ファッションデザイナー

コシノ ヒロコ

ファッションデザイナー コシノ ヒロコさんが語る「デザインを生かす音の世界」

今回は今年でファッションデザイナー歴51周年を迎えるコシノ ヒロコさんに、ご自身にとってのデザインと音との関わりなどを中心にお話を伺いました。

デザイナーとしての成功とは

デザイナーの成功には2つの要素があり、1つは「クリエイティブ」な部分で評価されるという事、もう1つは「ビジネスとして裏付けが出来ている」という事で、この両方があって初めて成功であると考えています。

芸術家であればクリエイティビティの追求だけで評価されますが、ファッションデザイナーである以上、市場を知り、多くの人から求められなければなりません。しかしデザインにオリジナリティがなければ、ブランドとして成り立たなくなってしまいます。私は書や絵画の作品をつくることでオリジナルなもの(または独自性)を追求し、現在の世の中の動向を常に意識することで、ビジネスとして求められるものを考え出します。

先日、出張先のパリでファッション関係のさまざまな方々とお会いし、「アーティスト」として、「クリエーター」として、そして「ビジネスパーソン(マーケッター)」としての3つの要素が揃っているという評価を受けました。 私たちは年間を通じて何百というデザインをつくるわけですから、ベースがしっかりしていなければなりません。流行は常に変わっていきます。私たちは年に2回の大きなコレクションを発表し、シーズン毎のトレンドを示すのです。常に新しいデザインを発表し続けていくことは大変ですが、とても大切なことなのです。多くの人が生活の中で求めるものを提供するためには、市場を知り、また、選ばれるブランドでなければなりません。そういう意味ではデザイン力と持久力が必要なわけです。私が51年間やってこられたということは、ある意味奇跡に近いかも知れませんね。

私はファインアートの部分に加えて、長唄のお稽古も続けています。日本の伝統に触れる機会があることは、普段、洋の世界にいることが多いなか別の感性が刺激され、デザインに反映されます。何をするにも単なる趣味で終わらすことはしません。地道な練習を積み重ね、納得するまで向き合います。真剣に取り組んでいくうちに、いつのまにか私の中で趣味の域を超え、それが仕事につながってくることが多いですね。多忙な毎日ですが、時間は集中力でつくれるのです。その集中力もデザインの閃きに役立っているのです。

また、音楽は私にとって創造の源でもあります。音楽を深めることで物の見つめ方や捉え方は全く違ってくると思っています。お客様から、あるひとつのスタイルを「憧れ」としてみてもらうため、その中に「夢」を感じてもらえる事が大切だと思うのです。その「夢」を商品に込めるには、私には音楽によるイメージが大きく作用するのです。 。その「夢」を商品に込めるには、私には音楽によるイメージが大きく作用するのです。

アトリエギャラリー&ゲストハウス「SEMPER」(芦屋市)

幅広いお付き合いによって得る貴重な意見

私は建築に大変興味があり、安藤忠雄さんがまだ無名な頃から彼の作品が大好きでした。当時すでに「こういう空間に住みたい」という絶対的な理想があり、安藤さんの建築の中にピンとくるものを感じていました。あの頃の私はお金もないのに「私の家を建てて!」って彼に言ったんです。「ボランティアでやって!」というようなノリでね(笑)。ところがその直後の'79年に、安藤さんは日本建築学会賞という素晴らしい賞を取って一気に有名になりました。安藤さんが有名になられてからの最初の作品が我が家なんです(笑)。

また、私にはファッション界の他、さまざまな業界の方とのお付き合いがあります。政界、財界、クラシックや邦楽などの音楽界、、等々。自分ではピアノも弾けませんが、クラシックは大好きなのでコンサートにはしょっちゅう行っています。それぞれの世界でトップとして働く方々とお話をしていると、何故か共通することがあったりして、いつも盛り上がるんですよ。元気や勇気をもらったり、与えたり、もちろん仕事に於いてもお互いが影響されることが多く、貴重な意見を交換することができるのです。人との繋がり程、大切なものはないですよね。

ファッションデザイナー コシノ ヒロコさんが語る「デザインを生かす音の世界」

昨年は世界最大級のコレクションを上海で開催

昨年秋には上海で大きなコレクションを開催しました。実は上海でコレクションをやったのは2回目。1回目は25年前。当時、中国ではまだファッションというものが皆無でした。800人入るボールルームを借り切り、中国人スタッフによる手技の技術が私の作品にどう活かされているかを、コレクションを通して見て欲しかったのです。 当時はまだ中国にはモデルがいなかった頃なので、日本からモデルを10人連れて行き、中国では初めてショーに出るという素人モデルを10人雇って20人でやりました。日本からのモデルも手伝って、歩き方やポーズなど1から教育して何度もリハーサルを行いました。そのリハーサルも見たいと、ものすごい数のお客さんからリクエストが出て整理券を配った程でした。ついにはリハーサルを8回と、本番を2回、合計7-8千人位の方に見ていただいたことになります。

