スペック(仕様)から、スピーカーの何が読み取れるかという考察、前回の続きである。

3)定格入力/最大入力
定格入力とは、音楽などのプログラムソースを連続して鳴らしてもスピーカーが壊れない入力パワー。最大入力とは、瞬間的に加えてもスピーカーが壊れない入力パワーを表わす。つまり最大入力は、その値のパワーを入れ続けると、スピーカーがやがて壊れる可能性が高い、大きな音での再生値だ。

では、どのくらいの時間ならば壊れずに持ち堪えるかという点については、メーカーは公表していない。しかし、常識的に考えて1分以内だろう。

イクリプス「TD712zMK2」を例にとろう。その 定格35W、最大70Wという値は、特に問題視するレベルではない。アンプの定格出力が35W以上あれば、まず問題は生じないはずだ。

アンプの場合、この定格出力や最大出力が大きいほど、大きな音が出せる能力を示している事になるが、それはスピーカーと組み合わせて初めて現実味を帯びてくる数値だ。ならば、スピーカーもこの値が大きいほど大きな音を出せるのかというと、それは先月の前編で解説した「能率(出力音圧レベル)」に関わる。

また、当然の事ながら、定格入力や最大入力が大きい方が良い音がするかというと、然にあらず。例えばスピーカーの試聴記事等で見かける「パワフルな音」というのも、この定格入力や最大入力とはまったく関係ない。

4)インピーダンス
交流信号を加えた時に示されるスピーカーの電気抵抗の事。周波数によって変化するため、高域に向かって上昇していく直前の一番低い値で規定する。一般に8Ω、低い値でも4Ω、最近多いのは6Ωである。

スピーカーの性能には直接関係ないが、この値が低いと、アンプにとっては負荷が重い事になる。もちろんアンプが壊れてしまう事はないが、複数のスピーカーをつなぐAVアンプとの組み合わせにおいては、少々注意した方がいいだろう。つまり、4Ωのスピーカーを5本つないで大音量でサラウンド再生、という場合には、普及クラスのAVアンプには、案外苦しいものなのである。

さて、イクリプスのスピーカーのインピーダンスは、6Ωか8Ωだ。まず心配ない値である。

5)クロスオーバー周波数
イクリプスのスピーカーには、クロスオーバー周波数の表記がない。フルレンジユニット1基だから、クロスオーバー周波数が存在しないのだ。2ウェイ以上のマルチウェイスピーカーの場合、スピーカーユニット毎に受け持たせる帯域を分割させるが、それぞれのユニットの音が交錯する周波数をクロスオーバー周波数という。2ウェイスピーカーでは1箇所、3ウェイスピーカーでは2箇所のクロスオーバー周波数がある事になる。

このクロスオーバー周波数を分割するのが、スピーカーシステムに内蔵されている「クロスオーバーネットワーク」なのだが、その回路が位相を狂わせたり、出力音圧レベルや音質に大きく影響をおよぼす可能性がある事は、本連載の中でもこれまで何度となく記してきた。そうした要因を排除するために、イクリプスはフルレンジユニットを採用しているのである。

以上、2回に渡って解説したスペック、仕様の各項目からは読み取れない事で、しかし最も重要な事が1点ある。それは、スペックや仕様からは、そのスピーカーが良い音かどうかが全くわからないという事だ。 それは、同じようなスペックを持ったスピーカーでも音質、音色などが異なる点で証明されている。その為に、「良い音」、「悪い音」の判断を、「好きな音」か「嫌いな音」かの主観で評価してしまいがちであった。それがオーディオの趣味性の高さ、面白さともいえたのかもしれないが。

しかし、そうした評価に疑問符を付けたのがイクリプスである。生演奏などの音楽データをメディアに収録した際に、再生した音が元の生演奏とイコールであるべきと考え、独自の尺度(インパルスレポンス)を評価の軸に据え、音楽データを正確に再生する仕組みを徹底追求した。詳細はWebサイトをご参照頂きたい。

私が思うに、イクリプスの愛用者に世界的な音楽家やトップレベルのレコーディングエンジニアが多いのは、そうした生演奏の再現性に優れていることが大きいのではないだろうか。