小原由夫の
Sight&Sound
ver.2
vol.59
TD316SWMK2のコストパフォーマンスに驚く
USB-DAC搭載パワードスピーカーTD-M1や、待望久しい大型サブウーファーTD725SWMK2の影に隠れて、あまり目立たないかもしれないサブウーファーTD316SWMK2。新しくなったこのエントリークラスのサブウーファーは、実は驚くべきポテンシャルを秘めていたというのが、今回自宅で試聴する機会を得た、偽らざる私の実感だ。
実は、TD-M1やTD725SWMK2は、試作途中の 過程で何度か聴かせていただくことがあり、技術者との意見交換等もしてきたのだが、TD316SWMK2は開発スケジュールの関係で一度も聴く機会を得ないまま、発表、発売となっていた。
先代の316SWは、TD725swよりも早期にリリースされた、イクリプス初のサブウーファーであった。バケツのような形状の円筒型のキャビネットを有し、ウーファーユニットを上面に向けて取り付け、全方位に低音を放射するような形式を採っていた。主にサラウンド/マルチチャンネル環境での使用を前提に設計されていたため、機能としては後に発売されたTD725swのような多機能なものではなかった(リモコンも未対応)。
新しくなったTD316SWMK2は、まさしくデザインから機能まで、TD725SWMK2の直系のポジションにある。まるでTD725swを縮小したか ような外観だ。ラウンドエッジでこそないものの、キュービックスタイルのエンクロージャー両側面に16cmコーン型ウーファーを搭載した「R2R TWIN DRIVER」方式になっている。また、すべての機能がリモコンで操作できるようになった点もセールイポイントだ。
今回はTD508MK3、TD307MK2Aとの組み合わせで、TD316SWMK2のパフォーマンスをチェックした。接続としては、パワーアンプからの出力(スピーカーケーブル)をまずTD316SWMK2に接続し、そのスピーカー出力を各スピーカーに配線するという「スピーカー入力」での接続である。
まずはTD307MK2A。クロスオーバーを細かく動かしながら、最終的には80Hz近辺に設定し、出力レベルを慎重に追い込む。TD316SWMK2本体は、左右のスピーカーの中心から70cmくらい手前のリスナー近くに設置すると、いい感じのつながりになった。「ホリーコール/ナイト」では、ベースのピチカートが実にいい感じで太く、適度な厚みを伴って再現された。ミュートを付けた短い余韻の響きだが、TD316SWMK2の電源をオフすると途端に低音が淋しくなると同時に、切れのよい響きであることも実感する。また、サブウーファーを追加することで、ホリーの声にも豊満な響きが乗る。つまり、よりリアルになるわけだ。「上原ひろみ/MOVE」のハイレゾ音源では、ドラムの多彩な音色でウーファーとスピーカー本体が分かれてしまうようなことは無く、上手く一体となってつながっている。具体的には、フロアータムやバスドラムなどの低いピッチの太鼓のつながりがしっかりしているのだ。もしもこれがバラバラに鳴っているようでは、音楽にいまひとつ乗れないはず。「レスピーギ/ローマの松」は、米リファレンスレコードのハイレゾ音源。第1楽章の煌びやかでカラフルなオーケストレーションのリズムが立体的に再現されながら、第2楽章のコントラバスを中心とした荘厳な雰囲気も重厚に再現されていた。
続いてTD508MK3を接続。こちらはクロスオーバー周波数のツマミを左に絞り切った60Hzよりも若干戻した感じのところでいい按配に落ち着いた。65Hz近辺といったところか。TD316SWM2のレベルはTD307MK3Aの時よりもやや大きめ。スピーカーの能率がTD307MK3Aに比 べて若干高めだからだ。
「ホリー・コール」では、TD307MK3Aに比べ てウッドベースの質感がより生々しい。重心がグッと下がり、安定感がある。まさしく縁の下の力持ち的振る舞いで、音楽のボトムを支えるという感じだ。目を瞑って聴いていると、大きなフロアー型スピーカーが鳴っているような錯覚すら抱く。末広がりのピラミッド状のエネルギーバランスでありながら、定位のよさ、空間再現のリアリティは、まさしくTDならではのよさが感じられる。バッフル面の反射やエンクロージャーの微振動の影響もあって、大型スピーカーではこうした要素がなかなか実感しにくい部分。そこに量感過多にならず、鈍重さとは無縁の鋭敏な低音がプラスされているのだ。「上原ひろみ」ではとてもバランスがよく、ベースとドラムスが一丸となって演奏をグイグイ引っ張っていくようなイメージだ。「ローマの松」でも、立体的な響きやスケール感で不満はまったくなく、なおかつハイレゾ音源らしいワイドレンジ感、ステレオイメージの奥行き感や豊かなプレゼンス感が感じ取れた。特に第4楽章のクライマックスのクリアーな低音の響きには、エンクロージャーの共鳴に頼らずに、ウーファーが素早く動いている恩恵が感じられる。
TD316SWMK2のパフォーマンスには、かつてTD725swが登場した時のような驚きがある。 つまり、重低音が実に小気味よく繰り出されてくるのである。スペースの関係上、あるいは予算面からサブウーファーの導入に躊躇していた人には、格好のアイテムとなるのではないだろうか。