PCオーディオとタイムドメイン
小原由夫のサイト・アンド・サウンド 特別版

始めに聴いたのは、主力モデルのTD508II。棚の上でもフロアースタンドでもどちらでもいけるサイズで、TDスピーカーの現行ラインナップの中では、価格も含めて最もバランスのとれたパフォーマンスのモデルと思う。

くっきりとしたヴォーカルの音像定位は、フルレンジ1基と卵型エンクロージャーの特色を表している。その上で、伴奏との距離感やアコースティックな響きの素直さ、自然さも好ましい。音として非常にリアルなのだが、誇張感や強調感が一切なく、自然な鮮度感や空気感が感じられる点が、PC/ネットワークオーディオの再生の醍醐味であり、TDスピーカーはそれを脚色することなくストレートに再現してくれるのだ。

米リファレンス・レコーディングスの176.4kHz/24ビット音源「レスピーギ/ローマの松」では、第1楽章のきらびやかなリズムがまさしく煌めきながら飛散するかのよう。ハーモニーの柔らかさとしなやかさは、ハイレゾ音源ならではだ。その立体的な広がり、スケール感は、たかだか口径8cmのフルレンジスピーカーが鳴っているとは信じがたい。「グランドアンカー」など、振動を巧みに排除する構造の賜物だろう。

最も小さなTD307IIは、さすがに大音量でのヘヴィーな低音は望めないが、常識的な範囲のボリュウムならば、十分な低音を伴った音楽鑑賞が楽しめる。さらに私が感心したのは、ピンポイントに定位する音像と、フワッと広がる3次元的な響き、そして鮮明なステレオイメージだ。これぞ小型ならではの恩恵。デスクトップでシンプルなシステムを組めば、眼前にリアルなステージが浮かび上がることだろう。ハイレゾ音源ならば、その深々とした奥行き感も聴きどころとなる。

TD510は、TD508IIに比べて音楽のボトムの安定感があり、TD307IIで難しかった低音の量感も 期待できる。HQM/クリプトンから高音質配信されている「UNAMAS JAZZ」の96kHz/24ビット音源「原大力&His Friends Vol.1」を聴くと、ライヴならではのテンションの張った空気感が味わえる。ピアノやベースのリアルなトーンや微細な響きのニュアンス、ブラシのタッチの違いによるドラムスの多彩な音色など、生々しい臨場感と共に楽器の繊細な質感が楽しめるのがハイレゾ音源ならではだが、TD510はそうした音を丁寧に空間にレイアウトしていくような感覚があり、パノラミックな音場感が楽しめるのだ。

TD712zMK2の再生音は、それを一段と高密度にしたような印象。つまり、あたかもその演奏現場にタイムスリップしたかのような生々しい空気感、音の波動を感じるのである。「ローマの松」も同様で、目を閉じて聴いていると、精巧なミニチュアのオーケストラが整然と並んだ様子が思い浮かび、幾層にも重なったジオラマ的なステレオイメージの音場感が展開する。しかも最上級モデルだけあって、音場のスケール感に雄大さが、響きには荘厳さがある。初代機に対してスピーカーユニットに改良が施され、エンクロージャー容積も50%アップとなったことが効いているのだろう。

TDスピーカー現行全モデルをこうして一度に体験して実感したことは、周波数レンジ感や情報量でモデル毎に多少の違いこそあれ、音色の自然さとステレオイメージの立体的再現はどれもしっかりしている。それは4モデルすべてに共通、統一されているのだ。マスターテープを彷彿とさせる、限りなくスタジオクォリティに近いハイレゾ音源の特質を十二分に再現するうえで、TDスピーカーのそうしたファクターがプラスに作用することは間違いない。