アンプの仕事
小原由夫のサイト・アンド・サウンド(Ver.2:第26回)

スピーカーを駆動するのは、いうまでもなくアンプである。つまりスピーカーは、その動きの源をアンプからもらう。アンプは、その名の通り、入力信号を「増幅するもの」だ。スピーカーが要求する電力を送り、スピーカーはそれを磁石とコイルの動きによって振動板の前後運動に変換し、空気を押すための音のエネルギーをつくり出している(なお、ここでいうアンプは、プリアンプとパワーアンプが一体化されたプリメインアンプ、またはインテグレーテッドアンプのことを指す)。

では、アンプの動作の源は何だろう? それは“電源”に他ならない。別な視点から見れば、スピーカーはアンプの電源回路によってドライブされていると考えることもできる。極論すれば、電源回路がしっかりとした設計のアンプ--具体的には、アンプ全体の中に占める電源回路のスペース(回路だけでなく、電源トランスや電解コンデンサーなども含む)が充実しているものほど、優れたアンプといっていい。電源回路がしっかり作ってあるアンプは、スピーカーを存分に鳴らしてくれるのである。
 では、アンプからスピーカーを見た時、どんなタイプのスピーカーが鳴らしやすく、あるいは鳴らしにくいのか?

8Ωのインピーダンスのスピーカーに100Wのパワーを入れた時、電流は3.5Aも流れる。これは、350Wの家庭用電気ストーブと同じ消費電力である。このことから、インピーダンスが低くなれば、同じパワーを入れた時、より多くの電流が流れることがわかる。つまり、低インピーダンスのスピーカーを駆動するには、大きな電流(大電力)が必要になるのである。

では、100Wのアンプよりも、200Wのアンプの方が高性能といえるのかというと、そうともいえない。広い部屋で大きな音量が出せれば、出力は大きいことが望ましいが、日本の一般的な住環境であれば、100Wの音を連続して出していたら近所迷惑だ。つまり、聴取音量との按配というわけだ。一般には、20Wもあれば十分足りる。また、大出力になればなるほど、歪み率も大きくなることを覚えておきたい。

イクリプスTDスピーカーのインピーダンスは6Ωである。この値は、今日一般的なスピーカーの平均的な値である。したがって、イクリプスTDが特別鳴らしにくいスピーカーということにはならない。

では、どんなアンプでもイクリプスTDスピーカーは好ましく鳴るかというと、そうともいえない。なぜかというと、フルレンジスピーカー一発から成るイクリプスTDは、他の多くのスピーカーが有しているクロスオーバーネットワークがないため、アンプとスピーカーが直結された状態に極めて近く、アンプの性能やクセ、ひいては善し悪しがストレートに出てしまうのである。

では、アンプの善し悪しはどう見分ければよいか。周波数特性S/N比、歪み率といったカタログや取扱説明書のスペック(仕様)は、現代のアンプであればどれも大きな問題となるような値ではない。また、前述したように、大出力であればよいというものでもない。内部の写真、あるいはカタログの謳い文句から、電源がしっかりしたアンプを選べば間違いないというのが、私の認識である。トーンコントロールや入力ソース切替えの数など、機能/装備に関する部分は、個人個人で価値観や必要性が異なるので割愛させていただくが、シンプルな機能/装備であるに越したことはない。

いずれにしても、スペックや特性のよさが、アンプの「音質のよさ」を直接的に表すものではないということを覚えてほしい。

なお、以上はこれまでの主流だった一般的なアナログ式アンプの話であり、昨今増えつつあるデジタル式アンプの場合は、原理がだいぶ異なってくる。その話は、いずれまた。