イクリプスのWebに、現代最高峰のジャズ・ベーシスト、「クリスチャン・マクブライト」氏のイクリプスに対する賛辞のビデオが最近アップされた。まだ見ていないという方は是非チェックしてほしいが、そこで私は気付いたことがある。それは、ベースという楽器とイクリプスとの相性のよさである。

ビデオでは、「TD-M1」を前にしてマクブライドがこう語っている。「自分が聴きたいのは本物のベースと同じ音。大きいサブウーファーは好きじゃない。だって重低音が本物っぽくないから。このTD-M1を聴いた時、自分が練習している時に聴いた音みたいでとても気に入ったよ」。

この言葉にイクリプスの特徴が集約されていると感じ、私は大いに共感したのだ。

低音を存分に再生するには、大きなウーファーが必須という認識が一般的だ。それは音圧を稼ぐためという“誤解”が元になっている。高い(大きい)音圧を得るには、

①振動板の面積
②振動板の前後のストロークの長さ

という2通りのアプローチがある。マクブライドが言いたかったのは、音圧でも音質でもない。私が思うに、それはベースの『ピッチ』ではないのだろうか。つまり 『音程』だ。彼らベーシストが日常聴いている楽器の音(一部のライブやレコーディングを除く)は、マイクで拾った音でもなく、プレイバックモニターからの音ではなく、自分の耳のすぐ横で鳴っているベースのピッチではないのだろうか。

マクブライドがデビューからほどなくして第一線で活躍する一流のベーシストとなった所以は、自分が出している自分の音に人一倍注意を払っているのではないかと私は考える。

そして、それをスピーカーで正確に再現しようとした時、求められる要素は、音圧でも音質でもなく、まさにイクリプスが掲げる『トランジェント特性』、すなわち『インパルス・レスポンス』ではないのだろうか。トランジェント特性に優れており、インパルス・レスポンスが入力波形に忠実であることが、ベースのピッチを正しく再生し得る最良のアプローチである。マクブライドはそこにイクリプスの魅力を感じたのではないだろうか。

ベーシストと話していると、“グルーヴ”や“タイト”といったリズム楽器ならではの要点の他に、“アタック”とか“スピード”というキーワードが出てくる。これらは、指で弾いた弦の挙動のことを言っているものと私は解釈している(グルーヴやタイトというキーワードは、音質や音色と深く関連しているように思う)。音楽のビートを司る立場であるベースの役割は、リズムの強さや早さ(テンポではなく、音の立ち上がりのこと)。をコントロールすることで、演奏全体の推進力を生み出していく。

マクブライドの最新リーダーアルバム「ライヴ・アット・ザ・ビレッジバンガード」に収録されているジャズの名曲「チェロキー」では、ベースとドラムによってリズムが先導される。その急速ビートのパッセージとアタックの強さ、音の刻みの細かさとスピード感は、まさに圧巻だ。転調のタイミングでのビートの柔らかさが演奏に緩急をつける上でも大きな効果を上げているように感じる。途中に挟まれるベースソロのリアリティ、クリアネスも素晴らしく、録音のよさとも相まって、指板の上を走る指の動きがビジュアルとしてイメージできる音なのだ。

3人の演奏は、観衆にも煽られてグイグイとドライブ感を増していくが、それでもマクブライドのピッチ、テンポはまったく崩れない。こういうプレイができるミュージシャンが、その再生音に自身の演奏スタイルの特徴が出ているとしてイクリプスを称賛したことに、同じ愛用者としては真に嬉しい限りだ。