世の中のスピーカーシステムの99.9%は、必ずスピーカーキャビネット(エンクロージャー)を持っている。すなわち、スピーカーユニットだけでは、スピーカーシステムは成り立たない。

では、スピーカーユニット単体では、なぜ本領が発揮できないのか?スピーカーユニットの振動板が前に動くと、前方の空気が押し出される。一方で、振動板の背面の空気は引っ張られる。この時、スピーカーユニットの外周部分では、前方に押し出された空気と背面の引っ張られた空気とが互いに打ち消し合い、前方に押し出された空気が音として十分放射されなくなる。そこで、振動板の前と背面の空気の動きを遮断するような“仕切り”が必要となるわけだ。この仕切りの板を「バッフル板」といい、無限大の大きさが理想的なのだが、そんなものは存在しない。つまり、有限になる(波長の長い低音までしっかり再生しようとすれば、その波長以上の長さ、つまり大きな面積が必要になる)。

実際には、無限大と同じに見做せるものとして、仕切り板を折り畳んで閉じた(密閉した)箱型としたものが、キャビネットやエンクロージャーといわれるもので、これが実用上もっとも適したものとして今日まできている。

キャビネット内の空気を完全に閉じてしまった形式を密閉型といい、密閉型の一部分に穴を開け、背面の音を利用して低音を補強した形式をバスレフ型という。世の中の大半のスピーカーシステムは、この2種類の形式に大別できる。ここでは詳しくは述べないが、それぞれに一長一短があり、どちらがいいとは断言できない(ECLIPSE TDシリーズスピーカーは、キャビネットの後方に穴があるが、バスレフ型のような低音補強の意図はほとんどなく、言わば“息抜き”用の穴とのこと)。

今回のテーマは、この密閉型やバスレフ型の善し悪しではない。キャビネットの固さと形状がテーマだ。工業製品としての作りやすさを考えると、キャビネットは四角い箱型が基本だ。例えば木製のキャビネットでは、板材を直線に切断し、パタパタと組み立てれば簡単にキャビネットができる。しかしこの場合、向かい合った平面の間でスピーカーユニット背面の音が反射し、定在波という現象を起こしてしまう。おまけに、板材をある程度厚くしないと、振動板の前後の動きでキャビネット内部の気圧(圧力)が大きく変化し、共振や振動が起こる。

この気圧変化は、小口径のスピーカーユニットで低音までしっかり再生しようとすると、より大きな変化量になる。さらに定在波がそこに加わった時、キャビネットの内部ではたいへんな振動と共振が発生しているわけだ。

定在波を解消する目的から用いられる「吸音材」も、それ自身の特性が音に少なからず影響を与えるので、極力使わないか、使ったとしても、固有のキャラクターが少ない材料を微量に止めるのが理想である。

一部のスピーカーシステムには、こうしたキャビネットの共振や振動をむしろ積極的に活かしているモデルもある。それがいい意味で「味わい」、個性的な「音色」をもたらしているのである。

だが、ECLIPSE Home Audio Systemsは、そうした味や個性をよしとしない。何故ならば、そうした要素が元の音楽信号を歪めてしまうことになるからだ。エンクロージャーの共振は、トランジェント特性を著しく悪化させるし、定在波は、プログラムソース本来の音色を損ねる元凶となる。だからこそ、ECLIPSE TDシリーズのエンクロージャーは、加工しやすく、リジットな固さを持つ特殊な合成樹脂を用い、定在波が生じない(平行面がない)卵型を採用しているのである。

私の印象では、ECLIPSE Home Audio Systemsほどキャビネットという『箱』の存在を感じない(箱の音を感じない)スピーカーは他に聴いた事が無い。