小原由夫の
Sight&Sound
ver.2
vol.62
DOLBY ATMOS用にECLIPSEスピーカー導入
前回のこの連載で、DOLBY ATMOSとECLIPSEスピーカーの相性のよさについて解説した。その理由を要約すれば、
1)自立させやすいサイズと質量
2)特別なアダプター無しで固定しやすい構造と仰角調整機構
これらは物理的な側面といえるが、サウンドクオリティ面でも、ECLIPSEスピーカーはDOLBY ATMOSのサラウンド再生に好都合だ。
その第1点が、優れた位相特性。DOLBY ATMOSは、レンダリングといって、スピーカーの設置状況に応じて、どのスピーカーに、どんな音を、どれぐらいの割合で伝送するかという計算をAVアンプ内でおこなう。この場合、相関するスピーカー間で余計な干渉があっては困る。つまり、マッチングが非常に大事ということだ。干渉によって、正確な音場感やレンダリングでの最適効果が得にくくなる。結果的にサラウンドサウンド全体のつながりが悪くなるというわけだ。
ECLIPSEスピーカーの第2のメリットは、際立ったサウンドキャラクターがないということ。一般に、スピーカーは特定のキャラクターに魅了されて選ぶ傾向にあるが、時にそれは、ソフトに収録された音楽の個性を湾曲しかねない。つまり、特定の色をスピーカーが新たにつけてしまう可能性があるのだ。その点でECLIPSEスピーカーは、「無色透明のサウンド」と言ってよく、再生音に新たなキャラクターを刷り込まない。これは、他のスピーカーと組み合わせることが多くなりがちなサラウンドシステムでは特に重要なことで、キャラクターの強いもの同士がぶつかり合って溶け合わないという事態は起こりにくいわけだ。
前記の第2点は、私の仕事場(「開国シアター」と命名)において特に大事なことであった。前号でも予告した通り、私はこの度、DOLBY ATMOS用のトップスピーカーを天井に4本(2ペア)設置するに当たり、TD508MK3を選択、購入したのである。
開国シアターのスピーカーは、TAD Reference OneとパイオニアS-1EXという、いわば同じDNAが流れたスピーカーでサラウンドシステムが組まれているが、そのトップスピーカーとして、ノン・キャラクターといってよいTD508MK3は実にうまく整合してくれた。Reference OneもS-1EXも、中高域用に同軸2ウェイユニットを使っており、トランジェント特性やインパルス応答に対する注意深い設計がなされているが、位相特性に優れるECLIPSEの設計ポリシーとその点も合致する。
また、少々不安のあった低音再生に関しても、過度特性に優れ、低音の遅れが少ないECLIPSEはトップスピーカーとしても十分であると感じた。DOLBY ATMOS対応ソフトでは、トップスピーカー側にもしっかりと低音を回したサウンドデザインが施されている作品があるので、ベースマネージメントを使ってトップスピーカーの低音をサブウーファーに再配分しなくて済むのは、サウンドデザイナーの意図に則った形での再生となるのでベターだ。
TD508MK3の現実的な設置は、特別なブラケットなしで固定可能という点が、開国シアターにおける設置条件からも非常に有効だった。というのも、この部屋の天井構造は、吸音を考慮した浮き天井となっており、金具でがっちり固定といった一般的な手段がやりにくい。そこで考えたのが、スポットライト用のライティングダクトの活用である。このがっちりと固定されたレール状の器具を用い、専用に用意されているアクセサリーパーツに追加工すれば、ベース部に複数の穴が開いたTD508MK3は設置しやすいと踏んだわけだ。
私が講じた固定方法は、ライティングダクト用の吊りフック金具を加工し、そこにタッピングビスを立ててTD508MK3のスピーカーベースにある穴2箇所で固定するというもの。フックの対荷重は5kgまでで、ライティングダクトがしっかりと天井の根太に固定されているため、ビスの径とベースの穴を照らし合わせ、質量3.5kgのTD508MK3ががっちり固定でき、落ちる心配はない(※)。また、スピーカーアームの設定で最大75度までの角度調節が可能なので、リスナー側に仰角をつけた状態で固定できるのも吉だ。
取付け後、DOLBY ATMOS音声付きのBDソフトを再生してみたところ、まさしく当初の狙いどおり、TADなどの5.1chスピーカーと綺麗につながったサラウンドサウンドが楽しめた。切れ目なくつながる包囲感や遠近感を体感するにつけ、ECLIPSEスピーカーのコンセプトの卓抜さを改めて実感した次第である。
※施工取り付けについては、リスニングルームの建築方法により異なるため、安全確保上、専門の工事会社へ依頼してください。