前回の寄稿からずいぶん日が経ってしまい、たいへん恐縮です。

さて、先頃、自宅仕事場のAVアンプを入れ替え、ドルビーアトモス/DTS-X用のトップスピーカーを新たに2本追加。合計6本のTD508MK3が天井からぶら下ることと相成った。そこで改めてイクリプスのトップスピーカー活用の適性、サラウンド再生との親和性について述べてみたい。

イクリプスは本体がコンパクトな上に、フルレンジ1基のドライバーユニット構成なので、位相差に伴う音の変化が生じにくく、音が素直に空間に放たれる。そのため、2本のスピーカー間の音のつながりがよく、包囲感や方向感の再現に優れているというのが定説的な評判だ。つまり、同一スピーカーでのサラウンドシステムが組みやすいのである。

そしてドルビーアトモスやDTS-Xは、従来からのチャンネル・ベースのサラウンド方式とはやや異なる「レンダリング」と「オブジェクトオーディオ」という技術を新しく採り入れ、チャンネル毎に音をレイアウトするのではなく、音響設計者の意図する位置に音を配置するよう、その位置に近い2本以上のスピーカーに割り振る音の成分をコントロールすることで、あらゆる環境下において、できる限り意図通りの同じサラウンドサウンドが享受できるよう動作するのが特徴だ。これはすなわち、すべて同一のトップスピーカーで構成することが理想。なぜならば、相関するスピーカー間での再生とレンダリング処理に齟齬が生じてしまうからだ。

もうひとつ重要な点が、天井や壁への取付けのしやすさだ。コンパクトで比較的軽量なイクリプスならば、天井や壁の躯体への負担も少ない。しかも特別な固定器具(ブラケット等)を使わずに設置できる点が嬉しい。

イクリプスのスピーカーはアームで支持されたベース部と一体になっているのが基本形。しかも本体を固定するアーム部の角度調節ができるのがミソ。アーム部の設定を変えることで、TD510MK2やTD508MK3で最大75度、TD307MK2Aで最大90度まで角度が可変でき、天井や壁に設置した場合でも本体をリスナー側に向けることができるのだ。

アームで支持されたベース部分には、固定に便利なよう複数の穴が開いているのでそれを活用すればいいだろう。私の場合は、天井照明のスポットライト用ライティングダクト(レール状の器具)を活用し、吊りフック金具を加工してタッピングビスで固定している。

TD508MK3の本体重量は3.5kg。壁や天井に特別な補強を必要とせずに取付けやすい重量といえるし、石膏ボード等でも、アンカー等の補助具がホームセンター等で容易に入手可能。自己責任とはなるが、手慣れた方ならば自身で工事できるケースもあるだろう(しかし、施工取付けについては、リスニングルームの建築方法により異なるため、安全確保上、専門の工事会社へ依頼するのをお薦めする)。

それまで私は、トップスピーカーにTD508MK3を2組/4本使ってドルビーアトモス等のサラウンドソフトを実践していたが、6本になったことで天井方向の音の密度が増し、空間スケールがさらに広々と感じられるようになった。加えて、天井に配された効果音の方向感や定位が一段と克明になり、2本追加のメリットを大いに実感しているところである(ただし、トップスピーカー6本の接続に対応しているAVアンプはまだ数少ない。国内メーカー製品では、デノンやマランツなどのごく一部の機種のみである)。

近年、スペースを有効活用するべく、天井や壁付けのスピーカー設置の事例が増えている。新築時やリフォームに合わせて、スピーカーケーブルを壁内部に通線してしまえば、配線が煩わしく露出しないでスッキリさせることもできる。こうしたニーズにイクリプスはまさに打ってつけといえるのである。