作曲家、編曲家、演奏家

三宅 純

イイ音はやっぱり気持ちがいいものだ。

「音作り」の現場にいると、いつしか不思議な気持ちになってくる。
眉間にしわを寄せて、音圧だの、スペース感だの、定位だの、EQだの、
解決しなくても命に別状の無さそうなことに執着し、
多くの人には認識すらされない細部のために夜を徹する人種がいることに。
わざわざ「楽音」を言語や数値に置き換えて論戦する人種がいることに。
そしてまた、どこの国に行ってもそんな人種がいることに。
おまけにいつのまにか、自分もその一員になっていることに・・・
空気の振動に取り憑かれた人々を見るにつけ、
音ってなんだろう?
何て非生産的な事に没頭しているんだろう?と思ってしまう。
でもイイ音はやっぱり気持ちがいいものだ。

音楽は根源的な欲求のひとつとして、意図しなくても流れ出てしまうものだし、そういう音楽は往々にして美しい(事も多い)。そこまでは純粋な音楽行為として自己完結している。本来は空気の中に消えてしまう運命だ。それはそれとして、その先の録音、編集、ミックス、マスタリングというプロセスにどこまで関わるのが健全なのか、過去数十年、作曲家として、音作りの最初から最後まで立ち会って暮らしていても、気持ちの整理がつかない部分がある。

思えばDAWが普及するまでは、作曲家業もシンプルだった。脳内で響く音をスコアに書き起こし、写譜屋さんに渡し、インペグ屋さんに手配を頼み、スタジオに入ってマルチトラックに録って、ミックスをエンジニアに任せたら、形がつくまで遊びに行って、帰ってから要望をぶつけ、バトルの末2chに落とす。マスタリングスタジオに戦いの場を移して、また慣れない環境にたじろぎながら最終形に仕上げる。これで良かった・・・・あれ?書くと充分大変だな。

ところが今はどうだろう? Come on Musicの時代からシークエンス・ソフトには馴染んできたから、曲を書くところまでは大差無いにしても、自宅スタジオに各種機材を取り揃え、本番さながらのデモを制作し、譜面ソフトでスコアとパート譜を起こし、キャスティングを練り、スケジュール調整の電話をかけ、マイクをセッティングし、入力レベルやヘッドフォンレベルの調整をしながら自力で録音する。お茶も出す。終わればケーブルも巻くし、ギャラも払う。自宅スタジオで事足りない場合は外部スタジオに移動して録音し、録り終えるやいなや編集を始め、バーチャルなエフェクターを使いつつ、プリミックスに納得いくまで時間をかけて、これ以上は無理というところに来てやっとエンジニアに渡す・・・・・。

そして時には共演したいアーティストが住んでいる国まで、このセットをモバイル化させて移動する事がある。つまり設備を含め「空気の振動に取り憑かれた人々」がやるべきことのほとんどを自力で負う時代になってしまった。いやはや、これはやり過ぎでしょう?もっと音楽本体、本来の音楽に時間を割くべきだという気持ちが強くなって来ている。

でもそうは言っても、実は最初から最後まで自分でやりたい性格なのだ。ある意味相当楽しめる時代が来たわけなんだけど、職人領域がバーチャル+シミュレーション可になっちゃったり、デジタル最先端なほどアナログ再現に走っていたり、(なんだかんだ言って、昔の人は偉かったのね・・・・どうして単にアナログに戻らないんだろう?) またまた気持ちの整理が難しい状況が繰り広げられているのだ。

そうして出来上がった音を耳に伝える最後の端末がスピーカーだ。なんだか強引に本題に近づいて来た。そのスピーカーに、こんなにも個体差があるのか、という問題がいつも僕を悩ませていた。ここ4年ばかり住んでいるパリという街は、音響に関する意識が総じて低く、多くのスタジオのモニターは調整不十分だし、ホールやクラブの音響もかなり劣悪だと言える。(色んな国で仕事をしてきて感じる事を、お叱りを恐れずに言わせて頂ければ、音響への意識は英語圏+ドイツ語圏の方が、他の言語圏よりはるかに進んでいると思う)実際に聞こえてしまうものから、何かを足し算、引き算して聞く習慣なんてつけたくは無いけれど、そんな環境の中、仕事先にあるスピーカーに自分の耳を慣らす必要があるのだ。

脚色の無い音が耳に留まった。

そんなフランスで唯一心から信頼できるエンジニアPhilippe AvrilがPMCをメインのモニターとして使っていた。そして今年の夏、久々に訪れたサイデラ・マスタリングでも、メインモニターは同型のPMCだった。その時オノ・セイゲンが、そのPMCと切り替えてリファレンスしていた素敵なフォルムの小型スピーカーが目に留まり、そしてその分解能に優れた脚色の無い音が耳に留まった。プラグインで付加したコンプやEQの人工的な音は、はっきりと人工的に聞こえてくる。位相特性も素晴らしくて、こいつは信頼できるかも・・・ふーん、こんな音がするスピーカーがあるんだ、というのが最初の印象。サイデラでのマスタリングは足掛け5日くらいで終わってしまったし、パリではまだEclipseを見かけた事がなかったので、しばらく使う機会も無いかなぁと思っていたら、幸運にもイギリス支部から現物が送られて来た。

使ってみると場所は変われど最初の印象は変わらない。やはりプラグインで加工した音がやはり妙に人工的に聞こえてしまう、それはまさに、このスピーカーの再現性の高さに他ならないのだが、今後ミックスの方法論が変わってしまいそう・・・ちょっと悩ましい。今後スタンドの付いたタイプもメインモニターとして試してみたいし、ライブパフォーマンスにも使ってみたいと思っている。新たなモチベーションを沢山くれそうな興味深いスピーカーだ。

