サブウーファー考現学 その2/小原 由夫のサイト・アンド・サウンド(Ver.2:第5回)

今月は、理想的なサブウーファーについて考えるという、前回の続き。

サブウーファーは、それ自身が振動源だ。大きな低音を出すには、ウーファーユニットの振動板の口径も大きくなるし、前後に動くピストニックモーションも広くなる。当然そうなれば、エンクロージャーも大きくせざるをえないし、大出力のパワーアンプが不可欠となる。

つまり、振動の塊みたいなものなのだ。設置場所の床が柔だと、振動が床を伝わって盛大に床を揺さ振り、クリアーな低音はとても望めない。聴いている当人はよくても、周囲はもちろん大迷惑。矩体を伝わって家全体がビリビリ共振、なんていうことも充分起こり得る。

サブウーファーに求められる要件は、エンクロージャーが振動しにくい条件を整え、いかにクリアーな低音を引き出すかという点に尽きる。そのうえで、組み合わせるスピーカーや再生するプログラムソースに合わせた機能や装備が備わっていればいいのだ。
そうした点で理想的なのが、イクリプスのサブウーファー、TD725swだ。なぜ理想的かというと、振動しにくいエンクロージャー構造を実現しているうえ、クリアーな低音を繰り出す独自の工夫を盛り込んでいるからだ。

イクリプスのコンセプトである「タイムドメイン」は、再生時に音楽信号以外の成分を極力出さないというもの。そのためスピーカーは卵型エンクロージャーであり、クロスオーバーネットワークを排したフルレンジユニット1発の構成であるのだが、サブウーファーが盛大に振動するようではこの理論と合致しない。コンセプトの統一という点からTD725swが目指したのは、「超高速サブウーファー」である。

ハイスピードな低音再生の実現には、足元がしっかりしていなければならない。ウーファーユニットが高速で動こうとした時に、グラついたり、振動したりでは困るわけだ。
TD725swは、フローティング構造。すなわち、ウーファーユニットがエンクロージャーに直接固定されているのではなく、特殊な緩衝材を介して固定されている。それゆえウーファーユニットの振動がエンクロージャーに直に伝わりにくい。

エンクロージャー側面に取り付けられた2発の25cmウーファーユニットは、2つを足せば35cmと同等のエネルギーを発揮する。1発でなく2発を使うメリットは、主に2つある。大きなウーファーを取り付けるには、当然ながら大きな面積の箱が必要になるが、小さくして2発に分ければ、その面積は小さくて済む。2つめの理由は、大きなウーファーの振動板よりも、小さな振動板の方が高速に動かしやすいこと。大きければ当然たわみやすいし、質量も重たくなる。

高速に動かすための工夫は、この2発のウーファーユニットの関係にも現われている。側面に取付けられたウーファーユニットの背中をアルミシャフトで結合し、同相駆動とすることで、一方のユニットはもう一方の動きを押さえ込むように働く。これがTDスピーカーと同様のスタビライザー効果を発揮し、レスポンスのいい低音が繰り出されるというわけだ。

前記したように、もちろん他の要素技術や装備もサブウーファーの重要な要素だが、ひとまずこれらの点がTD725swが他社のサブウーファーよりも理想的といえる理由である。なお、振動しにくいということは、振動が床に伝わりにくいということでもあり、集合住宅などで遠慮がちな音量を出している人にも、TD725swは打ってつけだ。

TD725swが発売されたばかりの頃、エンクロージャーの上に水の入ったコップを置き、音量を上げていってもコップが倒れて水がこぼれないというデモンストレーションをずいぶんと実施した。倒れないどころか、ほとんど水面が揺れないことに多くの来場者が驚嘆したものだ。

ハイビット/ハイサンプリング時代の音楽再生や、ロスレス音声の映画サラウンドなど、近年の音楽や映画の低音は、情報量も増え、よりヘヴィーになってきている。そうした時代に求められるサブウーファーの性能は、いかに入力信号に忠実で、いかにクリアーな低音をハイスピードに再現できるか。 TD725swはその最右翼といえよう。