ECLIPSEスピーカーの形態には、大きく分けて2つある。フロアー設置のスタンド一体構造(型番末尾にZが付く)と、デスクトップ・スタイルのベーススタンドタイプだ。イクリプスのホームオーディオのデビュー作512は、デスクトップ・ スタイル/ベーススタンドだったが、すぐにフロアー設置のスタンドが別売で用意され、その上にスピーカーを乗せるスタイルが提案された。

2001年に512を導入した私は、すぐにアクセサリーメーカーに依頼して、意見を交わしながら1本足の専用スタンドをデザイン、特注し、長年使用してきた(ベーススタンドを外して1本足に固定)。つまり、当初からこのスピーカーはスタンドアローン設置が望ましいと踏んだのである。別段、己れの先見性を誇示したいのではない。TDスピーカーほどコンセプトが明確ならば、それに相応しいコンディションを整えてやることで、潜在能力を120%活かすことができるのである。

さて、こうしたスタンドタイプ、あるいはトールボーイを含めたフロアー型スピーカーを床に置き、その近くに他の機器や家具類をなるべく置かないようにするスタイルを、「スタンド・アローン」と称することが多い。この設置方法の最も優れた点は、ステレオイメージの立体的な再現性だ。これは、ECLIPSEスピーカーのコンセプトとも見事に合致する。

過去にグラミー賞を10回も受賞し、今年の同賞でもマルチチャンネル・ミキシングを務めたパトリシア・バーバー(ヴォーカリスト)の「モダン・クール」にて「ベスト・サラウンド・サウンド・アルバム賞」を獲得した米国の録音エンジニア、ジム・アンダーソンは、TD510ZMK2を愛用している(イクリプスのHPにその様子やTD712zMK2を聴いた際のコメントがアップされている)。

私が感じているジム・アンダーソン録音のセールスポイントは、滑らかでナチュラルな楽器の質感再現に加え、演奏家の音の定位とそれぞれの距離感が目で見えるように生々しいことだ。すなわち、ステレオイメージの立体空間がリアリスティックなのである。

ジム・アンダーソンは、エンジニアとしてさまざまな場所、環境で仕事をするわけだが、可搬性を考えれば、よりコンパクトなTD510MK2を選んでもいいはず。しかし、TD510ZMK2 を愛用しているところに、やはりスタンド一体構造ならではのメリット、アドバンテージを彼なりに感じているに違いないのである。

ステレオイメージとは、2本のスピーカーを用い、例えば音場の中央にヴォーカリストの音像をファントム定位させ(左右のスピーカーで同位相、同レベルで再生すると、実体的な音像が現われる)、伴奏のギターやベース、ドラムスなどは、ヴォーカリストのやや後ろ側、左右のチャンネルどちらかに寄って位置するように広がる。つまり、私たちがライヴ等で視覚的に捉えたヴォーカリストとその伴奏陣の配置が、音の上からもイメージできる。これがステレオイメージである。

スピーカーの近くに家具などが置かれていると、この立体的な音の配置やリアリティが削がれることがある。音がそこに反射したり、共振したりして、音像定位や音場感を形成する要素を損なうからだ。

イクリプスのスピーカーは、卵型のエンクロージャーの採用や、ディフュージョンステーに代表される共振の排除により、まさしくフルレンジユニット1基から点音源のように音が放射され、空間にきれいに広がる。トランジェントのよさは正確な位相特性の再現にも寄与し、ステレオイメージの再現がすこぶる迫真的なのである。

では、TD510ZMK2のようなスタンド一体構造でなくとも、TD510MK2を然るべき汎用の市販スピーカースタンドに乗せれば同じ効果が得られるのではないかという意見もあろう。しかし、似通ったパフォーマンスは得られるが、決して同じにはならない。それは、スタンド一体構造で音質を追求しているかどうかという点に尽きる。

もちろん一体構造ならではのデザイン的なスマートさ、シンプルさも無視できない。TD510MK2には円形のフラットなベーススタンドがあり、それと汎用スタンドのデザイン/仕上げがマッチするか否かという問題も出てこよう。スタンドアローンを想定した設置を考えているならば、支柱とベース部のバランス、内部の剛性や角度など、最初からデザイン/音質面で配慮したTD510ZMK2の方が、遥かに明確なコンセプトを持っているのである。

次回は、スタンドアローンにおける一体構造のメリットを、TD712ZMK2を分析しながら より深く考察してみたい。