「卵形」の再検証/小原 由夫のサイト・アンド・サウンドVol.8

今回は、ここでもう一度原点に戻って、ECLIPSE Home Audio Systemsのスピーカーキャビネット(箱)が、なぜ卵型になったのかを再度考えてみたい。

「なんで“卵型”なの?」

スピーカーといえば、四角い箱(直方体)を誰もが普通に思い浮べるはず。それが世の中の大勢を占める中、卵型というのは、それだけでももう十分に普通じゃないのだけれど、もちろんそれには理由(ワケ)がある。その前に、なぜほとんどのスピーカーが四角い箱なのかを不思議に思ったこと、アナタ、ありません?

理由は簡単。『作りやすい』から。適当な大きさの板をペタペタペタと接着して組み合わせれば、ハイ一丁あがり。入手がしやすく、材料の種類も豊富。設計や試作段階であれこれ検討するにも好都合だし、特別な生産設備もいらない。だから自作スピーカーのファンがいたりするんです。

大半のスピーカーは、箱が持つの固有の響きを大なり小なり利用して出来ている。箱の響きをうまく利用できれば、サイズを越えたスケール感や響きの豊かさにつながるからだ(それが成功している機種も、失敗している機種もあって、私は箱型を全面的に否定しているのではないです。念のため)。しかし一方で、その固有の響きが時には原音再生を損ねる要因になるのも事実。俗にいう「色付け」や「味付け」である。ECLIPSE Home Audio Systemsは、こうした色付けが音楽信号の正しい再現の邪魔になると捉え、徹底排除を試みたのだ。

いってみれば、ECLIPSE Home Audio Systemsの根っこにある考え方は、箱の響きに頼らない、すなわち『箱からの脱却』だ。極論すれば、スピーカーユニットだけが宙に浮いているようなフリーな状態を目指したといってもいい。その発想の源になったのが「タイムドメイン理論」であり、それを具現化するためには、卵型が必然だったのだ。

「四角い箱の問題点を洗い出した結果が、卵形に結実した!」

「タイムドメイン理論」については、本Webサイトの技術解説やカタログに詳しく紹介されているので、そちらを参照していただきたい。要約すれば、箱の内部で生じる音の反射(定在波)や、平面の強度不足による共振や雑音の発生、面と面を接合した部分で生じるノイズの放出(回折効果)など(図1-1)、従来の箱型スピーカーが抱える諸問題を排除することが、タイムドメイン理論の基本。曲面で構成される卵型は、平行する面と面がないから定在波は発生しないし、平らな面もないので高強度。箱型キャビネットの問題は、卵型ではノープロブレムなのである。

上記の条件を備えているならば、球型でもいいんじゃない、という意見もあるだろう。確かに丸い球形も平行面や角がない。しかし、スピーカーユニットを取付けるためには、ある程度の面積を切り取らなければならず、箱としての強度が弱くなることが懸念される。対して、少し細長い流線型の卵型は、尖っている2箇所のどちらかを削り落としても十分な強度が維持できる。

残された問題は、その卵型の箱にどうやってスピーカーユニットを取付けるかだが、カタログ等を見て明らかなように、ECLIPSE Home Audio Systemsは実に巧みにそれを解決した。アッパレ!(図1-2)平行面や接合面を排除した曲面キャビネットは、最近は他社のスピーカーにも数多く見受けられるし、決して新しい手法ではない。過去にも球形や8面体、流線形状のスピーカーはあった。

しかし、きちんとした裏付けに基づき、高い完成度と手頃な価格を両立させた曲面キャビネットのスピーカーは、ECLIPSE Home Audio Systemsが多分初めてじゃないだろうか。

もちろん、形の斬新さからくる話題性という点も無視できない。これまでカーオーディオ専業と思われていたデンソーテンが、改めてホームオーディオ市場に進出するに当たって、他社製品にはない独自性や斬新さを卵型という形状でアピールできるという一面もあっただろう。オリジナリティは、往々にしてオーディオのような成熟した市場や、そこに新規参入する後発組にとっては重要なこと。今までとは違うサムシングが期待できるからだ。ブライアン・イーノ師匠もおっしゃっているではありませんか。「その美しさは、まさに幕を明けたばかりの21世紀にふさわしい」と。

そうかといって、デザイン優先で理屈が伴っていなかったり、肝心の音質がさっぱりというのでは困る。理論とデザインが見事に調和した希有な例。それが、ECLIPSE Home Audio Systemsなのである。

ところで、この12月から、508PAに新しくホワイトバージョンが加わった。可愛らしくてお洒落な“白い卵”である。インテリア性を重視したい環境では、既発のダークブルーの508PAよりも自由度が高そう。もちろんサウンドは従来通り。タイムドメインならではのリアルな質感再現が、エレガントなフォルムと共に楽しめるのである。念のため申し添えておきますが、色がホワイトだけに、くれぐれも“本物”と間違えて、割ったり茹でたりしないように……。