早くも話題集中の「TD-M1」。この 1月に米国ラスベガスで開催された「コンシューマー・エレクトロニクス・ショウ」にて、「Stars of CES 2014」という、その年に出品された優れたプロダクツに与えられる名誉ある賞を早速受賞。幸先よいスタートだ。

その製品コンセプトや特徴は、デンソーテンのWebサイトに詳しく紹介されているので、ここでは割愛させていただくが、私は、TD-M1が実際に使われるであろうシチュエーションを想定し、その効能を考察してみたいと思う。

USB-DAC内蔵パワードスピーカーというのが、平たく言ったTD-M1の形式だろう。もちろん、USB-DACの内容のユニークさ、あるいはデジタル・パワーアンプの仕組みなど、こだわりの部分は多々ある。DACがハイレゾ対応という点やAirPlay準拠という点を踏まえれば、TD-M1はやはりPCオーディオやデスクトップオーディオ用の優秀なモニタースピーカーという位置付けになるだろう。つまり、本体背面に備わったUSB-B端子には、PCからのUSBケーブルが接続されることになる。では、他の機器との組み合わせではどうだろう。

AirPlayやBluetoothは確かにワイヤレス伝送という点で便利だ。しかし、現状ではまだ送信できるデータ量に制限があり、ハイレゾ音源への対応が十分でない。その点、ワイヤード接続であれば、ハイレゾの再生が可能で、TD-M1の性能がフル活用できる。iPhoneやiPad等では、昨今ハイレゾ音源が再生できる専用アプリがぽつぽつとリリースされている(オンキヨーのHF Playerなど)。それをインストールし、Apple純正のUSBカメラアダプタを用いれば、簡単な結線と操作でTD-M1から ハイレゾ音源を楽しむことができる。

実際に試聴してみると(当方所持のiPad miniを使用)、すこぶるワイドレンジで立体的なサウンドが楽しめ、少々驚いた次第だ。192kHzサンプリング/24ビット/FLACの「ムラヴィンスキー指揮、レニングラード・フィル/チャイコフスキー交響曲第6番<悲愴>」を再生すると、デスクトップ上に規則正しく並んだ小人のオーケストラを俯瞰して聴いているようなイリュージョンが味わえた。

アナログ入力には、例えばテレビの音声出力からケーブルをつなぎ、テレビの音声強化を図ってもいい。昨今のテレビは薄型化され、ベゼル(枠)も細くなっていることで、スピーカーに皺寄せがきており、口径も容積も十分なスペースがとれず、その結果、再生音の品位が劣化するばかりだ。おかげでアナウンスも聞き取りづらく、音楽番組を聴いているとストレスが溜まってくる。そんな不満は、本機を組合せることですっかりクリアーされる。

テレビ使用でのもうひとつの利点は、音がしっかりと前に出てくるということ。前記したような制約から、現代のテレビは内蔵スピーカーが下向きに付けられているケースが多い。こうした方式では、テレビラック等の天面の反射を利用して音を前へ跳ね返らせているのだが、何となくこもった感じに聞こえ、明瞭度が悪い。定位のよさ、自然なエネルギーバランスというのがTDスピーカーの特質だ。こもったようなテレビの音が、まるで霞が晴れたようなすっきりとした見通しの音になること受け合いだ。

他にも使い途はいろいろ考えられる。もしも私が宅録などをやるプライベート音楽家だったら、小さなキャリーバックかアルミケースに他の機材と一緒にTD-M1がぴったり収納できるように工夫し、持ち運んで使ってみたい。出掛けた先でササッと出してすぐにモニターすることができるだろう。DACもパワー アンプも内蔵だから、機材も少なくて済むのではないだろうか。

ヘッドフォン愛好家にとっても、本機は少ない投資、省スペースで、比較対照のリファレンス足るモニタースピーカーとして使えるのではないだろうか。私自身も最近多くなってきたヘッドフォンのテストの仕事だが、長時間に渡って何機種も試聴を続けていると、耳に結構な負担がかかる。そんな時、ヘッドフォンを外して休憩したり、判断に迷って基準の音を確認したりする際に、TD-M1がリファレンスモニターとして重宝しそうだ。

TD-M1を前にして私が思うのは、本機がPC オーディオやネットワークオーディオ、ひいてはHi-Fiオーディオ全般の敷居を一気に引き下げてくれたということ。簡単かつシンプルなシステムとその操作手順により、誰もがマスタークォリティの音を手にすることができるようになったのは、とても大きな進歩だ。極上のハイレゾオーディオシステムが、こんなにスマートな形体で実践できるとは、いい時代になったものである。