モニタースピーカーとECLIPSE Home Audio Systems
小原由夫のサイト・アンド・サウンド(Ver.2:第38回)

録音スタジオ等で使われているスピーカーを、一般に「モニタースピーカー」と呼ぶ。これは、音楽鑑賞用ではなく、むしろ検聴、チェック用途という性格が強い。

こうしたスピーカーは、古今東西、放送局等の音声スタッフと共にプランニングされた例が多い。俗に言うNHKモニター、BBCモニターがその代表格だ。NHKモニターは、かつてダイヤトーン(三菱電機)の郡山製作所がNHK と共に共同開発し、2S-305(昭和33年)、2S-3003(平成元年)といった名機が誕生した。しかし、三菱電機のスピーカー事業撤退に伴い、その継続が困難となったため、代わりにその座をフォスター電機/フォステクスが射止めた。RS-N2というモデルがそれだ。

BBCモニターは、KEFの創業者でもある技術者レイモンド・クック等が参画し、その基準/規定を制定。LS3/5Aというモデルが誕生し、これを英国のロジャースを筆頭に、スペンドール、KEFなどが生産した。70年代初頭のことである。

BBCモニターの関連資料において、「人の声(アナウンサーの声)が明瞭に再現されねばならない」という条件が提示されていたのを見たことがある。誰の声か聴き分けられることは当然として、語尾のアクセントやニュアンス、時にはアナウンサーの体調等も確認することができたのだろう。

翻って、ECLIPSE Home Audio Systemsは、放送局用モニターとなり得るか。デンソーテン/ECLIPSE Home Audio SystemsのWebサイトを見ると、何人かのレコーディングエンジニア、スタジオ関係者がECLIPSE Home Audio Systemsをモニタースピーカーとして使用していることがわかる。しかし、それはあくまでエンジニア個人の使用であり、放送局のすべての設備、あるいはスタジオ全体の標準スピーカーというポジションではない。

標準モニタースピーカーというからには、耐入力や指向特性、メンテナンス性、アクティブ型(パワーアンプを内蔵)など、様々な厳しい条件が課せられるはずだ。民生向けに小さな所帯でやっているECLIPSE Home Audio Systemsの現体制では、そうした要求に応えることは難しいのかもしれない。また、スタジオ等の固定設備だけでなく、中継車に設置する場合の可搬性等も勘案され、過酷なフィールドテストが課せられるのだろう(過去には、こうしたケースでECLIPSE Home Audio Systemsが使用されたことはあった)。そうした点では、現状の形態で望ましいのかどうかという問題もある。

以上挙げたような様々な条件や要求はひとまずさておき、その持っているポテンシャルとして、ECLIPSE Home Audio Systemsにモニタースピーカーとしての資質がないかと問われれば、私は「ある」というスタンスだ。その理由は、人の声の明瞭な再現に長けたシングルコーン/フルレンジ型ユニットを採用しているからである。

2ウェイのスピーカーシステムでは、ウーファーとトゥイーターのユニット間をつなぐクロスオーバーネットワークが不可欠だ。そのクロスオーバー周波数の設定如何では、声の重要な帯域にかかってしまう。声の再現性に違和感を感じるスピーカーシステムの場合、大抵はこのクロスオーバー周波数の設定に起因する問題が起こっている。

ECLIPSE Home Audio Systemsで人の声(それが歌でなくとも、FM放送等のアナウンスの声でよい)を聴くと、クロスオーバー周波数のないシングルコーン/フルレンジユニットはほんとに「いいなぁー」と、改めて感じ入ってしまう。音像定位のよさはもちろん、アクセントやニュアンスといった微細な質感の再現力が実に素晴らしいのである。