イクリプスTDシリーズ初のフロアースタンド一体型モデルTD712zがデビューしたのが、2004年。デンソーテンがホームオーディオ市場に進出してから、ちょうど4年目のことである。この1本足のスタンドを得たことで、TDシリーズスピーカーは、そのコンセプトである「タイムドメイン」を名実ともに強固にしたといってよい。

ラインナップ中、最大サイズの12cm口径フルレンジドライバーを搭載するTD712z。現在は、ドライバーユニットの細部の改善やスタンドの機構部の見直しを図ったTD712zMK2へ と進化しているが、基本的なフォルムや意匠的なアイデンティティーは変わらず、シリーズのフラッグシップモデルとしてイクリプスTDシリーズスピーカーを引っ張っていくイメージリーダー的位置付けにあり、要素技術やノウハウを惜し気もなく傾注したハイエンドスピーカーである。

初代モデルをかれこれ7年以上使い続けてきた私が日頃抱いているTD712zの特徴は、「タイムドメイン思想の揺るぎなさ」である。どういうことかというと、時間軸から見たレスポンスの徹底した正確さだ。フルレンジユニット1基から放出されるのだから、高域から低域まで位相遅れが生じにくいというメリットはあるのだが、それを裏打ちする要素として、「ディフュージョンステー」や「グランドアンカー」、さらにはエンクロージャーの構造、砂を充填したスタンド、床との設置部分となる脚部に至るまで、およそ考え得るキーポイントをタイムドメインのフィロソフィーに則って、適応した形で実用化した--ある部分ではコストを度外視して--その徹底ぶりに頭が下がるのだ。

TD712zMK2やTD712zのユーザーに、二人の 著名なドラマーがいる。屋敷豪太(TD712z)とハービー・メイソン(TD712zMK2)だ。各々のバイオグラフィー、イクリプスに対する印象は、イクリプスのWebサイトのUsed By欄に詳しく記載されているので参照いただきたい。

リズムセクションの要といわれるドラマーは、演奏の中でいわば“メトロノーム”的な役割も果たす。つまり、テンポを司るのだ。ドラマーが繰り出すリズムが不確かになれば、演奏全体のテンポが崩れることとなり、ひいては演奏そのものがチープなものになってしまう。どれだけ美しいメロディーや熱狂的なソロがあっても、リズムが崩れていては台無しである。音楽には、正確なリズム、明瞭なビート、適切なスピードが求められ、それをコントロールしているのが、ドラマーの役目といってよい。

屋敷豪太は、TD712zを評して「音が立っている」「レスポンスが早い」という表現をされている。その成果をもたらしている要素技術のひとつが、「ディフュージョンステー」だ。ドライバーユニットが直接バッフルに取り付けられていると、その振動はエンクロージャーに直に伝わりやすく、それが全体に伝搬して正確な再生をスポイルすることになる。いわば、正確なリズム、テンポを損ねることになるのだ。

「ディフュージョンステー」は、ドライバーユニットを強固に固定するが、エンクロージャーとは分離されているため、仮想的にフローティング状態をキープしているに等しい。さらに、ドライバーユニットとの接触部などにも特殊な素材を採用し、パーツ間で振動が伝達されないような工夫も盛り込まれている。

ハービー・メイソンは、「音楽のクリアさ、明確なステレオイメージ、ダイナミックレンジの広さ」に言及し、「低域再生能力は、この口径からは信じられない」と結ぶ。

TD712zMK2のドライバーユニットの口径は、12cmと決して大きくない。このサイズでしっかりと低音を出そうとすると、空気をがっちりグリップしながら、前後に大きく、速く、なおかつ正確に動かしてやらないとならない。そのためには、ドライバーユニットをがっちりと固定することが肝心だ。

それをサポートしているのが、「グランド・アンカー」である。この一種の重しが、スピーカーの反作用を抑制し、無駄な動きを止めているのである。さらに、剛性の高いアルミ製で共振しにくい独自の断面構造をした制振スタンド(内部には砂を充填)や、床との設置面で振動をアイソレーションする「スパイク・オン・インシュレーター」などが、低音再生のための、より理想的なコンディションを生み出している。

リズムを司る二人のドラマーが、低音再生能力だけでなく、立ち上がりの速さや無駄な動きの少なさを高く評価している辺りに、TD712zMK2のセールスポイントがあることを、 読者の皆さんにも今一度認識していただきたい。