一応は連載という体裁を取ってきた本コンテンツだが、実にほぼ2年半ぶり(前回は2018年7月28日アップ)の更新だ。その間にイクリプスから新製品がなく、採り上げるのにふさわしいテーマが乏しかったために、こんなに長く間が空いてしまった次第。別段、私がサボっていたわけではないので、念のため。

そんなわけで、めでたく(?)再開したSight&Soundの久しぶりのお題は、販売終了で長らく不在であったイクリプスラインの末っ子モデル307がパワフルな内容にてモデルチェンジされ、TD307MK3としてデビューしたことを採り上げたい。

クルマ等のモデルチェンジであれば、「装いも新たに」とか枕言葉を付けたいところだが、あいにくとイクリプスにはそれが当てはまらない。誰が見ても一目でイクリプスとわかるアイキャッチ。すなわちフルレンジシングルドライバーと卵形エンクロージャーは不変であり、イクリプスがイクリプス足る所以だ。このどちらが欠けてもイクリプスが目指す正確な音の再生が成立しないというほど、もはや同スピーカーの不動のアイデンティティであり、最大の特徴といって良い。

ただしそれは、新旧の見分けが付きにくいということと表裏一体とも言える。そこでまずは、新旧の相違点を見ていくとしよう。

第1点は、ドライバーユニットの振動板材料の違い。従来型は紙パルプ系材料であったが、この新型は兄気たちと同じグラスファイバー系になった。これは、振幅時の前後運動のリニアリティや歪みの少なさを重んじた結果だろう(やはりパルプ系は強固には作りにくい)。

一方では508や510等と同一素材となったことで、音色を揃えることも視野に入っていたようだ。後述する磁気回路の仕様変更と相まって、振幅域で1.4倍、直線性は1.8倍に拡大され、低域の表現力アップが期待できる。最低共振周波数も、先代の100Hzから20Hz下がって80Hzとなった。また、トータルの出力音圧レベルは変わらないが、中域の基音部で+3dB、高域でも音圧の向上が実測データに出ているという。

一方で見た目ではわかりにくいのだが、卵形エンクロージャーも容積が約200ccほどアップしている。これは、よりハイパワーな再生音と、ローエンドの再現性を伸ばしたかったからではないかと推察する。フォルムとしては、縦に17mm、横に5mm、奥行きに8mm大きくなっている。

以上の2点の相違は、新旧のスピーカーを横に並べれば一目瞭然。では、違いはそれだけなのかというと、デンソーテンの開発陣はもちろんそんな手抜きはしない。まさしく痒いところに手が届くといった細かなブラッシュアップが図られているのだ。

例えば磁気回路。従来はフェライト磁石のみだったものを、ネオジウム磁石を追加することで前方に逃げるように放出する磁力を有効活用している。また、振動板のセンターキャップの裏側にゴム系のダンプ材を貼り付けて不要共振を抑制した。その部材を固定する接着剤も、0.1g単位で増減した試作ユニットを多数作り、試聴の上、吟味しているのだ。

その他、ドライバーユニットを内部で支えるステーの形状など、全体で12個の構成パーツが刷新されているという。

付属のデスクトップ・スタンドは、壁掛けにも対応した取付けブラケットとして活用できる。この点も先代機から継承されたセールスポイントだが、首振り(仰角)の稼働範囲は変わらないものの、調整をレンチ1本(1ヶ所)のネジで可能としたのは嬉しい進化だ。些細なことだが、ブラケットカバーの形状も変更され、配線したスピーカーケーブルを隠しやすい構造としている。

カラー展開はホワイトとブラック。ここだけは先代機の踏襲で新鮮味はちょっとないけれども、無難なところで落ちついたとみよう。

今回は、神戸市のデンソーテンの開発拠点にあるスタジオで試聴した印象を第一報としてお伝えする。システムは、①TD307MK3のみのステレオ再生に、②サブウーファーTD316SWMK2を2台追加した2.2chシステム、さらに③5.1chパッケージTD307THMK3にトップスピーカー4本を加えたドルビーアトモス対応イマーシブサウンドシステムである。

パトリシア・バーバーは、イクリプスのエンドーサーでもある録音エンジニア、ジム・アンダーソンの録音だ。女性ヴォーカルは、くっきりとした音像定位で明確なセンターイメージを提示した。それでいて、声の持つ湿り気や色ツヤもそこはかとなく感じさせるところがニューモデルの真骨頂。ガットギターの質感もナチュラルで、左手のフィンガリングがネックを滑る際の「キュッ、キュッ」というスライド音が生々しい。

クラシック「禿山の一夜」は、とてもパワフルで打楽器が激しく活躍する楽曲で、これをTD307K3で聴こうなどとはこれまで考えたことはなかった。それがとうだろう、サヴフーァー付きのシステム②で聴くと、TD316SWMK2としっかり連携し、畳み掛けるような強烈な打楽器の低音をがっちりと繰り出してくる。オーケストラの重厚さや雄大なスケール感は、卵形エンクロージャーのディフラクションのよさが成せるところだろう。音場感/ステレオイメージがきれいに立体的に広がる。

最も感激したのは、映画「フォードvs.フェラーリ」のワンシーン。フォード首脳陣が対話している背景で、サーキットをテスト走行中のフォードGT40のエキゾーストノートがまったく切れ目なく水平に展開する。映像のアングルのスイッチングに同期して走行音の方向も切り替わるのだが、それが見事にシームレスにつながって再現される。これはどこの試聴室でも、ましてや我が家でも体験し得なかったスムーズなつながりなので驚いた。

なお、自宅仕事場での試聴など、今後異なる環境・再生システムでの試聴を随時ご報告できればと思っている。ぜひ多くの方に新しくなったブランニューTD307MK3の音を体験してほしい。