最後に個人的な要望を言わせて頂ければ、ボリュームを一定にした状況で、他のスピーカーと聞き比べる場合を想定して、アンプ部の電源スイッチとボリュームは分けて欲しい。少なくともミュートスイッチがあるとか。ボリュームの目盛りも明らかに固定できるような表示にして欲しい。入力感度もスタジオユーズ・バージョンを作って欲しい。あとはスピーカー部の洗練されたフォルムに対して、アンプ部のデザインが周囲から突出しすぎる気がする。勝手言ってすみません。

Stolen from strangers
2007年発売 2,940円(税込)

「これは異邦人による、異邦人のためのマジカルオーディオムービーだ!」2008年にヨーロッパ各国で「年間ベストアルバム」に輝いた、13枚目のソロアルバム。Paris, New York, Sofia, Tokyoを舞台に、登場人物をリレーして繰り広げられる、壮大な叙情詩。
(参加アーティスト)
アート・リンゼイ、ヴィニシウス・カントゥアーリア、ピーター・シェラー、アルチュール・アッシュ、サンセヴェリーノ、ブルガリアン・ヴォイス、ブルガリアン・シンフォニック・オーケストラ、ダファー・ユーセフ、村川聡、山木秀夫、渡辺等、宮本大路、伊丹雅博、etc

Vollmond / music from the dance theater of Pina Bausch
2009年発売 4,200円(税込)

既成のジャンルを超越した 新しい身体表現、舞台表現を生みつづけた、ピナ・バウシュ。 ヴッパタール舞踊団の芸術監督として、 1999年以来活躍しつづけた彼女の作品には、 言語中枢を超えて直接心を揺さぶる力がある。 その作品群のためにセレクトされた楽曲選択のセンスも、 長年観客の関心の的であった。 Vollmond(フルムーン)は、あらゆる生き物にめぐみを与える 水をテーマに、水に宿る霊性を表現した作品。 各シーンを彩る個性的な楽曲を収録したサウンドトラックは、 舞台上のビジュアルと同様既成のジャンルを超越した素晴らしいものばかり、 劇場での感動をそのままリスナーに伝えてくれるに違いない三宅 純プロデュース作品。
(参加アーティスト)
バラネスク・カルテット、アモン・トビン、アート・リンゼイ、三宅純、ルネ・オーブリー、ネナッド・イェリック、スブリーム、etc

Ludic’ / Sublime et Jun Miyake
2008年発売 2,940円(税込)

東京を拠点に活動するフランス人歌手スブリームのアルバム『Ludic'』は、パリを拠点に世界的に活躍する作曲家、三宅純とのコラボレーションから生まれた。2都市間を漂流する2人の異邦人、2つの自由な魂の邂逅は、信じられないほどカラフルで、洗練された音楽に結晶した!
(参加アーティスト)
ヴィニシウス・カントゥアーリア、ピーター・シェラー、山木秀夫、村上秀一、渡辺等、高橋ゲタ夫、宮本大路、佐山雅博、伊丹雅博、窪田晴男、etc

中国の不思議な役人
2009年発売 2,625円(税込)

32年ぶりに再演された、言葉の錬金術師、寺山修司の愛と再生の物語。全曲書き降ろしによる衝撃の舞台のサウンドトラック。 (参加アーティスト) ブルガリアン・ヴォイス、ダファー・ユーセフ、デヴィッド・クルター、渡辺等、宮本大路、スティーブ・エトウ、伊丹雅博、山口とも、etc

●三宅 純ブログパーツ
「Jun Miyake Music Player」のご案内

2009年11月より三宅純ウェブサイトよりオリジナルブログパーツの配布を開始しています。三宅純の音楽世界をPC上で楽しんで頂ける、ミュージックプレーヤーです。

・About「Jun Miyake Music Player」

最新オリジナルアルバム[Stolen from strangers](2007)、[The Miraculous Mandarin](舞台:中国の不思議な役人)(2009)からデビュー作[JUNE NIGHT LOVE] (1983)まで、ソロでの作品からサウンドトラック、プロデュース作品、CM音楽として提供したものなど、今までの作品の中から21タイトル(09年10月現在)各4〜6曲ずつ全122曲を視聴できます。

すでに入手困難なアルバムもラインナップ。各曲フルレングスで聞くことができ、三宅純の世界を PC上で体感できるパーツです。

profile

三宅 純 (作曲家、編曲家、演奏家)

日野皓正に見出され、バークリー音楽大学に学び、ジャズミュージシャンとして活動開始、時代の盲点を突いたアーティスト活動の傍ら作曲家として頭角を現し、CM、映画、アニメ、ドキュメンタリー、コンテンポラリーダンス等多くの作品に関わる。

2500作を優に超えるCM作品の中にはカンヌ国際映画祭, デジタルメディア・グランプリ等での受賞作も多数。'96年にはハリウッドのCreative Artists Agencyと作曲家として正式契約。ピナ・バウシュ、ロバート・ウィルソン、フィリップ・ドゥクフレ、オリバー・ストーン、ジャン・ポール・グード、大友克洋らの作品に参加し、異種交配を多用した個性的なサウンドは国際的賞賛を受けている。

ジャンルを超越した活動を通じてハル・ウィルナー、アート・リンゼイ、デヴィッド・バーン、グレース・ジョーンズ、アルチュール・H、ヴィニシウス・カントゥアーリア等、音楽家とのコラボレーションも多い。'05年秋よりパリに拠点を設け、精力的に活動中。最新アルバム“Stolen from strangers”はフランス、ドイツの音楽誌で「年間ベストアルバム」「音楽批評家大賞」などを受賞。ギャラリーラファイエット・オムの「2009年の男」にも選出された。