ECLIPSE Home Audio Systemsの長所/短所の再考 /小原 由夫のサイト・アンド・サウンド(Ver.2:第8回)

スピーカーにはさまざまな形式、サイズがある。手のひらに載るコンパクトなものから、質量200kgオーバー、全高が2m近くあるものまで、まさしく多士済済。それぞれが明確な自己主張を持った音を聴かせてくれるわけだが、そうしたスピーカーと比べたイクリプスTDシリーズスピーカーの個性、さらに突っ込んで、長所や短所はどこにあるのだろうか。

まず、フルレンジユニット1基である点。1つのユニットで全帯域の再生をカバーしようとすれば、特に低域の下限周波数が問題となる。つまり、ある程度大きな口径でないと十分な低音が出せないのだ。また、エンクロージャーの容積も大きくしなければ低音のエネルギーが出ない。一方、低域再生のためにユニットの口径を大きくすれば、今度は高域をフラットに伸ばすことが難しくなる。あちらを立てればこちらが立たずという、トレードオフなのである。

そのため、世の中のほとんどのスピーカーは、低域と高域を分けた2ウェイ、あるいはさらに中音域を独立させた3ウェイという形式を採っている。こういう形式の場合、低域、中域、高域にユニットに受け持たせるための、周波数を分割するクロスオーバーネットワークという電気回路が必要になる。ほとんどのケースでは、コンデンサーやコイル、抵抗といった複数の部品で構成され、スピーカーのエンクロージャー内部に収められている。

イクリプスTDシリーズのポリシーとして、このクロスオーバーネットワークが、入力された音楽信号の忠実度を損ねてしまう要因(具体的には、音色的なクセや位相のズレを生じさせている)となるため、それを嫌ってクロスオーバーネットワークを使わない。全周波数帯域を1つのユニットで賄うフルレンジ一基という構成を貫いている。

ただし、普段私たちは、こうしたクセがコンデンサーの音とか、この感じが抵抗の音といったことを意識して聴いていない。つまり、トータルとして出てくる音が、そのスピーカーの音の個性、サウンドキャラクターとして捉えているからだ。

それでもイクリプスTDシリーズスピーカーで音楽を聴いていると、楽器のリアリティーや声の鮮度の高さに時々ハッとさせられることがある。こうした点にクロスオーバーネットワークの功罪を感じ取ったりするものだ。

朗々とした低域の響きや厚みをイクリプスTDシリーズスピーカーで再生するのは確かに難しいかもしれない。それは短所ではあるのだが、スペースと予算次第で、サブウーファーTD725swを組み合わせることでそれを補完することは十分にできる。

次に、低能率という点。歴代のイクリプスTDシリーズスピーカーの能率は、押し並べて80dB台前半。この数値は、今日一般的なスピーカーに比べて3~5dB低い。最新モデルのTD712zMK2で0.5dB改善されたとはいえ、それでも84dBである。

3dB違えば、アンプが同じパワーでも1.4倍大きな音が出せる。6dB違えば、同じ音量を出すのに半分のパワーでいい。つまり、高能率は大いに“エコ”なのである。

例えばホーン型スピーカーの多くは、軒並み90dBオーバーである。これはアンプにとっても負担が楽だし、高能率ならではのエネルギッシュでハイパワーなサウンドはとても魅力的である。だが、ホーン型スピーカーの短所は、限られた指向特性の範囲(サービスエリア)内では高能率の音が得られるが、その範囲外では能率がガクンと落ちるところだ。能率以外の短所としては、スピーカーユニット間の位相を揃えることが難しい。位相管理に関しては、フルレンジユニット1基のイクリプスTDシリーズスピーカーはまったく問題ない。

高能率のスピーカーは、どんなアンプでも比較的うまく鳴らせるという意見もある。つまり、アンプの選り好みが少ないというわけだ。では、能率の低いイクリプスTDシリーズスピーカーは、アンプによって鳴り方が変わるのかというと、スピーカーに偏ったクセがないので、鳴り方が変わるというよりも、アンプのキャラクターが素直に出てくるということなのだ。見方によっては、組み合わせの善し悪しがストレートに現れるということと同じだが、組み合わせの妙を楽しむというオーディオの醍醐味がより明確に楽しめると思えばいいのではないだろうか。

能率の不利な面は、近接試聴で納得して使うしかない。もっとも、一般家庭で音楽を聴く分には、普通のアンプで何ら問題ない音量が得られるので全く心配はいらない。

こうしてみると、他社のスピーカーと比べた際のイクリプスTDシリーズスピーカーの短所と指摘される部分は、イクリプスTDシリーズスピーカーのコンセプト上、決して譲れない、ある意味では長所であり、「タイムドメイン」ならではのレーゾン・デートゥルなのである。