店頭デモの講師や試聴取材等で、TD510ZMK2と接する機会が増えている。聴けば聴くほど、このスピーカーはよくできているなあと感心する。コストパフォーマンスという点では、歴代のTDシリーズの中でも抜群ではないだろうか。今回は、このTD510ZMK2のよさについて再び私見をまとめてみたい。

以前にも記したが、TD510ZMK2のエンクロージャーは、先代に比べて容積が14%増しになっている。グランドアンカーの質量は16%アップし、そのジョイントにアルミ製パーツを採用したことで磁束漏洩が減少し、磁束はプラス4.5%とのこと。さらには、背後のポートの断面積を32%大口径化し、風切り音を低減した。スペック面でも、許容入力、能率、再生周波数帯域、歪み率といった性能がアップしている。

こうした内部構造と仕様の変更に伴い、TD510ZMK2は、上位機種のTD712zMK2を脅かすほどのサウンドパフォーマンスを獲得したのではないかと私は感じている。1本足のフロアースタンドの採用など、デザインを含めた完成度は素晴らしい。

今回テーマにしたい点は、このフロアースタンドについて。TD712zMK2のスタンドは、真っすぐである。一方のTD510ZMK2のそれは、前方に傾いている。お辞儀しているような、ちょっと前かがみという姿。どちらも流線型の断面で、視覚的なエレガンスと音響的な共振分散というふたつの目的を獲得しているが、ではなぜTD510ZMK2は前方傾斜になったのか?

今回私は、設計者にメールでちょっと意地悪な質問をした。「前方取り付けのスピーカーユニットとのバランスを考えると、後方に反っている方が重心的に有利なのでは?」と尋ねたのだ。すると設計担当エンジニアから届いた回答メールは、「重量物であるグランドアンカーがステー位置後方にあるため、後方傾斜が有利には決してならない」というもの。

マルチウェイユニットを用いたスピーカーなどでは、音源位置を揃えるためもあって、低域ユニットを手前に出し、高域ユニットを少し後ろに下げてレイアウトするのが一般的だ。同一平面上にレイアウトされているケースでは、後方傾斜のスピーカーシステムは確かに多い。しかし、ECLIPSE TDシリーズスピーカーはフルレンジユニット1基であるし、グランドアンカーという“隠し球”が中に入っている。そうか、一般的なスピーカーの通例が当てはまらないのはそうしたことだったかと、大いに合点がいったわけである。

それよりも、設計エンジニアからの回答の中に興味深い記述があった。傾斜させたのは、上位モデルのメカニカルなイメージを軽減させ、支柱部をさらに細身にすることで、共振/反射をさらに低減することが目的であった。当初は後方傾斜の案も出たが、先のような理由で後方傾斜に固執する必要はなく、それならばと「前のめり」案が出されたのだという。「音を発射するぞ!」という積極性もそのルックスからイメージできるのでは、というユニークな視点もあるようだ。安全規格面での転倒角度を最優先に、見た目の安心感と、後方から見た美しさなども踏まえ、デザイナーと試行錯誤した末、現状の前方6度傾斜という形に落ち着いた。

たった6度でも、視覚的な佇まいは真っすぐとは大きく異なり、さらには音響的な意味も持っていたというこの傾斜。ぜひ実機で確認していただきたい。その際は、ちょっと離れて、後方からのライン、フォルムもぜひ!