あれだけの規模のイベントを上海で行ったのは、私が世界で初めてだった事もあり、本番の様子は中国全土にテレビ放映されました。当時中国にはまだテレビがあまり無く、1台のテレビに2-300人が集まって見たというような状態だったようです。 今年は北京オリンピクが開催されたり、その後に上海万博が控えているなど、中国が時代のトレンドになっているのでとても興味があったというのが、昨年秋に上海イベントを行った元々のきっかけでした。

上海イベント「Amomalouse!Duality ありえないくみあわせによるデュオ」より(2007)

漠然としたアイディアが具体的になったのは、2006年の10月。京都でのマイケル・ナイマンのコンサートに招待され、そこで彼との出会いがあったからなのです。私はマイケルの大ファンで、彼の音楽を私のコレクションで使ったときもありました。常々、一度会いたいなと思っていたら、ついにその夢が叶ったのです。そのコンサートの後、食事の席で私たちはすぐに意気投合し「一緒にコラボレーションをやってみたいね」という話が出たことで「なんか上海って面白いんじゃない!?」と冗談半分に言ったのが現実になった訳です。
まず「上海でやるのならどこでやりたい?」という話をしていたら、「シャルル・ドゴール空港の建築デザインをした人が設計した東方芸術センターというホールがある!」と聞き、私は早速上海へ飛びました。純粋に「マイケル・ナイマンと上海でコラボレーションする」という思いで始まった事が、いざ話しが進んでいくと、上海と大阪が姉妹提携しているということや、日本の政財界だとかも絡んで、非常に大きなイベントになっていったのです。(笑)

私には「25年ぶりにやるなら、常識を超えるほど異質なものをやりたい!」というイメージがありました。中国のモデルも、昔に比べると随分と洗練されています。
日本からモデルを連れていくだけではなく、中国のモデルも使おうと思い30名を起用。さらに演出にダンスを組み込む事を考え、中国のバレエダンサーを30名加えました。合計60名の中国人に加え、イギリスからはマイケルナイマンと弦楽4重奏団、そして日本からのスタッフ、ヘアメイク等々、舞台裏だけでもスタッフ総勢約250名にも及ぶ大規模なイベントになってしまいました。
イギリスと中国と日本、それぞれの文化を持つ3つの国のコラボレーションとして「何か思いもよらないもの」を表現したかったのです。タイトルにもなった、「ありえないくみあわせ」がこのイベントのテーマであり、正に、文化の交流でもあったのです。

上海イベント「Amomalouse!Duality ありえないくみあわせによるデュオ」より(2007)

上海イベントでECLIPSE Home Audio Systemsを使われたご感想

以前、東京コレクションの演出としてバイオリンの生演奏を入れました。700名程入る広い会場にも関わらず、弓が弦に触れる瞬間の音とか、演奏者の息づかいを感じる程の臨場感をECLIPSEスピーカーを通して聴くことができました。会場の隅々まで広がる音質の良さを、このとき実感しました。
上海イベントの時に、マイケル・ナイマンの曲を会場のお客様に楽しんでいただくために、生の音を広い場所で克明に伝えるとなると、ECLIPSE Home Audio Systemsが相応しいと考え上海まで運び入れたのです。予想通り音響は素晴らしく、イベントは大成功となりました。

私が作品をつくるとき、音の環境をとても大切にしています。テーマに沿った音楽を常に聞く事で、私の中でイメージが広がりデザインに活きてきます。これまでの東京コレクションで、サンクトペテルブルグやバルカン半島をテーマに取り上げたとき、まず現地のリサーチを行い、音のイメージをつくり、その音を聞きながらデザインや構成をつくり上げていくという進め方をしました。

スタッフに細かい指示をするときも、何度もことばで伝えるよりも、音楽を聞いてもらうことでイメージを描いてもらう方が、より明確でシンプルにコンセンサスを得ることが出来ます。そしてそれと同じ事がコレクションの当日にも言えるのです。モデルとのリハーサルは当日しかできませんが、音に触発されてモデルの動きがすごく良くなるし、引き込まれるようにその世界に入って行く姿を見てきました。ECLIPSE Home Audio Systemsには満足しています。

