アートディレクター

堤 大介

TD-M1の新ユーザー Pixarのアートディレクター堤 大介氏が語る
「映像だけでは成し得ない音の重要性について」

ECLIPSEのスピーカーで初めて聴いた時、あまりの音の違いに愕然とした。ハリウッドのアニメーション作りの仕事をしてきて16年。ピクサー作品のトイ・ストーリー3やモンスターズ・ユニバーシティでは光と色のアートディレクターを勤めた。CGアニメーション映画のアートディレクターとは、自ら絵を描きながら、監督のビジョンを映像として作り、それを大人数のCGアーティストに指示をして行く。

アートディレクターという映像のビジュアルの部分を担当してきた僕にとって、映画の「音」に真剣に注意を払うようになったのは、一年前に初監督を勤めた自主制作短編映画、「ダム・キーパー」を作ったときからだ。

アニメーションの制作は途方もない時間と労力を要する。音楽や音響の重要さはもちろんわかっていたつもりだが、制作時間の割合で言えば、映像が10だとすれば音の制作は1にも満たない事が多い。当然映像あってこそという気持ちがどこかにあったのだろう。

今回自分が監督となって、映像だけでなく全ての指示を出す役に回り、「音」の重要性を身を持って思い知った。音でなければ作れない世界がそこにあり、映像だけでは決して到達できない領域がある事を。

一昔前は本当にすばらしい映像は、ボリュームを落としても全て内容が伝わる映像という基本理念があった。絵描きとしてこの世界に入った僕は、まさにそれを目指して仕事をしてきた。音でしか行けない領域を目の当たりにして、初めてそれがとんでもない間違いだと言う事に気付く。そんな音のルーキーの僕にでも、ECLIPSEのスピーカーには驚いた。

絵でいえば、、アーティストが描いてまだ間もない、まだ絵の具が乾いていない状態、立派な額に入る前の、裸の状態で観る感覚。絵描きの僕らにとって、その状態で好きな絵を観れる事は、幸せだ。そのアーティストと近づける気になるからだ。

決して、音が良くなるというスピーカーではないらしい。 

音が、音のまま、音として、耳に入ってくる、、、それが正しいのだろうか。

短編映画「ダム・キーパー」は台詞がない為、音楽には特に気持を込めた。自主制作だが、生意気にもオケを雇って、レコーディングをした。世界最高峰のスカイウォーカーサウンドでミックスをした。ピクサー映画顔負けの「音作り」を経験して間もない時に、このスピーカーから聴いた音は、まさにレコーディング中の生の音や、ミックスをした時の体の芯まで突き刺さる音だった。理屈では語れぬこの感覚は、聴いて、感じて初めてわかる。

素人の僕に、本当にこのスピーカーの凄さがわかったのか。正直それは疑わしい。ただ、今後映画を作り続けていく僕にとって、このスピーカーは欠かせないアイテムとなりそうだ。

http://www.simplestroke.com
http://thedamkeeper.jimdo.com
http://www.1101.com/sketchtravel/2011-10-13.html

profile

堤 大介 (アートディレクター)

1974年、東京生まれ。18歳でアメリカへ留学、のちに油絵を学ぶ。ルーカス・ラーニング、ブルースカイ・スタジオを経て2007年、ピクサー・アニメーション・スタジオへ入社。『トイ・ストーリー3』『モンスターズ・ユニバーシティ』のアートディレクターを務める。

プライベートでは、埼玉県狭山丘陵の環境保全に取り組んだ「トトロの森プロジェクト」や東日本大震災の義援金を募る「アーティストヘルプジャパン」、「スケッチ・トラベル」などアーティスト同士のネットワークを活かしたプロジェクトに取り組んでいる。2013年にピクサーの同僚ロバート・コンドウと短編映画「ダムキーパー」を作り、ニューヨーク子供映画祭では観客賞、サンフランシスコ国際映画祭ではベスト短編映画賞を受賞。現在、世界中の映画祭で上映されている。