オーディオにさほど関心のない人と話していると、僕らが機器の音質や操作性に一喜一憂する事を不思議がられる。ましてや、何百万円もするオーディオ機器を使っていたり、「いま欲しいんだよね」などと高級機の話をすると、ちょっと怪訝な顔をされる。つまり彼らの感覚からすれば、そんなことをしなければ音楽が楽しめないのか、そこまで機械に投資しなければいい音が望めないのか、という疑問符が頭の中をもたげているのだ。

もちろんそんなことをしなくても音楽は楽しめるし、良い音も聴けると思う。しかし、僕らオーディオマニアのこれはもう性分なのだ。音をより良くしたいし、高級な機器に憧れ、実際に購入して物欲を満たしているようなところがあるわけで、その点はたとえどんなに揶揄されようと、嘲笑されようとも譲れない部分なのである。

しかし、長い間オーディオに携わっていると、時々驚くほどコストパフォーマンスの高いモデルに出会うことがあって、頭を抱えてしまう。ここでいう頭を抱える理由は、ほとんどノウハウを施していないにも関わらず、こんなに簡単でコンパクトで安価なくせにパッといい音が出てしまい、どうしてこんなに魂が揺さぶられるのかが、これまでの経験や知識からは納得できずに、「おかしいなぁ」と思ってしまうからである(これまで投資してきた金額や時間が馬鹿馬鹿しく思ってしまう、というようなネガティブな理由では決してない)。

そうした観点からすれば、「TD307MK2A」は、充分に安価だが、先代からの改良点が目に見える範囲では判然とせず、しかしどうしてこんなに音がいいんだろうと不思議に思う最右翼なのだが(先代機オーナーとしては心中穏やかではない)、その「TD307MK2A」と組み合わせて音を聴き、まさしく“たまげた”のが、雑誌の付録のデジタルアンプだったのだから、それはもう「困った」という感じなのである。いいですか、付録ですよ!

ステレオサウンド別冊「DiGiFi」の最新号Vol.7がそれ。件の小型デジタルアンプは、この雑誌付録なのだ。その記事中、このデジタルアンプがスピーカーの違いをきっちりと描き分けてくれたことが記されている。ちなみにテスターを勤められたヴァィオリニスト「中西俊博」さんのコメントでは、このデジタルアンプで聴いた「TD508MK3」の評価はかなり高い。

スピーカーの違いがわかりやすいということは、逆に捉えれば、このデジタルアンプは際立ったクセがなく、非常に素直なバランスとナチュラルなトーンを有していると言い換えてもよい。アンプに強烈な個性、音のキャラクターがもしもあったならば、こういう振る舞いはしない。アンプ固有の音がもっと強く出るはずで、つまり完全に黒子に徹しているわけだ。

私が自宅でこのデジタルパワーアンプに「TD307MK2A」を組み合わせて聴いても、同様な印象を抱いた。ECLIPSE Home Audio Systemsの特色がよく出ていて、空間にフワッと音楽が解き放たれ、ソリストの小さな音像やミニチュア的なオーケストラが整然と浮かび上がるのである。

ECLIPSE Home Audio Systemsも、アンプの違い、その個性を明快に描き分ける能力を持った希有なスピーカーだ。ニュートラルなモノ同士のコラボレーションによって、音楽ソースに含まれた楽器のニュアンスや録音現場のアンビエントがスムーズに現われたのである。

なお、本稿がデンソーテンのWebにアップされる頃には、「DiGiFi Vol.7」号は売り切れている可能性が高い(本稿執筆の9月3日時点で、Amazon等ではもう完売状態で、新たに注文を受け付けていない)。手に入らなかった場合は、どうぞあしからず。