上海イベント「Amomalouse!Duality ありえないくみあわせによるデュオ」より(2007)

ファッションデザイナー コシノ ヒロコさんが語る「デザインを生かす音の世界」

日本文化を継承せねば、という想いで邦楽CDを制作

私は歌舞伎や長唄と、邦楽に長く接していたので「日本の誇れる文化を大事にしなければ」という想いをずっと抱いていました。私の長唄の師匠は杵屋禄宣さんという方で、双子の兄である杵屋禄三さんは唄の専門、お二人ともこの世界で素晴らしい活躍をされています。
「日本が誇るべき文化である長唄の世界、また、自分の師匠について、もっと日本の人に知って欲しい」という思いから今回邦楽CDを制作することを提案したのです。来年還暦を迎えるお二人が「今一番ノッている時期」に文化の記録として残しておかなければと、私もこの制作のお手伝いを致しました。

三味線は世界の楽器の中で最も繊細な音質を持つと言われ、特にバチが糸に当たる瞬間の音をきちっと再生するのが難しいんです。例えば長唄の三味線は、他の三味線と違って胴に猫の皮を張ってあるので、その皮にバチが当たる瞬間の糸だけの音ではなく、太鼓の音と糸の音が交わる瞬間の、何とも言えない独特の音をちゃんと出せないと駄目なんです。また浄瑠璃とか義太夫では胴を叩かず糸しか弾かないんですね。津軽三味線はというと糸と一緒に胴も叩くんです。

そういう個々の音の違いをきちんと出すために、今回、杵屋ご兄弟のレコーディングを行う際、ECLIPSEを使って制作してみました。コレクションや上海イベントの経験から、ECLIPSEは邦楽の持つ特筆の部分をきちんと表現出来るスピーカーだと思います。

上海イベント「Amomalouse!Duality ありえないくみあわせによるデュオ」より(2007)

来年はパリコレに再参入!

ビジネス面に於いて今後は日本だけではなくアジアも狙って行かなくてはいけないと考えています。アジアでのビジネスを拡大して行くためには、ヨーロッパ、そして世界をベースに発展しているということが、クリエーションの面においても重要なのです。私は1982年からパリコレに参加していたのですが、当時は非常に円高だったんですね。海外へ輸出するということで負担が大きくなってきました。そこで10年を区切りにやめました。当時の状況から、日本の市場に集中し、国内での展開を成功させることが重要だと考えたからです。
それからまた15年が経ち、日本でのビジネスも軌道にのった今、来年から新たにパリコレを再開することに致しました。そのために先ず、ヨーロッパで展開するというスタンスで、昨年ロンドンにオフィスを設けました。ロンドンにオフィスをつくった理由は、人材教育の面でイギリスが非常に優れているからです。

日本とイギリスの教育の違いは何かというと、イギリスの場合は東洋、西洋、東ヨーロッパ等々世界各国から色々な人が集まっているので、競争レベルが高いという点です。そこで若いスタッフたちを教育し、全体のレベルアップを図るつもりです。これから世界にHIROKO KOSHINOの名前を知らしめるにはパリコレ参加が最短距離であり、世界中のメディアがその観点で世界から集まってくるので、パリコレは今の自分にとってとても重要だと思っています。

"HIROKO KOSHINO EXHIBITION 2004"より(芦屋市立美術博物館)

これからの活動テーマ - それはやはり「日本文化」

日本独特の絵画等のタッチというのは「墨と白黒の世界」で、これも日本独特の文化なのです。 この手法をデザインに取り入れることや、進化させていくなど、今後、徹底的に研究していきたいと思っています。もちろんこれまでにも作品として発表してきましたが、これからは海外でも私の作品を展覧会等で紹介していきたいと考えています。和の良さを私なりにクリエイトした作品を音の演出で引き立て、「日本の文化ってこんなにすごいのよ!」って、どんどん世界に発信していきたいですね。 「もう71歳、というよりもまだ71歳。まだまだ各界の方々とゴルフのプロアマコンペに参加したり、世界を飛び回りながら、あと50年頑張るつもりです!」(笑)。

コシノ ヒロコさんWebサイト

http://www.hirokokoshino.com/

本紹介

コシノ ヒロコ × リュウイン
「120歳までキレイでいたい -
漢方医学とともに実現するアンチエイジング」
出版:扶桑社 価格:¥1,575(税込み)

CD紹介

「禄禄華双紙」
・演奏 :(唄) 杵屋禄三、(三味線) 杵屋禄宣
・発売元:KS International,Ltd.
・品番 :HKZN-19490,19491
・価格 :¥5,000(税込み)