めて重要なポイントである。つまり、エンドースメントとして名を連ねる弦楽器奏者や打楽器奏者は、日頃接している自分自身の楽器の音を再生する上で、ECLIPSE Home Audio Systemsの本質を見事に聴き分け、それに感銘を受けたが故に自分の名前を掲載することを許諾したのではないだろうか。

俊敏に立ち上がってほしい打楽器の音は、その強弱さえも正確に再生したい。繊細なビブラートを醸し出す弦楽器の響きを、いたずらに引き伸ばすことなく、演奏家の意図通りに震わせてほしい。そして、いずれの楽器も色付けのない、自身だけの音の個性を素直に再現してほしいと思っているからこそ、ECLIPSE Home Audio Systemsのそうした美質に他とは違う何かを感じ取ったのだと思う。

別な角度から見れば、ECLIPSE Home Audio Systemsが忠実に再現し得る楽器は、弦楽器や打楽器が最も得意ということも言えるのかもしれない。

ここで誤解のないよう、くれぐれも申し上げておくが、ECLIPSE Home Audio Systemsは人の声や管楽器の再生が不得手ということでは決してない。以上は比率的な枠内から導き出した、私個人の考察と捉えていただきたい。

得意楽器がわかったところで、それが音楽ジャンルの特定には至っていないではないか、という声が聞こえてきそうだが、ごもっとも。確かにこれだけで特定するには、ちょっと苦しかった。スミマセン……。