「TD712zMK2」登場!/小原 由夫のサイト・アンド・サウンド(Ver.2:第6回)

08年2月の「TD712z」生産完了以来、ほぼ1年間空席だったイクリプスのフラッグシップモデルの座。ようやくそこに新製品が就いた。型番は「TD712zMK2」。2世代目の名称としては在り来りなものだが、その進化には「目を見張るものがあった」というのが、去る1月下旬、兵庫県神戸市のデンソーテンのスタジオにて出来たてホヤホヤのニューモデルを聴いてきた私の印象である。今回はそのアドバンスポイントを挙げながら、サウンドインプレッションを記してみたい。

写真で見る限り、フォルムやカラリングは初代機の「TD712z」とあまり変わっていないように映ることだろう。しかしよく見ると、卵型のエンクロージャーが少し大きくなったことに気付かないだろうか。実は内容積が約50%アップしている。この大型化が低域周波数特性の拡大につながっているのは確実で、これまでやや不得手と指摘されることの多かったコントラバスのボウイングの豊かな量感や、グランカッサ(大太鼓)の分厚い一撃がとてもしっかりと出るようになった。こうした低音感の増強は、マグネットの磁束密度のアップ(約10%)も寄与していることは間違いない。

大きな改善点は、フルレンジのドライバーユニットにも見て取れる。振動板は従来と同じグラスファイバー系の材料だが、組成や形状(コーンのカーブ)を変更したものを採用。これが聴感上のS/N感に大きく貢献していると私は感じた。音楽のピアニッシモが一層引き立つのである。ライヴ盤を聴くと、会場の微かな暗騒音が一段と鮮明に浮かび上がってくるし、声の微細なビブラートや楽器のニュアンスが殊の外クリアーなのだ。これには、コルゲーションエッジの採用(従来型はロールエッジ)によると思われる高域特性の改善や、より高いリニアリティーを発揮するダンパー形状の採用などが寄与しているように思う。

こうして「TD712zMK2」は、低域側が5Hz、高域側か6kHz拡大され(35Hz~26kHz)、出力音圧レベルも0.5dBアップした84dBとなった。なお、ディフュージョン・ステー やグランド・アンカー、スパイク・オン・インシュレーターやフローティング構造といった従来からの優れた要素技術はそのまま継承されている。

設置性の向上も見逃すわけにはいかない。フロアスタンドを用いた基本的なスタイルは同じだが、ネック部の構造を見直し、スタンドとデザインの一体化を図り、さらに従来はやや時間を要した角度調節機構も、ダイヤル式の固定方法を新たに考案。わずか数十秒で所望の角度に簡単に調節できるようになった。

こうした改善点は、ハイパワーやワイドレンジ再生といった、これまでイクリプスTDシリーズスピーカーのウィークポイントと指摘されてきた部分をクリアーしながら、一方でイクリプスTDシリーズスピーカーならではのセールスポイントであったスピード感やトランジェント感、空間表現力をさらに理想に近付けるというコンセプトが実を結んだものといってよい。

12cmのフルレンジユニット1基のスピーカーから、果たしてどれほどのハイパワーサウンドが出てくるのかと、中には疑念を抱かれる方もいるかもしれない。なにはともあれ、私に騙されたと思って販売店などでぜひ「TD712zMK2」を聴いてみて欲しい。あるいは、先代モデルでワイドレンジ再生向きではないとレッテルを貼った方も、そうした印象を一旦白紙に戻していただきたい。

間違いなく、音の進化に気付くはずだ。

オーケストラを聴いても、その響きの分厚さやスケール感の豊かさが出せるようになった。しかも個々の楽器のピッチが鮮明に出るので、ハーモニーが緻密に聴こえる。低音がモリモリ出るとはいわないが、フュージョンやロック系の素早いビートにも克明な芯が感じられる。悔しいけれども、先代の「TD712z」のオーナーとしては明らかなアドバンスを認めざるをえない。

きっと私以外にもフラストレーションを感じる「TD712z」オーナーは相当数に登ることだろう。