よく、「この音は自然だ」とか、「ナチュラルな音のスピーカー」といった言い方をするが、私は最近、この言葉の使い方は正しくないのでは、と思っている。つまり、音が自然か不自然かは、プログラムソース側、すなわちCD等の録音状態に要因があって、よく出来たスピーカーは、それを忠実に再生しているだけなのではないかと思うのだ。

そうした点を踏まえると、スピーカーには忠実性、中立性が求められる。いわば、「ニュートラル」である。この「ニュートラル」と「ナチュラル」とを明確に区分せずに使ってしまうケースが多いのである。ニュートラルな音を、ナチュラルな音と形容してしまうのだ。これは誤りである。

音質/音色でいうニュートラルとは、冷たくもなく熱くもなく、暗くもなく明るくもなく、鋭くもなく鈍くもなく、といった感じだろう。まさに「中立」である。だからこそ、プログラムソースの持っている濃淡や明暗、さらに言えばアーティストが演奏に込めた精神性や心情がストレートに再現されるのだと思う。ニュートラルでなければ、演奏家のそうした意図やねらいが湾曲されたり、脚色されたりしてしまうわけだ。

ナチュラル」とは、言うまでもなく、自然という意味だ。素材そのまま、である。ナチュラルな音か否か、つまり自然か不自然かは、プログラムソース側の問題、つまり、自然な声や自然な楽器の音で録音されているかどうかが問題、と思うのだ。

声や楽器が自然か不自然かは、生音に触れる機会を増やして耳を養うしかない。そうして生音の“生”たる自然さを感覚的に掴み、確固たるものにするしかない。

スピーカーの不自然さは、スピーカー固有のクセともいえよう。そのクセとは、どんな要因から生まれるのか。第一に考えられるのは、エンクロージャーの形状や材料。それ自身の響きが強く、可聴帯域内で特定の共振を持つようならば、それは多くの場合、音色をかなり支配する。

振動板も重要だ。ウーファーやスコーカーについては、かつては紙(パルプ)が主流で、後にポリプロピレンやクロスカーボン、昨今はマグネシウムといった材料が使われている。
マグネシウムはトゥイーターにも応用されているが、この高域ユニットには、シルク系からアルミニウム、チタン、ベリリウム、ダイアモンドといった振動伝搬速度の速い材料が使われている。

振動板の重要なファクターは、1)軽さ、2)固さ、3)内部損失の3つといわれる。この3つが最適なバランスになれば、クセのない振動板が作れるのだろうが、そう一筋縄にはいかない。異種材料を複合させることで、材料固有のクセを取り除こうというアプローチも様々に取り組まれている。

磁気回路の影響も無視できない。かつては、アルニコ磁石の音、フェライト磁石の音などといわれることがあった。それは無視できる部分と断定してしまっては、欧米製スピーカーの古典的名器を否定することになる。

では、どんなスピーカーがニュートラルといえるのか。言い換えれば、中立ではなくなるスピーカーの要素とは何か。そのひとつは、「トランジェント」ではないだろうか。入力信号に追従していかに早く立ち上がり、いかに早く立ち下がる(収束する)かが、ニュートラルな音を決める大事な要素と思うのである。

ならば、トランジェントを左右する部分は何だろう。これは、振動板、センターキャップ、エッジ、磁気回路、クロスオーバーネットワーク、エンクロージャーとその固定方法など、スピーカーのあらゆる部分が関わってくると思う。

ECLIPSE Home Audio Systemsは、そのすべての要素において、真摯な取り組みで突き詰めていったスピーカーだ。新しいTD510ZMK2TD508MK3には、その最新の成果が盛り込まれている。

現代のニュートラルなスピーカーの代表格は、ECLIPSE Home Audio Systemsというのが私の認識だ。